There is always a greater power.

「生ゴミ食らいが!

こんばんは鳩です……。

またもや妄想バロックナイトイクリプス……。

 

 

Cruel Ultimatum

鳩目・ラプラース・あばたの立場は悪くなっていた。
拉致依頼を失敗し、クライアントに損害を与えた。話し合いの場で結果的に銃火を交え決定的に印象を悪くした。もう、彼らから仕事を請け負うことはあるまい。これから命を狙われることさえあるだろう。
後まで長く残る瑕疵を残した。鳩目のそれなりの『職歴』から言えば、「あるまじき失敗」と言ってもいい。

「……参ったな。」

鳩目にも『ケツもち』は居る。
失敗しない『業者』は居ないのだ。万一の場合には、逃げ切るか和解するかしなければならない。
不法の仕事でしくじった場合は、大抵逃げる方が選択される。しくじらなくても定期的に逃げることで足跡を掴ませないようにする場合も多い。
鳩目の場合は、彼女のバックが責任をとる。金銭か、あるいはクライアントを丸ごと跡形もなく消滅させるか、どちらかの手段で。

ここ数年は世話にならずに済んでいたのだが。
忌み嫌ってきたあの化け物どもに頭を下げることになるのかと思うと気が重い。
午後二時の陽光を反射して真新しい学習机が光っている。1年前に引き取った養女の物だ。
機械化された鳩目の瞳が、形状と内部構造を感知し情報化する。
棚にはノートと教科書。
引き出しの中には文房具、ファイリングされたプリント、そして引き出しの底の底には、漫画雑誌とハガキ、Gペンと丸ペンのペン先と黄色いペン軸、インク壺に、スクリーントーンの束が押し込めてあった。
このマンションは極数日前に引っ越したばかりの部屋なのだが、どうやら娘は並みならぬ情熱で親の目を掻い潜り趣味を。欲求を押し通したようだ。

「……しかたないか。」

携帯電話のタッチパネルに指を滑らせ、『パトロン』の電話番号を呼び出す。

——–

アーク射撃訓練場。

「おい頼むぜタマだってタダじゃねえんだぞ。」

スタッフの声をかき消すかのように鳩目の左手が引き金を引き、小銃型の『拳銃』からけたたましい連射音が鳴り響く。
右手の銃底でボタンを押し、粉々になった的を交換。人型の標的はセットが完了する前に首から下を撃ち千切られた。ボタンをさらにプッシュ。次の的は右手の拳銃をフルオートで連射し頭部と喉と胸を撃つ。ボタンをプッシュ。次の的。粉砕、プッシュ。次の的。粉砕、プッシュ。

10分余りもそうしていると、左手の銃がカスン、と情けない音を立てた。
ベルト給弾拳銃と言う出鱈目なこの代物は弾切れを起こすまでにそれなりの時間がかかる。
耳栓を抜き、背嚢を下して次のベルトを探していると、編み上げブーツがこちらに歩を進めてくるのが見えた。

「どうも、鳩目様。」

鈴の鳴るような女声が上から聞こえる。
リリ・シュヴァイヤー。アークトップリベリスタの一角であり、鳩目と同じく二丁拳銃を得物とするガンナーである。
そして、先の鳩目の仕事を台無しにしてくれた元凶でもある。

「どうも、シュヴァイヤー様。奇遇ですね。」

普段から表情に感情が出にくい鳩目ではあるが、より感情をあらわにしないよう表情筋に気を配りながら顔を上げた。
リリは鳩目に顔を向けてほほ笑んだ後、床に散らばるおびただしい空薬莢を一瞥した。

「掃除しておきますね。」
「そちらの練習は良いので?」
「今日の分は終わりましたから。」
「やめてください。」
「はい?」
「やめろ。」
「……すみません。」

掃除道具を取りに行こうとするリリを鳩目は止めた。

「……後で、ハンドロードするので。」
「この量をですか?」
「サイレントデスに使うんです。」
「ああ、あの技って弾薬が違うんですか?」
「別注じゃなきゃだめってわけじゃないんですが、弾薬を別にしておくと楽なんですよ。
感覚的な物なので少し説明が難しいのですが。」

それならば、とリリは一歩退く。
それにしても、小銃から10分間に排莢された薬莢の数は尋常ではない。

「隣のブースに散ってるのもありますから……。」

リリが話しかけた理由は元々それである。
鳩目の足元に密集しそれでも収まらずに飛び跳ね押しだされた空薬莢が床を占拠していた。それを咎めるために話しかけたのだ。

「……わたしはもう少し撃ちたいのですが、そういうことであるならば。」
「夢中になっちゃったみたいですね♪」

子供をあやすようにリリは言う。
実際、背は鳩目の方が低く、顔つきもリリより幼い。

そんな風に言われても仕方がないと頭では理解したが。生憎今この時の鳩目には感情の揺らぎまで許容する余裕はなかった。
鳩目はテーブルの上に乗った空薬莢を拾って指で弾き、密集した薬莢の群れにぶつけた。リリが拾おうとしたそれもあおりを受けて弾き飛ばされる。

