愚昧を味方とすれば

「視界に入るな。

こんばんは鳩です……。

またもや妄想バロックナイトイクリプス……。

こんかいはこちらの方をお借り上げ致しました……。許可は取っております。

 

 

One with Nothing.

 

幻想殺しというスキルがある。
エリューションが神秘なる力で見た目や音声などを隠蔽・変異している場合に、それを見破る能力である。

「敵の下調べぐらい先にしておくのが常識でしょうが!」

全力疾走しつつ、犬束・うさぎが表情の変わらぬ顔で怒声を飛ばす。
並走する鳩目・ラプラース・あばたは応えず、アクセス・ファンタズムに指を滑らせ所有スキル一覧を吟味している。

事の顛末は単純至極。
『怪盗』という外見を変えるスキルを持つ犬束が鳩目のふりをして目標と接触。鳩目本人は『気配遮断』を用いて近くに隠れ、機を待つ。相手に信用させるために犬束が武器を捨て、目標に接触。その間に鳩目がひそかに犬束の捨てた武器を拾い、無防備な相手を狙い、犬束は隠し持っていた自分本来の武器を持ち出して攻撃態勢に入る、というプランであった。
互いの保有するスキルを生かし合い窮地を逆転するというのはドラマチックで如何にも魅力的な案ではあったが。

「お前誰だ?」

目標が出会い頭にその一言を発した瞬間、犬束は全てを悟って踵を返したのだった。

「下手な考え休むに似たりというのは本当ですね。」

発案者が悪びれもせず涼しい顔でそう言ったので、犬束は鳩目を蹴り飛ばしてやろうと思った。

「仮にも人を巻き込んでおいて下手な考えなどと聞えよがしに言うなよ畜生め。」
「巻き込まれたのではありません。あなたはお金でわたしの依頼を請け負ったのです。そして畜生もあなたです。」

犬束・うさぎが『アウトサイド』と呼称される獣人の一種であることをここに付記しておく。

「少しは申し訳なさそうな顔をしたらどうなのですか!」
「あなたこそ御母堂の胎の中に置いてきたらしい表情筋を多少は鍛えたらいかがですか?」
「わたしのことはどうでもいい!!」

突如二人が互いの首筋を捕まえ、互いの顔面を地面に叩きつけた。
その上を燃え盛る弾丸が通り過ぎてゆく。

「『インドラの火』まで使えるなんて、相当ヤバくないですか?」
「素直にごめんなさいと言っておいた方が良かったかもしれませんね。」
「何の話ですか?」
「こちらの話です。」

先日、鳩目は人を誘拐するという依頼に失敗しクライアントに損害を与えてしまった。
事件化を避けるためにクライアントの協力を仰ぎ余計な出費をさせたため、クライアントに対する鳩目の評価は地に落ちている。
その上で呼び出しを受けたため、鳩目は懲罰を警戒し犬束を囮に立たせた。
これらの事情は一切犬束には伝えられていない。
彼女にはあくまで、「フィクサードに絡まれたので助けてほしい」と告げたのみである。
ただし、元フィクサードである犬束が鳩目の言を素直に真に受けたかどうかは疑問ではあるが。

「慣れない嘘など吐くものではありませんでしたね。」
「はあ!?」

とは言え、元来嘘が吐けないのは鳩目の性分である。仕事の一環として敵を惑わす時はともかく、自分自身を偽り隠すことは外的要因を交えても尚うまくはいかぬものらしい。
再び鳩目の手が犬束の首に伸びる。犬束は今度は伏せてかわし、空振りした鳩目は大きく跳躍する。
その空隙を黒い鎖が薙ぎ払った。

「マグメイガスまで!」
「うむ、やはりわたしを殺る気で来てたようですね。」
「やはりって。」

そんな鉄火場に呼ばれたつもりはないぞ、と言いかけてやめた。それは知らずにのこのこと誘い出された自分の愚かさと表裏一体。肯定したところで空しいだけだ。だが、
「後で殴る。」
「後があればね。」
無表情な四白眼の睨みつけを意に介さず、鳩目はアクセス・ファンタズムをいじり続けている。

「何です?車ですか?フラッシュバンですか?使えるものならとっとと出して、あてがないなら逃げることに集中してください。」
「ないこともないんですが。」

鳩目がふいに足を止めて振り向く。左手の長大な小銃と右手の重厚な拳銃が一瞬に十数個の火花を咲かせ、追手達の脚を何度も穿った。

「『それ』が、そうですか?」
「いえ、違います。」

鳩目が向き直り再び犬束と並走する。
人間ならば勝負ありだが、相手はエリューション。骨折や内臓破裂程度では、機能不全に陥らせることもできない。眼球を抉られても視界が確保でき、鼓膜が破れても音を聞き、四肢が切断されても治癒ができ、心臓を射抜かれても動き続ける。それが怪物(エリューション)なのだ。

