天気雨の中で

 「蛆虫の死骸野郎め。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 もう襲う。
 
――もし目の前に神が現れたとしたら、僕はこういうでしょう。
――「人を脅かすゴーストめ、死ね。」と。
 
 筧・小鳩が、黒い粘液で出来た巨大な塊の上に上半身を覗かせている。
 彼女の両腕は、銀に輝く暴君龍の形をしていた。
 
 「丘よ。」
 
 彼女が目の前の少年――丘・敬次郎――に言うと、
 粘体が蠢き、彼を招くように洞穴を形成した。
 
 「来なさい。」
 「は。」
 
 夜よりも暗い穴の中へ、丘は歩を進める。
 ほどなくして入口が塞がり、視界は闇に覆われた。
 
 何も無い空間。
 
 突如、全方位から絶叫が聞こえた。
 
 「!」
 
 手足を何かに掴まれる。
 首を絞められる。
 悪臭のする液体を浴びせられ、
 五体を切り刻まれ、
 焼かれ、凍らされ、腐る。
 
 叫ぼうにも喉が詰まり肺が埋まる。
 脳裏に浮かぶのは数多の意識。
 苦痛に死んだ人々の記憶、怒り、妬み、誇り、恨む人間の思い。
 
 動かぬ肉体は苦痛を紛らわせることもできない。
 
 「それでも人の智恵と勇気は、この地獄を殺してくれると信じているのですよ。」
 
 落とし子を孕みなおしながら、小鳩はそう言って、優しく笑んだ。
 
 
――あなたの力は確かにすばらしい。魅力的だ。
――しかし我々が処断するのは力ではなく、それを無闇に扱う馬鹿です。
――呪うなら、あなたがあなたらしく生きてしまった人生を呪いなさい。
 
 「あらかた片付きましたか。
  残念ながら、ゲリラと局所戦は魔皇の十八番でしてね。
  戦術単位であれば、万に一つもあなた方に勝機はありません。
  ……本当は、断言などしたくないのですがね。
  まあ、問題は無い。
  僕ら悪魔が出来るのは、所詮局地戦の部分的勝利だけ。
  最終的な勝利など、初めから僕たちにはなく、
  あなた方にも敗北は無い。
  何故なら……。
  ……何故だと思いますか? 
  ふふふ。
  どうしました、来たらどうです。
  この筧・次郎と正面から戦うチャンスが来たんですよ?
  あなた方には僕を倒す理由がある。
  躊躇している暇は無いでしょう。
  人間的な感情に囚われていられるほど純真でも無垢でもありますまい、ケダモノ共♪
 
  そう、ケダモノの戦いの次元においては。
  単純なケダモノとしての力量で勝負が決まる。
  僕が局地戦であなた方に勝てるのは、
  僕もあなた方も、神の獣に過ぎないからです。
  ……いいから来なさい。がむしゃらに全力で感情を表現し、生を勝ち取りに来なさい♪
 
  あなた方には最終的な敗北は無いと言いましたが、
  あなた方の勝利は、あなた方の喜びとは無関係の代物なのだから。」
 
 
――抱きしめてしまったら、もう「俺のものだ渡したくない」と思ってしまう。
――ですから、手は出さずに居させてもらうつもりなんです。
――しかしお屋形様は、「なればこそ抱き締めろ」と言うでしょうね。
 
 「ふう、ふぅ、ふぅ……。
  見事、お見事です……!」
 「何を呆けているんです!
  まだ闇を切り離しただけ……!
  あれは!あれはまだ、『筧・小鳩』なんですよ!?」
 地獄を粉砕された彼女は、それでも強く笑んで。
 地に広く脚を開き、銀色の拳を構えた。
 氷のように冷たく、痛みさえ感じるほどの闘気が張り詰める。
 
 
 「ああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
 「……!!」
 
 彼の体から、彼の形をした闇が切り離されていく。
 同じ時間軸に『己』は唯一、という理を破り、彼が、『増える』。
 角が生え羽が生え腕が生え脚が生え尾が生え、刃と鈍器と銃器が現れる。
 生き意地さえ捨て、悪魔が悪魔に、成り果てる。
 膝が落ち、涙と鼻水があふれ、失禁する。それでも地を這い、震える歯の根で彼女が告げる。
 「……僭越ながら……僕(やつがれ)、参ります……。」
 
 
 
 
 
 
 
 以上。」 
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