愛執染着

 「ケツ穴以外包帯巻いて生きろよ、そんな使えないザマを見せつけられるの同じ人間として恥ずかしいから。

 こんばんは鳩です……。

 妄想シルバーレイン……。

 愛執染着
――――一意専心は美徳なのか?

 非合法な仕事には、非合法な仕事なりの効率論が存在する。
 その上で言うならば、一意専心は必ずしも美徳でないと丘・敬次郎は思う。

 忍者の第一義は情報の秘匿だが、「忍者として生きること」の第一義は、逃走だ。社会的、物理的な死が間近にある職業を続けるには、一にも二にも生きねばならぬ。無論、次の仕事が頂ける程度の仕事はこなした上で。
 任務を全うしさえすれば死のうが生きようが構わぬ、が使う側の論理であろう。情報の秘匿という意味では死んで欲しいとすら願っているかもしれぬ。
 だが、クライアントの要求に従って「はい死にます」では仕事にならない。
 そう、仕事。忍者は職業なのだ。生業なのだ。誇りに殉じることはあっても、職務の一部として死ぬということはありえない。少なくとも、雇われ工作員として動く丘の一派に関しては、殉職が予定に組み込まれることはない。

 夜の校舎の屋上で、丘・敬次郎は滅多に吸わない煙草をふかしていた。
 彼の所属する銀誓館学園は、先日他の勢力と大規模な衝突を起こした。丘もその場に参戦したが、緒戦で重傷を負い戦力外として早々に戦場を去った。
 不甲斐無い、という思いもあったが、それ以上に、役に立てなかった事と、役に立てなかったその戦いで銀誓館側が目立った不利益を被っていない事が彼の中で尾を引いていた。
 銀誓館は万を超える兵力を抱える超巨大能力者組織だ。大規模戦闘に於いては丘一人の力など塵芥に等しい。それは丘が戦場に立たない理由にはならないし、出撃直後に傷を負うこと自体は珍しくも無い。

 丘は、そのヌルさに虚しさを感じていた。
 戦力外になれば逃げればよい。何なら初めから参戦していなくたって構わない。それは、普段自分が科せられる忍者としての任務とは真逆の性質だ。任務ならば、クライアントからの指名であれ瑠璃忍者団からの任命であれ、最終的に「丘・敬次郎」という個人名が必ず連なる。失敗があれば責任の一部、或いは全部を必ず背負う。緊張感があるのだ。だからこそ、自己の生存と任務の達成を天秤にかけなければならない場面も出て来る。

 それに比べて、銀誓館名義の争いの何と希薄なことか。
 自分は、「居なくてもいい」。逃げても誰も文句を言わないし、命をはって成功に寄与しても誰の名誉にもならない。

――――これが戦争か。

 表情には出さないまま自嘲してみる。
 戦闘員にとって、戦争の最も憎むべきところは個の淘汰なのだろうと丘は思った。
 自分でなくていい。自分は参加すらしなくてもいい。活躍しても誰にも知られない。
 それが戦争なのだ。
 その場所を埋める誰かが必要で、だがそれが誰であるかは問題ではなく、その誰かに何らかの責任が負わされることも無い。
 それが、戦争なのだ。

 人一人が掛け替えのない代償を支払っても、成否に寄与したかどうかすら分からぬまま呑みこまれる。それが、現代の最も新しい『ヒーロー達の戦いの真相』だ。

 「……さて。」

 小等部に向かって視線を走らせる。少女性愛嗜好を持つ丘にとって、そこは花園であった。小等部の女子とすれ違うたび、銀誓館学園が小中高一貫校であることを、心から素晴らしいと思える。
 その一方で、今年から高等部に「入ってしまう」恋人を思って、少し笑う。

 「恋人」は自分が入学した時は確か小学六年生で、「ちょうどよく僕のロリータ」であった。
 気まぐれでコナをかけ、今の今まで互いを悪く思うことも無く続いている仲の異性。
 唯一であり、特別であった。だから、決定的なことは何一つしていない。
 彼女が僕を好きであるならそれは幸運。僕はただ彼女を好きでいるだけ。
 両想いであればどうなる、という思考は初めから外している。それは任務の邪魔になる。「唯一ではあるが掛け替えのある誰か」でないと、人質にされた時に困ってしまう。
 最も、『お屋形様』には「だからこそ付き合え」と言われているのだけれど。「唯一無二で掛け替えがないと思っているものだからこそ、裏切る時にこの上なく効果を発揮する」からと。
 
 心から愛するつもりなどないし、愛して欲しくも無い。幸い、向こうもドライな性格をしているから、丘も困ったことはない。「好きだ愛してる」と茶化すことはあっても、「一生一緒にいたい」と言ったことはない。言いたくもない。望んでもいない。だって彼女は、ただの「その場所を埋める誰か」なのだから。

 もしも、と思う。
 「僕が『お屋形様』の言うとおりに彼女に心酔してしまったらどうなるのか?」。
 僕の恋人たる任務を負わされた彼女に、幾多の契約を交わすことになるだろう。お互いが死なない程度に重要な契約を。僕も彼女から任務を負わされる。
 ああ、それはごめんだ。それは絶対にごめんだ。

 僕は多分、彼女の任務のためならあっさりと死んでしまえるから。

 「あぁっはっはっはっはっは……。」

 冬の空気は月光を通し、明るく足元を照らしていた。

 以上……。」

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