Worldgorger

「流れを枕としてそのまま溺れ死ね!

こんばんは鳩です……。

またもや妄想バロックナイトイクリプス……。

 

 

And still you will not have suffered enough.

「エンコ詰め、ですか。」
「バカバカしいとは思いますがね」

鳩目・ラプラース・あばたの立場は悪くなっていた。
依頼された拉致作業を失敗し、クライアントとの話し合いの場で報復を恐れて相手を返り討ちにしてしまった。
『ケツもち』に仲介を依頼したところ、『首領』に呼び出されて奈良山中の本拠地へ急行。
師と共に御簾越しに跪いて拝謁している。

「損失は金で埋められても恨みは金では埋まらんと言われては。
わたくしも返す言葉がありませなんだ。」
「は。」

御簾越しに響く首領の女声は、少女のそれであるかのように高音で、しかし少女のそれとは思えないほど落ち着いて、重いものであった。

「要するに、相応に苦しんでくれということです。」
「はい。」

殺しの代償が指の一本なら安いものだ。それにエリューションたる鳩目は如何なる肉体の欠損も生存しうるかぎりにおいて必ず回復する。一時の痛みと不自由に耐えるだけでチャラになるなら破格と言ってもいい。

「丘。」
「はい。」

横で共に跪いていた師が『首領』の声にうなずくと、懐からナイフを取り出した。
柄から刃までひとつながりに作られた、医療用メスによく似たそれはしかし、刃渡りが15cm以上もある生きた人間を殺すための得物である。
丘、と呼ばれた師は鳩目にそれを手渡す。

「では、失礼して。」

鳩目が目線をやると、先ほどからタオルを巻いたまな板を持って横に坐していた男がそれを畳の上に置いた。
左手の小指を板の上に置き、右手で、メス型のナイフを機械化している指の第三関節部にあてがう。一気に体重をかけて押し切る。
切れない。神経と筋肉を引き裂く感覚はあったが、骨にせき止められている。

「メスは押し切るものではありません。」

師が声をかけた。
こんなもの、アークの依頼で内臓に弾を食らった苦しみに比べたら。
押しつけた刃を引く。ごり、ぶちりと間接が切れる痛み。音。痛覚が脳内でスパークする。激しい痛みに引き換え、刃に抵抗感は無い。このメスもまた、化物(エリューション)を殺すための特別誂えであるからだ。

未練がましく残った皮を引きちぎり、小指を置いて座礼する。

「では次の指を。」
「は?」

御簾越しの声は聊かの感情もこもっていない。

「クライアントは全ての指を御所望です。」

鳩目は一瞬目がくらむような錯覚を覚えた。

「はい。」

そう応えると鳩目は左手を開いてまな板の上に置き、薬指、中指、人差し指を一気に切断した。
続いて親指も。
今度は右手の指だが、左手はもうナイフを握れない。

「失礼して。」

師が鳩目の右手を掴む。
そして、いつの間にか握られていたナイフがひらめくと鳩目の右手の五指がバラバラと落ちた。

「うあ……!」

不意打ちには流石に呻いてしまう。
そんな鳩目の様子を無視して師は鳩目の足首をひねりあげた。

「……足もですか!?」
「足もです。」

言うが早いか、師のナイフは鳩目の右足を一閃。指が落ちるのも待たず左足首を掴みもう一閃。
撥ねられた足の指が畳の上にぽろぽろと転がり、吹きだした血が畳を汚した。

「ぐっ……!」
「ほら、正座です正座。」

止血も許されぬまま、鳩目は掌を畳に押し付け態勢を動かし、坐して頭を下げる。
師はてきぱきと20本の指をかき集めて並べ、タオルにくるんで懐に入れると、座りなおして頭を下げた。

「終了致しましてございます。」
「よろしい。」

涼しげな首領の声が痛みをこらえる鳩目の心をかき乱す。
こんな感情は益のないことだ。何故わたしが痛がっているのにお前はそんな風に平気で。当たり前だこれはわたしの落し前だから。でもこんなに痛い。自業自得だ。でも指を詰めるって言ったら普通一本だろ根元から切り落としただけでも大サービスなのになんでこんな。失敗しなければ知るか痛い痛い向こうに納得してもらうためには知るか痛い痛い痛いこれからの仕事痛い痛いこれからの生活痛い痛い痛い不自由に痛い痛い痛い痛い痛い!!