「鳩目様?」
「……ビッグバンの瞬間から。わたしたちはずっとビリヤードの玉だ。」

鳩目が見下ろす。いや、首を曲げて、自分より低い位置にしゃがみこんでいるリリの目を『睨め上げる』。

「宇宙創成から今まで、ずうっと。全ての粒子も波も直前の状態によって決定されている。それは永遠に続き、自由意思などない。あったとして、『たられば』の未来などわたしたちには知る由もない。」
「……?」
「あなたがわたしの商売の邪魔をするのも、決定論的には必然だったということです。」

悪意に満ちた言葉。
反射的にリリはアクセスファンタズムから双銃を取り出す。

「悪いことだとは分かっています。
でも悪いことをした気分にはもう、ならない。」

鳩目は銃を構えない。異常なまでに身体を捻じ曲げ、睨み上げながら言う言葉に、返すモノを思いつけない。

「肉食獣は獲物のことを「可愛い」と思うそうです。
食べちゃいたいぐらい可愛いから食べちゃうんだって。」
「あなた、誰ですか。」
「鳩目・ラプラース・あばたですよ?」

違う。違う。漏れ出ずる気配が、挑発的な声色がそうではないと告げる。そもそも鳩目は、自らミドルネームを名乗らない!
だがそれでも、リリが引き金を引くには不足していた。目の前に居るのは鳩目あばたの形をした何かだ。でも自分は、『あの時』。鳩目あばたを撃たずにねじ伏せるだけで制圧した。その優しさが、引き金にかけた指をこわばらせた。

「わたしは人を食べなければ生きていけない。だから、人には感謝していますし、申し訳なくも思っています。そこらのクソフィクサードどもは、自分らが人間に生かされてるってことを理解してないみたいですが。」

鳩目が目線を外し、ぐうっと背筋を伸ばす。

「このわたしですらが、人間に遠慮して、謙虚に、卑屈に生きている。人間に感謝している。そう心がけているのに。」
「鳩目様!!」

リリは叫んだ。このまま彼女に喋らせたら、致命的な言霊を残されてしまう。
そう直感したから。
けれど、鳩目は止まらなかった。

「このわたしですら卑しい人食いエリューションなのに。
それ以下の輩が山ほどいやがる。わたしこそが最低のはずなのに。深く失望しましたよ。
わたしは、」

怖気の走る気配にリリは遂に引き金を引く。
だが弾丸は、過たず鳩目の銃が放った弾に撃ち落とされた。

「『わたし如きと同じ神秘は全部殺さなければならない』!」

ああ、言わせてしまった。

「『わたしのようなものは死んだ方がマシなのだから』!!」

『死んだ方がマシ』とは定型句もいいところだ。だが定型句であるがゆえに歴史に裏打ちされた強さを持つ。自己否定に割りこめる手段は、人類史を鑑みてもそう多くは無い。

「あなたのように美しい方は、鏡を見るたびにため息を吐くことなどないのでしょう。」

鳩目の声に嘲笑が混じっていたのは、聞き間違いではない。

「気が変わりました。薬莢は好きにしてください。スタッフに任せるのがいいと思いますが。」

そう言って鳩目は背を向け、装備をアクセスファンタズムに収めると空薬莢を踏みつぶしながら歩き去った。ギガントフレームである彼女の体重は、見た目よりずっと重いようであった。

「……鳩目様!」

主張したいことがあった。だが鳩目は振り向かずにそのまま扉を閉めてしまった。

鳩目・ラプラース・あばたは神秘を憎んでいるのはリリも承知していた。しかしその源泉が自己嫌悪であるとは、知らなかった。

彼女が彼女である限り、鳩目・ラプラース・あばたが神秘を憎むのをやめることは無く、人を愛するのをやめることは無い。
それは何と救いのないことなのだろう。
宇宙創成から全て、素粒子の動きまで何もかも決定されていて、脳内物質の情報伝達まで動かしようがないのなら、どうすれば人の心など救うことができるのか。

祈りと救いを旨とする彼女でも、救われた鳩目とはどんな生き物なのか、どう祈れば彼女を救いだせるのか、分からない。そもそも救われたいのかすらも。
鳩目が依頼で時折見せる強烈な攻撃性は、もしかしたら。
けれどそれを思いやるのは傲慢だ。救いたい気持ちは事実。しかし、救われずにいたいものをどうするかは、Bibleにも書かれてはいなかった。

風の中に、今度は鳩目の嘲笑は聞こえなかった。

以上……。」

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