心だけが一つになって

「最悪など何度でも更新される。
 
そう分かっていても、やはりお前の顔を見ると最悪の気分になる。

妄想シルバーレイン……。
 
鼻腔をくすぐるはかぐわしき悪臭


「花屋の匂いが苦手でした。」
 
丘・敬次郎は言う。
 
「化粧の匂いも苦手だった。
 今にして思えば、美しいと思っていなかったんでしょうね。
 花も化粧も。」
 
 彼の右手は、ナチュラルメイクを施した自分の顔をなでた。
 
「当てつけかしら。」
 
 ピジョン・ブラッドは、不愉快そうな顔で応える。
 
「いえいえ♪」
 
 丘は笑って振りかえる。
 ピジョンは彼の張り付いたようなこの笑顔が嫌いだった。
 
「ああ、そういえば我が師匠も惚れた女の事を花と呼んでいましたっけ♪」
「胸糞の悪い話ですわ。」
「美しくあれ、でなければ手折る。と。
 僕以外の誰かを愛する貴方こそが美しいのだ、と。」
「ふん。」
 
 二人、それぞれ違う女を想像している。
 ピジョンは、丘の師、筧・次郎の半身にして丘の里の首領である筧・小鳩を。
 丘は、彼らが置き去りにして来た別世界の、笹川という名の『悪魔』を。
 
「でもまあ、あれです。
 花を美しいと感じてやる必要なんてこれっぽっちもないよね、という話。」
 
 風がさやかに吹き、二人の髪を撫でた。
 足元の草がさわさわと心地よい音を立てる。
 
「あなたの価値観に合わせてやる義理もまた、
 誰にもありませんけれど。」
 
 ピジョンの声には乾いたまま変わらない。
 
「そう、僕は僕のユートピアを作ればいい。
 しかし、僕の理想は神の理想。
 僕が何を願っても、それは僕のものじゃない。」
「戯言を。」
 
 丘の憂鬱をピジョンは一笑に付す。
 
「ユートピアはいつだって、誰かのためのものですわ。
 『皆で幸せになりたい』
 そう願うから、ユートピアを想う。」
「そしてそれが叶わないから、ユートピアを祈る♪」
 
 丘は悲しげに笑う。
 
「皆の幸せとやらに、僕はいない。
 僕はいつだって、少女の中身を眺めていたくて眺めていたくてたまらないのに、
 少女はすぐに死んでしまう。」
「そんなものを幸せと呼ぶくらいなら、死んだ方がマシですわ。」
「その通りですね。こんなことを幸せと呼べるのが人類なら、
 この世界の人類は要らない。
 美しくない。」
 
 ピジョンは黙ったまま、脚を前後に開き戦闘態勢を取る。
 最早、言説は尽き果てていた。
 ピジョンは知っている。
 『この世界の』人類に、丘はとっくに絶望していることに。
 
「そんなこととはまた別に、」
「この世界は、美しくない、そうでしょう?」
 
 丘が目を見開く。
 
「世界結界が破壊されれば、全ての人間は能力者になる。
 けれど貴方のお屋形様はそれを良しとしない。
 知っていますわ、そのぐらい。」
「……ええ♪
 この世界は初めから、人の人たる力を信奉していなかった。
 『歴史に残っていない、人間の不可思議な力』などというものがある。
 『このゲーム』は、そういう世界観だった。
 考古学者がその証を見つけることが出来なかったのに。
 現代日本を舞台にしているように見せて、
 実際は神々の住まう世界と前提から噛み合わない。
 ねえ、僕はハッピーエンドを見届けるためにここに遣わされたが、
 神はこの世界の有様を既に不満に思っていらっしゃる。
 最終指令を執行する条件は既にそろっているのです。」
 
「それを阻止するために、わたくしはここに来ました。」
 
 ピジョン・ブラッドの赤いドレスが炎に変わり、金髪が揺れる。
 薔薇の花弁に黄金を添えたような有様。
 
「美しい、と呼ぶべきなのでしょうが、」
「お黙りなさい。」
 
 丘もまた、『姿』を表す。
 手からずっと滴っていた、先ほど「食べた」ばかりの少女の血。
 そこからゆらゆらと揺らめき、丘の体は透明な水に変わっていく。
 龍の頭部、六対の腕、纏うは白く深い霧。
 
「退け、障害物。」
「砕けよ、路傍の石。」
 
 最早能力者という頸木から解き放たれた二柱の神。
 
 それでも彼らは変わらない。
 丘・敬次郎にとってピジョン・ブラッドは相容れない多数の能力者の一人に過ぎず、
 ピジョン・ブラッドにとって丘・敬次郎は、当然に倒すべき裏切り者であった。
 
 丘・敬次郎は、筧・次郎と筧・小鳩の怨念を込められた人形。 
 ピジョン・ブラッドは、戯れに作られた筧・小鳩のパロディ・コピー。
 
 それぞれは最早、最初に作られた意図などとうに離れて独自の道を歩いている。
 根が近かろうとも、関わる理由すら本来は無かったのだ。
 
 丘は悪を以って人の正義を証明し、
 ピジョンは義を以って平和を成す。
 
 「僕を滅ぼすのは貴方じゃありません。」
 「死に様を選べる立場ではないことぐらい、弁えなさいませ。」
 
 戦うのではなく、駆除。
 なればこそ、敗北は許されない。
 
 僕のユートピアに貴方はいらない。
 例え、僕の理想が神の理想の具現でしかなくとも。
 僕の思いが神のそれの反映だとしても。
 
 ああ、否。それであればこそ。
 これは僕一人の闘いではないのだから。
 
 丘が放った水の砲撃を、まずはピジョンの掌打が焼き尽くして、狼煙は上がった。
 
 
以上……。」

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