エンディングのルフラン

 「変身して元に戻れなくなれ。無論怪人側で。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……?
 
 うつしよを眠り夢に目覚めよ
 
 住宅街。あるいはビル街。
 日本、あるいは中国、中東、欧州。
 人通り多き筈の人無き街並み。
 それが、彼らが迷い込んだ特殊空間だった。
 数百人単位でバラバラに別の特殊空間に入れられたようだが、
 通信も途絶しその状況を知る術も無い。
 銀誓館の生徒達はできる限り結束して移動していたが、
 一人はぐれれば一人で倒れ、二人ではぐれれば二人で倒れ、三人で固まれば三人で倒れる。
 
 ある者は首を切られ、ある者は胸に穴を空けられ、またある者は頭部を砕かれていた。
 何を武器にしているのかすら、わからない。
 
 寄り添い合いながら、ただ見えぬ敵に警戒するばかりだった。
 突如、空間が揺らぐ。ビルが消え、街が消え、景色が蜃気楼のように溶けて崩れる。
 生徒達が一堂に会したのは高層ビルの廃墟の中。
 嘗て九龍城と呼ばれた、大陸の悪の居城。
 
 「ひっ!」
 
 角から、影から、排水溝から、足の下から。
 蛇や蠍や名も知らぬ蟲が這い出して来た。
 どれもこれも真白い。
 踏みつぶそうとした者もいたが、びくともしない。
 足から伝わる鉛のような感触に弾かれ、驚く。
 
 蟲が、一か所へ行進する。集まり溶けて密度を増し、やがてそれは、人の形を為す。
 
 「やあやあ、こんにちは♪
  今世紀最後にして最高の紳士、
  悩める淑女と憂鬱マダムのパートナー♪
  筧次郎でございます♪」
 
 蛇蠍の塊は長身のモンゴロイドの形を為し、そう名乗った。
 生徒達が身構える。
 その様子に、【彼】は残念そうに笑った。
 
 「ノリが悪いな♪」
 
 直後、辺りに衝撃波が響き渡った。
 臓腑を貫かれ猛毒を撃たれた戦士たちがバタバタと倒れる。

 背後に立たれたことさえ、誰一人気付かないまま。
 一瞬のうちに彼の手は百人の急所を、丁寧に抜いた。
 
――――白虎絶命拳偽技・白蠱毒(しろこどく)

 
 何が起こったのか、現状把握に注意を巡らす生徒を、
 【彼ら】がまた撃ち殺し捻り殺し叩き殺し刺し殺す。
 静かになった空間。そして【彼】はまた蟲に戻り、影に潜み姿を消す。
 
 殺戮する蛇蠍、伝説の掃除屋、時間を圧縮する悪鬼。
 白虎、筧・次郎。
 
 
 見渡す限りの山。
 深いと言うほどの森でもないが、まばらと言うには過ぎる林。
 覚えの無い場所に放りだされた生徒達は、やがて開けた平地にたどり着く。
 
 「ようこそ♪」
 
 灰色髪のツーテール、両手には恐竜を模した鋼鉄のリボルバーガントレット。
 そして背にはタールのような、燃え盛る闇の翼。
 その羽は視界に収まらないほど長く、その熱は大地が溶けるほど。
 
 「筧・小鳩!」
 
 名乗り進み出たクラッシャーの一団を、燃える翼が挟み込んだ。
 翼が再び開かれると彼らの姿は無く、翼に溶けこみ燃えていた。
 
 「貴様……!」
 「弱いのが、悪い。」
 
 怨嗟を切って捨て、小鳩は笑う。
 
 「来ませい。正義の味方よ。
  我ら悪党はいつでも。お前たちを待っていた。」
 
 両手の暴君龍を握りつぶし、小鳩が拳を構える。
 踏んだ震脚は、静かに、しかし深いクレーターを作った。
 小鳩の腕から、めきめきと筋肉を引き絞る音が響き渡る。
 
――――龍顎拳邪道手・暗黒業飛掌(あんこくごうひしょう)
 
 彼女の突き出した拳は闇色のオーラと化して長く伸び、
 遠く離れ治療を担当するバックアップまで届いた。
 後に残るのは血と肉の焼け焦げる臭いだけ。
 
 溶鉄の翼、地獄の拳士、空間を圧縮する龍王。
 朱雀、筧・小鳩。
 
 
 サーチャーの大半から連絡が途絶し、不審に思いながらも、
 生徒達は深奥に向かって進んでいた。
 
 妙な空だ。
 
 変わらぬ鎌倉の街並みにおいて只一つ、戦闘が始まる前から異変のあった空を生徒達は何度となく見上げていた。
 
 紺碧の空、白い雲。
 
 【奴ら】の襲撃予定が報告された時から、
 その空は、色合いは変えぬままゆらゆらと波のように揺らぐようになり、
 それは水平線の果てまで続いていた。
 強力な妖気が作り出す世界結界の揺らぎ?特殊空間?
 さまざまな憶測が流れるものの、結論は出ないまま。
 
 当初の予定通りの地点に生徒達は進む。
 何の障害も見られない。
 不審と言えば不審だが、当然と言えば当然でもある。
 何しろ、今回の戦闘の標的は、ゴーストを統べる異能者ではなく……。
 
 「霧影分身!」
 
 誰かの声が上がった方を見れば、白い霧の中に丘・敬次郎の姿が映っている。
 霧に映る彼の姿は、長いコートから六対の腕を伸ばし、手には潤沢な凶器を握っていた。
 散弾銃、対物ライフル、拳銃、ナイフ、鎖鎌。
 全方向にその牙を向けながら、丘は笑う。
 
