全ての終わりが始まる前に

「最近気がついた。嫌悪感を滾らせる役には立つね、君は。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 ……chronicle 2ndを聴いていると、もっこすでのチャット、旅烏様との会話、鋼の錬金術師を勧められたこと、いろいろ思い出します……。
 
 まさかあのときは自分が書の魔獣に、黒き運命の紡ぎ手に、六対の翼持つ悪魔に、それを打ち倒す雷神になるとは、
 
 ……思いもよりませなんだ……。
 
 
 物心ついたとき 母は既にいなかった
 
 
 生まれてくる前に 父も既にいなかった
 
 
 違う神を抱いて 生まれて来た僕らも今は 同じ世界に抱かれてる それなのにそれなのに
 
 
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 ホーリィ
 
 奈良県の山間部。
 開けた野にて、その二体は対峙していた。
 
 一方は、白い服を着た長身の男。
 朗らかに笑い、歩を進める。
 彼の後ろには、肉眼でも見えるほどの量の怨霊が縋りついており、
 濃密な霊気が気温を著しく下げていた。
 吐かれる度、息は白く凍て付いて煙る。
 一歩進むごとに、ぱり、ぱり、と霜を踏み分ける音がする。
 それでも彼は笑っていた。
 筧次郎は笑っていた。
 
 もう一方は、白地に青い服を着た少女。
 灰色の髪、青い瞳。両腕を覆う銀色のガントレット。
 籠手の節々、服の裾、スカートの中から、
 タールのような黒い闇が流れ落ち赤い炎を上げている。
 目からは白煙、吐く息は黒煙。
 燃え盛る怒りと憎悪を溢れさせながらも、
 その顔は氷のように冷徹だった。
 
 次郎が駆ける。
 まるで時が凍て付いたかのように、全ての風景を置き去りにして。
 
 小鳩が構える。
 俄かに闇が膨張し、有り余る熱量が大気を焼きつくして。
 
 
 「ほどほどになされませよ。」
 「お黙りなさい。」
 
 丘・敬次郎が膝を立て頭を垂れるのは、
 布団に横たわる女首領、筧・小鳩。
 両手片足、顎と胸板にギプスを嵌めた彼女が薄氷色の瞳で敬次郎を見据える。
 
 「……。」
 「封じ込めるだけのアイソトニックでは、鍛えられない力もあるのでね。」
 
 世界を滅ぼす力を育てねばならないことと、それを覆い隠さねばならないことの矛盾。
 筧・小鳩はその二つは、「力を抑え込むのに力を使う」ことで両立させていた。
 
 『死して生きる悪意』
 『あらゆる邪悪』
 『光を産んだ闇』
 『神の意志』
 『人工の地獄』
 『月の裏側の魔王』
 
 筧・小鳩が辿り着いた、無尽蔵の力の源。
 
 「だが、まだまだ。
  そも、この力を極めても、わたくしはヒト一人に勝てぬ。」
 「どういう意味ですか。」
 
 小鳩は包帯の下でにんまりと笑った。その問いを待っていた、と言わんばかりに。
 
 「ヒトは、悪魔よりよほど悪辣だ。」
 
 
 
 「ですって。」
 「へえ。」
 
 屋上にて、オスワリ・ゴンスケと丘・敬次郎は、空を眺めていた。
 
 「分かる気もしますな。
  だが、ヒトの意思は我ら能力者の身としては関わるべからざること。」
 「正にその通り♪
  しかし、そのように心では納得できないほどには、人の悪は目に余る。」
 
 ゴンスケが丘の顔を見る。
 微かに眉を顰めた笑顔は、ツーテールにした髪型も合わせ、
 少女のそれのような儚さと悲しさを伴って見えた。
 愛嬌はとても及ばないが。
 
 「それでも、それは人が解決することだと。」
 「ふむ。」
 
 丘がナイフを取り出しくるくると回す。
 ゴンスケはそれを咎めることも無く耳をそばだてる。
 
 「ゴーストは人を殺します。それが大きな問題であることに異論は無い。
  しかしながら、人間が人間を食らっているという問題も同時に存在していて、
  そちらの方が被害者も多く、根も深く、除き難い。
  ……それでも尚、それは『人間』の問題なのだ。
  ヒトが解決するべき問題なんだ。
  能力者が膂力で悪を退治したとしても、それは誰からも支持を得られない独善に他ならぬ、と。」
 「上に立つ方の思慮は深いものですな。」
 
