敵対

「死に際に言葉など残させぬ。糞より臭い記憶を覚えておくわけにはいかないからな。
こんばんは、鳩です……。
妄想シルバーレイン……。 

 神との違和

 

「では、撤収。」
「はっ!」

丘・敬次郎の合図に下忍達は武器を収め、汚れた家屋と汚物の掃除を開始した。

――――

ペットボトルに口を付け、潰さんばかりに水を飲む。
そんな丘に、『先生』:筧・次郎が声をかけた。

「お疲れさまでした♪」
「は。」

丘が軽く頭を下げる。

「やっぱり僕の事苦手ですか?」
「いえ、そんなことは。」
「ふふ。」

顔に出てしまっていたか。表情筋の感触を確認しながら、丘は視線を外す。

「僕のコピーなのに、外面(そとづら)が出来上がっていないのは、面白いですねえ♪」

次郎がクツクツと笑うのを、丘はただ頭を下げて聞いていた。

――――そういうお前は、外面だけの存在だろ。

「何か?」
「……いえ?」

そういう丘の顔は、柔らかい笑みの中に緊張が宿っている。
ああ、せめても自分が見抜けるのは、見抜かれているということのみだ。

「……んふふ。」
「何ですか。」
「いえいえ。お疲れさまでした♪」

筧は朗らかな笑みを崩さない。
時空を越え顕現した『神』たる彼は、きっとずっと昔からこんなふうに笑っていたのだろう。

「御飯でも食べますか?おごりますよ。」

にこにこと笑いながら、筧が言う。
丘の表情は優れない。

「この近くなら、そうですねえ、ファミリーレストランぐらいしかありませんが。
お昼だとどうしても豪勢な物は難しいですしねえ。
何かリクエストはありますか?」
「鰻を。」
「通ですね♪」

ふっかけた難題を軽く受け切る筧に、丘はまた、表情を硬くした。

――――

「肝吸い、初めてですけどイケますね。」
「それは重畳、いいオトナになりますよ若頭殿♪」

合わせて笑ってみるが、やはり筧の前では顔が引きつる。
押しても引いても手ごたえが無く、当たり障りなく笑う。
この『先生』:筧・次郎が丘はたまらなく苦手であった。
なにしろこの筧、それ以外の表情を見せたことがない。

肝吸いを一気に飲み込み手を合わせる。

「ごちそうさまでございました。」
「しばらくだらだら食休みしますか。」

お腹も一杯ですし。適当に軽いものでも頼んで。

「はい。」

本当は早く帰りたかったが、拒める立場にはあらず。
食事どころか呼吸も要らぬ悪魔の身でありながら、お腹一杯とはよく言うと思ったが、特上鰻重は流石に育ち盛りの丘の腹にも堪えた。
満腹感の圧倒に、いいえ帰りますと断る気力は残っていない。

「すみません、何かおつまみって出来ます?」

筧が女将らしき人に声をかける。

――――この絶妙な図々しさが。

思うが言葉にはならない。
丘は湯呑に残った温い茶をすする。

――――

「先日も鳥越ちゃんを酒に誘いました。」
 「はい。」

ぴくりとした丘の緊張をしっかりと見てとってから、筧はにんまりと笑った。

「いい子ですね、あれは。」
「ええ、あれは素直でよい子です。」
「水練忍者にしなくて良かった♪」

気持ちを吸い上げるような言葉に、丘はやはり気後れする。
瑠璃忍者団No.3である鳥越・九(いちじく)は里において希な牙道忍者だ。
運動性能は高いが細かい作業に向かず、表情は乏しいが行動は大雑把という、
アンバランスというかズレた感性を持つ少女である。
静謐を旨とする水練忍者の性には合わないが、忍者で無い者をおく訳にも行かぬので
野性を生かせる牙道忍者の道を歩まされている。
「酒と言うと、どちらに。」
「ああ、行きつけの店に。いい飲みっぷりでしたよ♪
細く長く飲む飲み方を知っている、いい飲兵衛になりますよ。」
「まだ中学生だってのに、能力無くなっちゃいますねぇ♪」
「だぁいじょうぶですって、銀誓館で戦えてるんでしょう?
酒飲む位で能力が無くなるのなら、娼婦にして稼がせた方がマシですよ。」
「全くその通りで。」
「あの子は強い。」
「ええ。」
「あなたより強くなりますよ。」
「……。」
「丘君。」
「……はい。」

茶色い瞳が丘を上目遣いに見る。

「悔しくないのですか?」
「追いつかれはしませんよ。」

言葉の綾を取られたと感知し、即座に言い返す。

「あいつはあいつで、自分勝手なところがありますから。努力に熱心でもありませんし。」
「丘君みたいに?」
「ええ♪」

 精いっぱいの笑顔をして見せる。
ああ、そうさ。道化っぷりすら本当はこの悪魔のコピーでしかない。
それでも僕にはこれしかないんだ。

「少なくとも、実戦経験のペースは僕よりも遅いぐらいです。」
「銀誓館の、コミュニティの力に胡坐をかいていると。」
「そういうことです。」

能力者個人の力は、自分が属するコミュニティの総力に大きく左右される。
メガリスを多く所持したり、多数の戦役を経験したりした能力者組織は、全体のレベルが高くなり、能力の上限も増す。
銀誓館はそういう意味ではエリート中のエリートであり、忍者結社瑠璃はそういう意味では牛後もいいところ。
要するに、銀誓館に属しさえすれば、瑠璃トップクラスの力が降って湧くのだ。
但し『先生』筧・次郎と、『お屋形様』筧・小鳩に関してだけは、その法則の例外になるが。

「それでも構いませんけどね。」

筧はいつも通りの朗らかな笑みで言った。

「銀誓館に属してさえいれば、いずれはハッピーエンドが見られるのでしょう?」

丘の表情が再び凍った。

「僕はそれを確認すれば、とりあえずは満足ですから♪」

丘は言葉を返さない。

ああ、やはり。僕は悪魔の使い魔ですらない。
丘・敬次郎と言う名を与えられていながら、僕は彼の分身にすらなれていない。
菩薩のように笑みながら、菩薩のように憎む。
それができない。
全てを諦め、全てを望む。
それができない。

銀誓館の誰も殺せず、しかし銀誓館の誰よりも強く。
そこに至れない。

「……あんまり、そういう。何ですかねえ、僕がその。
キャラクターだってのを自覚させること、言わないでほしいんですけど。」
「ふふはは。
……今更?」

丘に思い切って突きつけたはずの際どい言葉も、笑って切り捨てられた。

丘が、彼らの為にハッピーエンドを取ってきてやる気など失せ切ったのは、言うまでもなく。
鰻は旨かった、と。
 お返しに裏切りをくれてやると。

口に残る芳醇な脂を味わいながら、清々しくも粘つく敵意を噛みしめ、僕はきっとこれの為に生きるのだと。
そう悟った丘であった。
 

以上……。」

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