Peace

「衣擦れ音を聞きすぎて死ね。

こんばんは、鳩です……。

妄想シルバーレイン……。

 世界が平和でありますように

 荒い息づかい。
男と女。
肉のぶつかり合う音。
ベッドの軋む音。

丘・敬次郎は、ベッドから立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。
直接口を付けて、四回、五回、一気に喉を鳴らすと、息を吐く。
かけてあったコートの内ポケットから煙草を取り出すと、
箱をくるくると弄ぶ。
その様子を、ベッドに寝そべったサキュバス・ドールの明美が見ていた。
明美がベッドをポンポンと叩き注意を向け、手話で話しかける。

『吸わないの?』
「僕、煙草苦手なんで。」

そう言って明美の足もとに腰掛けた。

『吸わないのに 何で持ってるの?』
「思い出かなー。」

気持ち悪い、と言う代わりに明美は顔をしかめた。

「続きやります?」
『少し 休む。』

そうですか。
丘はそう言うと立ち上がり、キッチンへと歩いていった。
箱から煙草を一本取り出し、ガスコンロで火を点ける。
一口大きく吸って、激しく咳込んだ。
一頻り噎せた後、煙草をシンクに押し付けて火を消し、換気扇を回す。
そしてまた、ベッドに腰掛けた。

「はーあ。」
『本当にダメなんだ。』
「親がヘビースモーカーでね。反動で受け付けなくなっちゃったんです。」
『何で吸ったの?』
「親がヘビースモーカーだったからですねー。」

だから、思い出。
煙草の匂いは、もう会えない家族の数少ない名残だ。

『似合わない。』
「僕もそう思います。」

そう言って丘はだるい体を横たえようと思ったが、明美に寄り添うとだらだらとまた始めてしまいそうな気がして、座ったままでいることにした。

ベッドをポンポンと叩いて明美がアピールする。

『一本 ちょうだい。』

丘はにこりと微笑むと、再び立ち上がってキッチンへ向かった。
ガスコンロで煙草に火を付け、明美の口元へ持って行く。

『ライターぐらい 持ってなよ。』
「キツいですから、気を付けて。」

寝そべったまま一口吸った明美が咳込みながら起き上った。
手に口を当てて何かを吐きだしている。

「キツいって言ったでしょう。」

笑う丘に明美は吸い口を指さして訴えた。

「両切りの煙草ってご存知なかったんですか?」

明美はひったくるように丘の手を取り、煙草の箱を確認する。
小ぶりな箱の表面には、葉を咥えた鳩の絵と“Peace”の文字。

「煙草ってこれが普通だと思ってたんですよ。
親がいつも吸ってたのがこればっかりだったんで。」
「……。」

明美は煙草を咥えて、空いた両手で話しかけた。

『お父さん?お母さん?』
「両方♪」
「……。」

それを聞いて、明美は煙草に手を添える。
葉を吸わないように慎重に吸う。
煙草を摘み持って、口から長い煙を吹いた。

『旨い。』
「それはよかった♪」
『灰皿。』

丘はにっこり笑って、自分の手を差し出した。
明美は遠慮なくその手に灰を落とす。

赤熱した先端を少しだけ押し付けて見る。
びくりと震えはしたものの、手は差し出されたまま。

「消しますか?」

明美は首を振って答え、二口目をゆっくりと吸い始めた。

以上……。」

広告

kiwivege について

nothing
カテゴリー: シルバーレイン パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中