さらば愛しき世界よ

「上からピーラーで剥いて殺戮されればいいのに。
妄想シルバーレイン……。
痛覚の残滓
――――答えはいらない そんなの嘘だろう
――――誰もが生きてく 理由が欲しいだろう
――――両手はポケットに 突っ込んだままで
――――寒空 くわえたタバコが燃え尽きる
――――(赤眼の路上:THE BACK HORN)
例えば今ここで、自分が死んだとしても。
世界は何事もなく進んでゆくのだろう。
アスファルトに灰を落とし、丘・敬次郎は空を見上げる。
吸っている煙草はPeace。
彼がまだ丘・敬次郎で無かった頃、彼の父親が好んで吸っていた両切りの煙草だ。
飲酒・喫煙は能力者としての異能を阻害する恐れがあるが、
たまに一本吸うぐらいなら構わないと思っていたし、
煙草程度で消え去るような脆弱な異能ならば、思い出と引き換えにするのに未練などない。
煙草が好きな訳ではない。
ただ一つ許された、「生家から盗んでいいもの」として愛着があるだけだ。
家の匂いを思い出すための道具に過ぎない。
能力者として覚醒する前、まだ彼が○○・○であった頃、彼は殺人を犯した。
衝動的なものではない。
2年近い時間を書けて計画を作成した。手順と標的を入念に研究し、欲望を解放した。
はち切れそうな興奮の中で、柔肌を引き裂いた震えるナイフの手ごたえ。
何度も何度も果てた。
惜しくて惜しくて美しくて美しくて、腐臭がしても泣きながら捌いた。
目の前に黒いバンが止まった時、丘は反射的に「バレたか」と思った。
まだニュースでも「行方不明」と報じられていたし、
殺人犯であることどころか、殺人事件であるとすら判然とはしなかったのに。
かくて丘は筧・小鳩の里に攫われ、警察から守ると言う条件で忍びとなった。
顔も名前も全て捨て、能力者として覚醒し、里を守れと。
この里にスカウトされるのは、「能力者」とはまた違った意味で、「異能」を持つ者ばかりであった。
端的に言えば、社会に適合できない精神を持つ者たち。
元々里に住む「一般的な」水練忍者や、よそからスカウトされてきた「どうしようもない犯罪者の卵たち」に囲まれ、
彼は、世界の真実の姿を知り、己の脆弱さを知り、己の限界を拒絶する方法を知り。
力を知り喜びを知り悲しみを知り絶望を知り背徳を知り恋を知り。
たどり着いたのは、結局、「ありふれた能力者」。
否、まだだ。まだたどり着いてなどいない。
あの時拾われたのは、僕が異能だったからじゃない。
僕が彼女の。筧・小鳩の生まれ変わりだったからだ。
あの「プレイヤー」の分身だからこそ一介の能力者の域を出られず、
しかし「あの」プレイヤーの分身だからこそ一介のキャラクターでは収まらぬ。
「最後の決戦へ。」
丘は一人ごちた。
それは、ヒーローが憧れてやまない、光り輝く舞台。
それは、魔の王が望んでやまない、闇を誇示する舞台。
魔神・筧の断章として生まれ落ちた丘の物語は、果たしてどちらに結末するのか。
正義を愛し、悪を本懐とする丘には、どちらに立っても立ち回る用意がある。
「最後の決戦へ。」
何であれ、そこにたどり着くまでは死ねない。
そこにたどり着いて、エンディングを見届けるまで。
ハッピーエンドは絶対神の悲願。
デッドエンドなら神への復讐成功。
悲劇でも喜劇、喜劇でも悲劇。どちらに立っても、僕は笑える。
煙草を消す。
その時は近い。
とうの昔におさらばした娑婆へ、もう一度微笑みかけて。
さらば、愛しき……
以上……。」

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