何かをしなくては

 「誰よりも踏みにじりたがっているのは、お前ではないのか。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 黒銀の禍(まが)り狗
 
 洗面所にて、眉毛に塗った脱色クリームを洗い落とす。
 毛根付近の毛はまだ茶色になった程度で、後三回は同じ工程を繰り返さなければいつもの灰色にならない。
 
 鳥越・九(いちじく)はタオルで顔を拭うと、チューブから再びクリームを絞り眉に塗った。
 
 忍者の里『瑠璃』の幹部である彼女は、
 生来から灰色髪の『お屋形様』にあやかるため、
 髪と眉を灰色に維持することが義務付けられている。
 
 くだらないことを、と彼女は思ったが、
 「同一性はまず、外見から定義されるものです。」
 と言われ、渋々従っている。元より『お屋形様』に抗うという選択は彼女には無い。
 
 度重なるブリーチで、無残なまでに傷んだ鳥越の髪は、ワックスで固めでもしなければ見れたものではない。
 短く刈った上でオールバックにしているのは、多少でも見栄えを良くするためだ。
 
 「……。」
 
 ブリーチ完了まで7分。
 テレビを見つめていても内容が頭に入ってこない。
 
 これからずっと、こんなことを続けるのか?
 今はまだ若いから、まだ毛が荒れるだけで済んでいるけれど。
 進学して、歳を取って、それからも髪の色を抜き続けるの?
 
 同級生がOLや妻になっていく中、わたしはまだ灰色の髪を維持して、短く刈って。
 もしかしたら禿げるかもしれない。
 それでも、その先もずっと。
 
 「あー。」
 意味の無い声を漏らす。
 あの時、あいつに攫われさえしなければ、わたしはもっと普通でいられたのに。
 
 時間だ。再び洗面台に立ち、クリームを丁寧に洗い落とす。
 指に触れる毛の感触が如何にも荒く、また小さくため息をつく。
 
 
 
 髪に薄くワックスを塗り、指で後ろへ流す。アイスブルーのカラーコンタクトレンズを瞳に張りつける。
 上着のポケットに財布を突っ込んで、鳥越は部屋を出た。
 
 
 鎌倉市二階堂瑞泉寺付近。
 山と言うには人の手が入り過ぎているが、牙道忍者の修行にはまだ使えるレベル。
 人の近寄らぬ森を踏み分け、周囲に気配の無いのを確認すると、鳥越は財布から一枚のカードを取り出した。
 
 「イグニッション!」
 
 激亀忍者伝
 
 百目の衣服が彼女を包む。
 能力者としての力を解放し、四肢に気力がみなぎる。
 
 地を蹴る。
 木の枝に足をかけ、そのまま脚力だけで飛び回る。
 『全ての基礎は足腰』。
 『お屋形様』のその言葉を守り、脚にかかる負担を意識しつつ体を動かす。
 猿のように軽やかに、音も無く。雑音を生み出す衝撃を、筋肉と関節で吸収しながら。
 
 木の枝に絡み、一際高く跳ぶ。
 
 トンファー型の詠唱兵器『玄武短棍 レオナルド』を腰から抜き、一直線に振り下ろす。
 
 砕けて散ったのは、黒髪をツーテールに結った男の姿。
 霧に映った幻が消え、その一歩後ろに実体……丘・敬次郎が立つ。
 
 「遅かったですね。」
 
 こいつがわたしを攫った。
 こいつがわたしの体を弄んだ。
 こいつがわたしを
 こいつがわたしの
 
 「……何用ですか。」
 
 燃え盛る憎悪を、くぐもった一言に押し込んだ。
 丘は舌を出して笑う。
 
 笑うな。
 お前さえ。
 お前さえいなければ。
 
 「後輩の様子を見に来ては、いけませんか。」
 「いえ。しかし、ご自分の任務はよろしいのですか。」
 「あなたに心配されるほど落ちぶれていません♪」
 「……そうですか。」
 「そうです♪」
 
 上目づかいで睨む目線もどこ吹く風と、丘はおどけた。
 
 「元気そうでなによりです。
  では僕は行きますので。」
 「はい。」
 
 丘が背を向け、去っていく。
 鳥越はただ、それを見送った。
 
 丘は振り返らない。
 鳥越は目をそらさない。
 
 「……♪」
 
 いい、犬になった。
 
 丘がそうほくそ笑むのさえ、今の鳥越には背中を透かして見ることができたのだ。
 
 
 
 以上。」

 
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