 ゴンスケは懐から菓子を取り出すと、ポリポリと齧った。
 丘が差し出す手に、その焼き菓子を渡す。
 
 どうも。
 いえいえ。
 
 いかがです。
 いえいえ。
 
 丘が差し出したショートピースを、ゴンスケはジェスチュアで断った。
 飲酒と喫煙は能力者の異能を損なう要素である。
 ゴンスケが断ったのは寧ろ倫理的側面の方が強いが、丘はどこ吹く風と火をつけ吹かした。
 咳き込む。
 
 「おやめになった方が。」
 「そうですね。」
 
 応えつつ煙草を口にくわえる。
 
 「ゴーンスキィ様、あなたは今でも、兵卒であらせられるか。」
 「ええ。僕は只の一人の兵であります。」
 「誰の。」
 「無論。」
 
 銀誓館の、であります。
 
 ゴンスケの顔が、自信を帯びて笑った。
 
 「そうですか。」
 「丘先輩は、やはり『お屋形様』でありますか?」
 「うーん。」
 「?」
 
 ゴンスケが子犬のような目で見上げる中、
 丘は煙草を捻じって消すと、横に置いてあったペットボトルの水を口に含んだ。
 うがいをして屋上の側溝に吐きだす。
 
 「うえー、のどが痛い。」
 「だからやめておいた方が良いと。」
 「忍者は、『雇い主の』忍者なんですよね。」
 
 そう言って、吸殻を水刃手裏剣に乗せてフェンスの向こうへ飛ばした。
 
 「あーらら。」
 「『お屋形様』は確かに絶対の君主ですが、
  本来なら『お屋形様』からの勅命ってあるべきではないんです。
  命を果たしても金になりませんし。」
 「確かに。」
 「やっぱりそこらへんにねじれがあると言いますか。
  僕自身が結構特殊な立場なものですから、勅命を受けるのは仕方がないんですが……
  それは忍者か、と言われると、はいとは、胸を張っては言えない。」
 「ふむ……。」
 
 顎を支えつつ、懐から更に菓子を取り出しパリポリ。
 丘もそれをひょいとつまんで、ひとしきり食べ切ってから言葉を続ける。
 
 「おかしいな、と思う都度に、
  『命令を果たすのが忍び』と言い聞かせてはいます、自分に。
  ただ、モチベーションは上がらなくなってはきてますね。」
 「一度脱サラでもされたらいかがです?」
 「いいですね!ちょうどラーメンの研究もしてたところですし。」
 「高校生ラーメン!」
 「キムチをたっぷり入れてね!」
 「え、あのディアボロスを?!
  だめですよそれは、何をどうやったって悪魔味になってしまう!」
 
 ゲラゲラ。
 
 「……つまらないんですよねえ。」
 「命令に、面白いもつまらないもありません。」
 「命令を果たすことは面白いことです。でした。
  間違いなくね。忍者としての個々の仕事は相変わらず楽しいんですよ。
  でも、僕は。能力者だ。
  あの銀誓館のお人よしにのっかってしまう、
  あの銀誓館の無慈悲さにのっからなければいけない、
  学生だ。
  これは誰の命令ですか。
  誰の利益になるんですか。
  誰に忠誠を誓うべきなんですか。
  どうして他人の優しさを担保するために、人を救わなきゃいけない。」
 「それ以上言ったら。」
 
 ゴンスケが、小さく鋭い声で制した。
 
 「先輩は、能力者ですら、なくなります。」
 「……ふっふっ♪」
 
 丘は二本目のピースに火をつけようとしたが。
 しばらく考えて、ライターを遠く投げ捨ててしまった。
 
 
 
 
 
 
 以上。」
  
 
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