戦闘シーンを描いてみたい病

「あなたの中学二年生的妄想は、誰も幸せにできない、誰もが見た覚えのあるくだらない妄想です。
 
 あなたのだけが、特別だめです。
 
 妄想シルバーレイン……。




攻撃の光速


春の終わり。奈良の山間は蒸して、雨。殺し合いごっこには最適な日和であった。
 
「遅かったですね♪」
 
傘を持った男が振りかえると、白い短髪の少女が息を切らせていた。
 
「失礼致しました。
 狩りの後で多少休息する物と。」
「お楽しみはお楽しみです。
 女性を待たせないぐらいの分別は持っていますよ♪」
 
 男の長い黒髪は赤いリボンで左右に結われていた。
 遠目には女とも思えるが、この距離ならば背丈や肉付きからはっきり男とわかる。
 朗らかに笑う男に、少女は鋭い上目で睨み返した。
 
「ご機嫌麗しゅうなさそうな。」
「それは、そうでしょう。」
 
 最早語ること無し、と、少女はトンファーを構えた。
 その棍の先端部では亀甲の柄をした大きな詠唱動力炉が回っていた。
 その外見はトンファーというよりメイスの持ち手に横棒が生えたような有様である。
 
「お楽しみを気遣ってくれた割には、気が早いですなあ。」
「……。」
 
 “お楽しみ”。
 兎狩りや猫拾いなどと称して男が行うそれは、少女の拉致と解剖である。
 小学二年生から中学一年生までを主なターゲットとして、彼の欲望を満たす行為。
 少女もまた、彼の毒牙に囚われた経験がある。
 たまたま能力者だったから死ななかっただけだ。
 それは彼にとっては全く以って面白くない結果であったのだが。
 
 能力者の体力は常人に数倍する。
 如何なる重症でも、腕がもげようが内臓が割れようが、5日間もあれば回復する。
 そもそも常人では彼らに傷をつけることすら難しい。
 
 そして、『彼』はそんな得体の知れぬ能力者の『力』を忌避していた。
 
――――神経も血管も筋肉も腱も内分泌も、進化の果てに到達した動力装置です。
――――『能力者(クズ共)』や『ゴースト(ゴミ共)』の魔法に何ぞ興味はありません。
――――“あれら”は、人の解き明かした歴史も物理も無視して、
――――何故恥ずかしげなく生きていられるのか。
 
 能力者たる想い人から贈られたリボンで髪を結っていながら、
 能力者たる彼自身がこう言ったのだ。
 白髪の少女には語るべき言葉などやはり一言も残っていない。
 
「……!」
 
 少女が言葉無く地を走った。
 左手は前に出して応酬に備えつつ、右手は腰の横に引き絞り痛打を狙う。
 男はゆっくりと舌を出し、傘を投げ捨てた。
 袖からダブルエッジのナイフを出し右手を身体に巻きつけるように引き絞る。
 
 思い切り振り抜く気か。少女が僅かに左手を下げ、
 右のトンファーを打ちこめるよう意識した瞬間。
 
「うっぐぅうう!」
 
 少女の前半身に針のような痛みが押し寄せ、そのまま吹き飛ばした。
 一回転二回転、ぬかるんだ土の上を転がる。
 
「何が、」
 
 起き上がって男に向き直ると同時、今度は胸を深く抉られた。鮮血が迸る。
 男はナイフを構えたまま動いていないが、笑う口元から、何かをしたのは明白だ。
 少女が『目』を開く。
 装束のいたるところに描かれた『目』が潤み、生身のそれと化す。
 前を見る。
 そして横っ跳びにその場を退く。
 
 鋭い音を立てて地面に水で出来た斧が叩きつけられた。
 
「そういうことですか。」
 
 男は、能力者の中でも水練忍者という種に分類される。
 水刃手裏剣は水練忍者の異能であり、水流を刃とする術である。
 その名前から、掌に水流の手裏剣を作ってから投げつける能力者が大半だが、
 男はその工程を『省いた』。
 
 水流を作り出せるだけの念動力があるならば、その念動力で撃てばよいではないか。
 どうせ水流を手で持つことなどできないのだから。
 
 少女は見た。
 次の刃、次の次の刃が雨にまぎれて装填されているのを。
 ある物は散弾のように、ある物は剣のように、宙に浮いて回転し射出の時を待っている。
 
 構えたナイフはただの戯れ。
 近距離戦になる、そう心構えをさせる一瞬を作りだすためだけのお遊び。
 
「おのれっ、」
 
 タネが割れたところで攻撃が止むでも無し、少女は男を中心に円を描くように走った。
 その後を追うように大小の水の刃が撃ちこまれていく。
 
 少女は突如方向転換し、男に向かって飛びこんだ。
 円を描いていたのではない、渦を巻いて近づいていたのだ。
 一蹴りで襲いかかれる距離まで、じりじりと、しかし全速力で。
 
 大地ごと捻子巻きながら踏みこみ、トンファーを突き込む。
 男も同時にナイフを振っていた。
 雨を散らす風圧。
 互いの武器は互いの左手が逸らしていた。
 
 トンファーを握られる少女、ナイフを持つ手を捕らわれる男。
 力を込め顔を顰める少女、しかしその表情はすぐに驚愕に変わる。
 
「!」
 
 男の左右のわき腹から伸びた腕がコートの中からライフルを取り出し、少女に向けたのだ。
 とっさに得物を離し、銃撃から逃れる。
 しかし数発は受けてしまった。
 銃弾のダメージなど能力者にとっては痛痒に至らないが、物理法則の制約は受ける。
 能力者の丈夫な肉体で止まった銃弾は、その運動量を全て少女に押し付け吹き飛ばした。
 
 再び地を転がり起き上った少女が見た物は、六対の腕に武器を満載した男の姿だった。
 
 「奇渦光顎(にじいろりゅう)……。」
 
 男の周りを深い霧が包み、その中に男の姿がいくつも浮かんで見える。
 虚実一体の定義不可存在(DRAGON)、それがこの男、丘・敬次郎の成り果てた姿であった。
 
 少女は意を決したように目を閉じた。
 その代わり総身に刻まれた目がぶるぶると震え、黒い涙を流す。
 おびただしい量の黒い液体から、目が開き牙が生え爪を持つ肢が生えた。
 『遠近凌妖(せんりがん)』。
 その身に搭載された無限に近しい数の獣の『目』で、
 粒子から銀河まで観察し一瞬先の未来を見るアカシックレコ―ドリーダー。
 
 それが少女の成り果てた姿。
 
「では♪」
「いざ。」
 
 男の手がスモークグレネードを投げる未来を、まずは少女の眼が見据えた。

 

以上……。」

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