「下がってよろしい。」
「は。」
「は。」

師と揃って立ち上がる。足指の傷口を畳に擦ってしまい鳩目の顔が歪む。

「何故わたしがこんな目に。」

痛みをこらえつつ踵を返した背に、御簾越しの声がかけられた。

「そう思っているのでしょう。」
「……いえ。」
「面倒なことです。金も出したうえにこんな田舎にお前を呼び出してケジメつけさせるなどと。」
「……。」

首領の声には感情がこもっていない。

「ですが、わたくしにはわかる。そうでもしなければ納得は出来ぬというのは。
お前もそうでしょう?」
「……は。」

鳩目は振り返らない。

「お金は、取り返しのつかない物を埋め合わせるのに大変便利なツールです。
しかし、万能ではない。
何故ならば、金で取り返しがついたことにしてやると判断するのも、そもそも取り返しがつかないという決めつけや判断も人の感覚にほかならないからです。
埋め合わせの出来ない被害を負った人心は、ありもしない埋め合わせを求めて暴走する。」

畳の上に血の染みが広がっていく。手と足から、ゆっくりととめどなく。痛みと共に。

「わたくしはそれを否定しない。
寧ろ、最も大事なものだとすら思っています。
人を殺したい、組織を滅ぼしたいという気持ちは正にそういうありもしない埋め合わせを渇望した結果ですから。
わたくしどもはそれを代行することで生きているのですから。」
「存じております。」

鳩目は振り返らない。

「ですから、此度のこと。理解しろとは申しません。恨んでも憎んでも構いません。
あなたに指を詰めろと命じたのはこのわたくしなのです。
わたくしはあなたに苦痛を強いた。あなたは苦痛を受けた。
わたくしを恨んでもよろしい。それは全く真っ当な心の有様です。」
「滅相もない。」
「左様でございますか。」
「もう、行ってもよろしいですか。傷が痛むので。」
「より痛んで頂いた方があちら様の要望には沿うのですが、良いでしょう。
罷りなさい。」
「ありがたき幸せ。」

爪先の代わりに地面に傷口と血を押しつけながら、鳩目は部屋を出た。

——–

「あんまり痛くなかったでしょ?」

へらへらと笑う師の顔面に指の無い鉄拳を叩きつけたが。

「あなたは存在級位が低すぎます。」

のけぞらせることもできず、拳は彼の顔面にめり込んだまま止まった。

「……強くなっていますね。」

以前ならば、ダメージは通らずとも運動量、運動エネルギーは受け付けたのに。

「当然です。僕の最終目標はあなたと同じく、『アレ』を殺すことです。」

僕はまだ、諦めてはいない。
師、丘・敬次郎がメスを一振りすると、鳩目の肉体は両断され、意識は暗闇に消えた。

「せめてこれぐらいは防げるようになっていただかないと。」

おぼろな意識の中で、その言葉だけが楔のように残った。

——–

痛みに目覚める。
寝室。引っ越したばかりの。
布団を跳ね上げ両手両足を見ると、やはり指は切り落とされたままだった。
出血はもう止まっていたが、骨と肉が再生しようとして傷口を押し返している。

娘には見せられないな。

暫くは不自由にもなるか。こんな手足では依頼は愚か、料理も買い物もインターネットも……。
インターネットも!?インターネットも!!

化物(エリューション)を殺す理由がまた一つ増えた。
この憎しみは忘れない。この憎しみも忘れない。

如何に理屈にあっていなかろうと。どれほど自業自得であろうと。怒りと恨みの感覚は本物だ。理屈に合っていないから嘘でありあり得ない、などということは、感情には当てはまらないのだ。
物理学においても、「そこにそうであるからそうなのだ」が大前提であり、「理屈に合わないからそんな事実はあり得ない」と現実の方を否定することはナンセンスである。

物理学者は。プロアデプトは事実を常に前提とする。
鳩目は憎む。それが事実だ。理屈は、それを説明する為に構築される抽象的な道具に過ぎない。
鳩目は憎む。他者を。エリューションを。エリューションを肯定する歴史そのものを。
ありもしない埋め合わせにふさわしい物は。
相応しい生贄は。もう決まっている。

――――お前たちは、わたしが殺さずに置いてやっているだけだ。
――――わたしに殺す権利も力もないから、生かしておいてやっているだけだ。
――――お前など、お前たちなど、お前たちを本当は、本当は……!!

以上……。」

アイコン

広告

kiwivege について

nothing
カテゴリー: バロックナイトイクリプス パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中