01

 「おさらば、お前が駄目すぎて私はこの世をギブアップする。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 数値
 
――――貴様は何だ。
――――何かすることに耐えられず、
――――何もしないことにも耐えられない。
――――確かに貴様はヒトだ。豊かに堕落したヒトだ。
――――だが、そんな貴様には私は倒せぬ。
  
 その女は、背が低く童顔で、少女に見えた。
 灰色の長い髪を、左右に結い垂らしている。
 白磁のような肌、青い瞳、表情の無い顔。
 両腕は肘から先が銀色の籠手に覆われ、
 ゆったりとした衣服の下から、鍛え上げた上半身が微かに浮かんで見えた。
 
 「……。」
 
 女は、名を筧・小鳩と言った。
 魔皇:筧・次郎の半身にして鍵。
 彼の悪魔の力を解放し、同時に制御するための鍵であった。
 そして、魔の鍵であるがゆえに彼女自身も魔であった。
 
 「……。」
 
 腰を低く沈め、正面に突きを放つ。
 音の壁をたやすく越えた拳は、周囲に激しい衝撃波を撒いた。
 
 「……。」
 
 主君たる筧次郎に教えられた殺しの手口は、数多い。
 ナイフ術、投擲術、銃器戦闘術、隠匿術、頓法。
 それでも、彼女が真に身につけることができたのは“これ”だけだ。
 
 「……。」
 
 目からとぷとぷと黒い液体が溢れだす。
 それは涙ではなく。
 両の青い目は、とっくに生身ではない物に入れ替えられていた。
 
 とぷとぷとぷ。
 ガラス玉のような二つの宝玉は、扉と鍵。
 月の裏側の魔王を呼び出し、悪意の淀みを開くメガリス。
 
 溢れた闇が、彼女を包み作り直す。
 
 この手よ届け。
 願いはただそれだけ。
 
 女はまた低く構え、拳を腰に溜めた。
 打ち出す。
 
 同時、地から生えた巨大な闇がシンクロして拳を伸ばし、前方の山を打ち砕いた。
 
 小鳩が、ふ、と笑う。
 
 これだ。これが欲しかった。
 威力はどうでもよい。世界を壊す力は既に手中にある。
 空間、大きさという物理だけが問題であった。
 
 音速で拳を放てるなら、
 その百倍の大きさの腕を手に入れたら、マッハ100の攻撃となる。
 千倍の大きさなら速度も千倍に。
 万倍なら万倍に。
 億倍なら億倍に兆倍なら兆倍に。
 
 闇とは怨念。執念。思いの力。際限も限度も無い。
 意識及ぶ限り、全ては手の届く範囲に収まる。
 
 「竜子通心拳(りょうしつうしんけん)……。」
 
 小鳩はにこりと笑い、中空に浮く月を見上げた。
 
 上空に向かい、銀の手を突き出す。 
 
 黒い拳が打ち砕く。粉々の破片は、世界結界の残骸。
 
 「さあ、『月の無い夜』です。気をつけなさい?」
 
 輝く月に深い拳の跡。
 ほどなく割れて地上に落ちるだろう。
 
 最早地球に常識など無くなり、
 人類は悉く能力者となり、
 来訪者は例外なく姿を現し、
 ゴーストは残らず人を襲いだすだろう。
 
 そして、彼女は。
 
 「もう、こちらの地球の男にも、飽きたところです♪」
 
 闇色の粘液の頂点で、破滅を孕み、時を待っている。
 
 
――――「彼女が世界の上に蠢いているものを見たとき、それは彼女を拒否した。 それでも彼女は視線をそらすことができなかった。」
 
——— 「予見者の寓話」
――――《畏敬の神格/Godhead of Awe》 
 
 以上。」
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