千匹皮の奇獣

 「説得力は、実績でもハッタリでもなく、ただ心に響くものです。
 お前如きにそんなことができる智恵も経験もあるはずはないし、あるなどと認めない。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 聖戦のリアイベ―争いの系譜
 
 「わたくしの前に立つのは、あなたでしたか。鳥越・九(いちじく)。」
 
 見下ろす筧・小鳩は、変わり果てていても、尚正しく筧・小鳩でしかなかった。
 
 「はい。僕(やつがれ)が参りました。」
 
 鳥越が膝をつき頭を垂れる。
 
 目の前にあるのは暗黒の球体。
 絶えず沸き立ち、怨嗟と苦難の声を漏らす情念。
 人の顔が、手が、足が、内臓が、内から沸いては沈んでいく。
 そのはるか頂点に、筧・小鳩の上半身が突き出ていた。
 
 「僕(やつがれ)が、あなたを斃(たお)しに参りました。」
 
 筧・小鳩に、生身の部分は欠片も残っていない。
 銀の竜の籠手。顔、手、脚、目。
 それらは皮膚の代わりに硝子のとなり、
 柔軟性の代わりに無数の罅が入っていた。
 
 「……来ませい♪」
 
 鳥越を見つめる暗黒に染まり切った瞳からは、とぷとぷと闇が溢れ、出来た筋はまるでからくり人形のよう。
 それでも彼女は彼女であることをやめていない。
 言葉は無用。ここに至って語れることなど一つも無い。
 語って意味のあることなど、一語も無い。
 
 「いざ。」
 
 鳥越が懐からイグニッションカードを取り出し、破った。
 彼女の体が光り輝く。
 張り裂けるような能力者のポテンシャルの痛みに体をこわばらせつつ、鳥越・九が鳥越・九そのものになっていく。
 
 「……ほう。」
 
 小鳩も思わず息を漏らした。
 
 鳥越の姿は、醜悪なキマイラ。
 頑丈な亀甲を背負い、体は禽獣の頭部に包まれ、長い白蛇が螺旋に絡む。
 甲羅から皮に至るまで、余すところなく目が付いており、全方位を睨む。
 手には、黒いトンファー一本。
 
 「それがあなたか。」
 「これが、僕(やつがれ)です。」
 
 鳥越が駈けた。
 闇の粘液が溶けて伸び、手を生やす。
 
――――牙道大手裏剣秘儀・壱獣一切(いちじゅういっさい)!
 
 野獣のオーラが闇に着弾し炸裂する。
 その勢いを脚に借り、鳥越が闇を上って行く。
 小鳩が両腕を伸ばし、双竜が鳥越に向かって口を開いた。
 
――――龍撃砲秘儀・龍幻非護(りゅうげんひご)!
 
 白く太い筒が現れたようだった。
 光のパイプが空気を劈き、己を為す闇すら蒸発させる。
 光が消えた後に、鳥越の姿はなかった。
 左右と空を見渡すも、気配が無い。
 
 消滅したか。
 
――何と興ざめな
――いやまだだ、まだのはずだ
 
 小鳩の思考に失望と希望が同時に現れる。
 果たして。
 
――――インパクト・究極形、凶剥貫燃(きょうはくかんねん)!
 
 鳥越は小鳩の失望を裏切った。
 闇の中から小鳩の腹へ、トンファーの柄が突き出し刺さる。
 
――闇の中を掘って来たのか、なんという力技!
 
 体を走る衝撃に、小鳩は血を吐く。
 同時、闇が沸騰し鳥越が姿を現した。
 装備に張り付いた目が、全て小鳩を睨んでいた。
 無論、鳥越自身の目も。
 
 空に浮いた鳥越が小鳩を見下ろす。
 彼女の腕に、禽獣の群れと得物のトンファーが砕けて集結し。
 
――――デッドエンド・究極形、火木終零(びもくしゅうれい)!
 
 巨大な鋼の拳が振り下ろされた。
 小鳩の肉体が闇の中へ深く深く打ち込まれる。
 
 「……乾坤一擲は、忍の美学に非ずと、教えたでしょう。」
 
 小鳩の体が鋼の塊を押し上げて浮き上がる。
 交差された銀の両腕が、鳥越の攻撃を受け止めていた。
 鳥越は怯まない。
 拳を引き、地を、闇を踏みしめ、鋼の拳を今度は真っ直ぐ突き込む。
 
 
 鳥越の右腕が、詠唱銀の欠片になり、散った。
 小鳩の左拳が鳥越の最終攻撃を突き崩していた。
 
 「あああああああっ!!!」
 
 血飛沫に悶える鳥越。
 
――――爆水掌・秘儀、河神衝反(がしんしょうたん)。
 
 余韻も許さず、鳥越の胸に小鳩の右手が振り下ろされた。
 練り込まれた水分エネルギーが鳥越の中で炸裂を繰り返し、彼女の体を闇の麓へ叩きつけた。
 
 「あああああああ……!!」
 
 呼吸もままならぬほどの吐血喀血。
 びくりびくりと震え、鳥越の体から力が抜けていく。
 
 「未熟者め。」
 
 大きくないはずの小鳩の声が、よく通って聞こえた。
 手足が動かない。起き上がるなどとんでもない。
 闘わなければならないのはわかっている。
 けれど、物理破壊の絶対が鳥越に立ちはだかる。
 
 血を吐きながらも呼吸だけは整え、忍獣気身法を為す。
 砕けた腕が戻り、胸も幾分楽になった。
 
 脚は立たないが、寝たままだが、応答しなければ。
 あの龍王に。
 
 「……あなたはいつか打ち倒されるでしょう。
 それは今ではないかもしれないし、僕(やつがれ)にでもないかもしれません。
 しかしそれは……わたしが持ち場を離れる理由にはなりません。」
 
 小鳩は、心の底から満足げに笑んだ。
 
 「だからこそ、わたくしはあなたに期待した。」
 
 白い光が、今度こそ完璧に彼女の命を吹き消した。
 
 以上。」
 
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