「では何を、」
「犬束様、あなたはわたしより速く走れますよね?」
「は?」
「決して振り返らず、全力疾走でお願いします。」

鳩目が再び足を止め、振り返り抜き撃つ。

「かっこつけるつもりですか。1人で。」
「誰にでも、見られたくないものはあるものです。」
「返事になっていませんよ!」
「いいから行け!」

タンバリンに似た形状の11枚の刃を持つ凶器『11人の鬼』を構えた犬束を、しかし鳩目は邪魔そうにあしらう。射撃は執拗に足を狙っており、特に接近した相手の足止めに終始しているのが見て取れた。

「……あるから。奥の手。」

鳩目は小さな声で犬束にそう告げた。

「だから、全力で離れて。見せたくないんです、特に知り合いには。」
「……。」

逡巡は一瞬。

「信じていいんですね。」
「3分で戻る。」
「それ以上は待ちませんよ。」
「だから待つなっつってんの!」

ゴッ、と犬束が地を蹴る。彼女の姿が鳩目の遥か後方へ飛んで行った。
右手の拳銃のマガジンを使いつくし、犬束の走る音が遠くへ消え去るのを聴き終えると、鳩目は両手の銃をアクセスファンタズムにしまいこんだ。

「やれやれだぜ。」

神秘の炎が鳩目を焼き、鎖が鳩目を縛り、鎌が彼女を切りつけ、拳が彼女を粉砕する。
最早原形も残さぬほどに滅び切ったはずの鳩目の身体は、しかしまだ両足でしっかり立っている。
その威容に、異様に。フィクサード達はたじろいだ。

『ラプラース接続開始』
機械音声が発せられる。鳩目あばたの頭部から。
燃え盛り朽ちた筈の鳩目の口から、明瞭な声が応じる。

「起動、召喚プログラム起動。」
『干渉範囲の計測完了。影響度、許容範囲内であることを確認。召喚データダウンロード完了。』
「緊急コード承認要請。Darkest Hour-Silver Bullet、コピーアンドペースト。認証コード647285971。」
『緊急コード承認。技巧複製開始。』
『モデルは銀の手のヌァダ、技法は竜子通神拳。』

鳩目の頭から生えていたアンテナがツーテールに変わり、髪の色が灰色へと変じていく。
肌の色は陶磁のように白くなり、眼球はガラス玉ではなく青い瞳のそれへと変わった。
鳩目の衣服が燃える。アスファルトが溶けて沈む。彼女を中心に周囲の温度が上昇していく。ビルのガラスも溶けて歪んで割れ始めた。
フィクサード達は己らの衣服も発火したのを見て何かを感じ取り後方へと素早く退く。

『身体能力の増強完了。』
『竜子通神拳、2.785%で複製開始。』

プログラムされた動きを鳩目の肉体がなぞる。正拳順突き。そのモーションに応じて、通りいっぱいの太さの燃え盛る黒い腕がフィクサードへと突進し、砕き焼いて散らした。

『複製作業終了。ラプラース切断します。』

機械の音声を待たずに鳩目は溶けた地面を蹴りながら携帯を取り出す。

「もしもし、鳩目です。」
『ああ、1分10秒ですが、だいじょぶですか?』
「少々その場でお待ち頂けますか。」

——–

「待たせました。」
「いえ、2分49秒ですから。」
「それはよかった。」
「これは貸しですからね。」
「何のことでしょう?」
「何でもありません。」

犬束は、鳩目を少しだけ「見て」いた。

好奇心に駆られて約束を破った、と言われても仕方ないが真実は違う。
『危機感に駆られて現象を確認した』のだ。

立ち止まり、振り向いて、そして見た。鳩目が、鳩目でない何かになるのを見たのだ。
それを見て、何か自身の存在証明が足元から崩れおちていくような錯覚を感じたのだ。

聞きたいことはたくさんあった。だが、「誰にでも見られたくない物はある」と言われていたから、追求はしない。するべきではない。

誰にでも、見られたくない物はある。一生隠し通しておくつもりのことも。

敵ならば、容赦はしない。勘案しない。

けれど今はまだ味方。リベリスタ同士だ。

敵ならば、容赦はしない。勘案しない。

以上……。」

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