 「せめて名前で呼んでくれませんかねえ?」
 「裏切り者にくれてやる義理はねえ!」
 
 撃ち込まれたフェニックスブロウに丘の体は文字通り霧散する。
 直後、勇敢な突進者の脳天を水の弾丸が貫いた。
 
 「!……まさか!」
 「ご名答♪多分ね。」
 
 コバルトブルーの空が大きく揺らめき、巨大な龍の姿となり地上へ突進する。
 
 「ですが、もう遅い♪」
 
 丘・敬次郎の幻が、霧の中で黒い髪を揺らして笑う。
 彼は戦闘が起こるずっと前から、水分を集めに集め、この鎌倉に丸ごと蓋をしていた。
 
 ここは始めから、丘・敬次郎の特殊空間になっていたのだ。
 
 「ここは僕のホームグラウンドです。
  水分とあらば、たった一滴の流血さえ僕の力になる。
  さあ、お前の場所を取り戻してみるがよろしい、できるものなら!!」
 
――――水刃手裏剣魔技・極大天裏龍(きょくだいてんりりゅう)
 
 空が渦巻き刃と化し、鎌倉中に降り注ぐ。その一つ一つに、丘・敬次郎の幻影を乗せて。
 
 「倒せ!罠だとしても、喰い破るしかない!」
 「正しい判断です♪」
 
 丘の幻影の一つに、能力者が飛びかかる。
 しかし勇敢な迎撃者の手足を丘の四本の手が握った。
 悔しげに睨む目に、まずは拳銃で穴をあける。
 
 「ぐあああ!」
 「僕は慈悲深いので。
  ご自分の臓腑を見るのは、お辛いでしょう?」
 
 言うが早いか、丘の握った刃物が能力者の肉体の上を滑る。
 腕が、脚が、腹が、胸が切り開かれていく。
 何をされているかわかる。しかし体は動かなくなっていく。
 腱を切られ、神経を切られ、肉体が止まる。構わず止まらぬのは丘のナイフ。
 
 やがて、解剖を完了した肉体を宙に投げると、龍の形をした水流が呑みこんだ。
 
 「あなた方の憎悪も嫌悪も全て呑みこみ、僕が叶えて差し上げます。
  どうぞ、次。遠慮なくいらっしゃい!」
 
 
 悪夢育ちのサイコパス、人体を愛し果てた霧影、時間を停止させる凶人。
 青龍・丘・敬次郎
 
 
 うっそうと茂るジャングル。
 ここが広大な特殊空間であることを銀誓館の有志達はすぐに理解した。
 虫が鳴き川が流れる。視界を木の葉が遮り、彼らの注意を喚起するが、一向に危機は訪れない。
 
 「そう構えることも御座いません。僕(やつがれ)はただ一人なれば。」
 
 先行していたサーチャー達が、その姿を見る。
 
 それは、獣の首、首、首。
 哺乳類の、節足類の、爬虫類の、魚類の、首。
 そして、その塊が背負う巨大な甲羅。絡みつく蛇は一際長く、自らの尾を噛んでいる。
 甲羅の首側についた首の一つが大きく口を開き、
 白髪の少女の頭が伸びて出でた。
 
 「ようこそ。」
 
 彼女がそう言った瞬間、木の節や葉の裏に無数の目玉が出現した。
 彼女の体を構成する首達は、直接対峙した能力者たちを余すところなく見ている。
 
 「そして、さようなら。」
 
 牙道大手裏剣が、ジャングルの中に大量に発生した。
 能力者の悲鳴が響くが、しかし、損傷は大きくない。
 
 「……やはりこの程度では動じませぬか。」
 
 牙道大手裏剣は、大技とは言え能力者のアビリティだ。
 大量に同時に発生させられたのは確かに脅威だが、
 元々アビリティ自体の命中精度が低い。
 威力も、圧倒的と言うほどではなかった。
 既に幾人かの能力者は真相を見いだし、身近な目玉を攻撃し始めている。
 
 「そうです。答えは簡単。
  僕(やつがれ)を倒しつくせばあなた方の勝ち。
  僕(やつがれ)を構成する十一万一千匹の獣を一体残さず殺しつくせば、あなた方の勝利でございます。」
 「十一万……?」
 
 ざわつきが広がる。
 
 「おっと今殺された分で十一万六百二十三、六百十二……、
  流石に凄まじい攻撃力ですね。
  無論、僕(やつがれ)も無抵抗ではございませんよ。」
 
――――デッドエンドと牙道大手裏剣異能融合の極み、ブラックハンティングダウン
 
 少女が睨んだ直線上に、大量の黒い影が現れ能力者たちに襲いかかった。
 影は不定形で、しかし力強い牙と爪を持つ闇で出来た獣たちである。
 反応しても遅い、一瞬先の行動は、先ほどまでの観察で既に承知済みだ。
 逃げる方へ、逃げる方へ追い込み、喰い殺す。
 これで、能力者と言う「獣」が十数体補充できた。
 
 
 ここは既に、彼女の狩り場。
 獲物が生きる術は、逃げ切るか、
 
 「うおおおお!」
 「てやああっ!」
 
 猟師の首を噛み千切るか。
 コンビネーションを組んで左右から来る能力者に、
 彼女……鳥越・九(いちじく)は、顔も向けず、亀を模したトンファーを掲げた。
 
 
 孤高の群獣、ヴェテランの千里眼、空間を停止させる魔獣。
 玄武・鳥越・九。
 
 
 決着はわかっている。
 いずれ正義は勝つだろう。
 いつものように正しく。
 いつものように厳格に。
 彼らは惨めに死ぬだろう。
 
 報いを受けるにふさわしい被害を残して。
 
 戦いはまだ、始まったばかりだ。
 
 
 以上。」

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