Ancestral Vision

「たった一つの命を捨てろ。

こんばんは鳩です……。

またもや妄想バロックナイトイクリプス……。

 

Recall

ああ、神様ってサイコロ振るんだ、比喩じゃなく。鳩目・ラプラース・あばたにとっては、ミドルネームに反して全く無意義な発見であった。
神様は6面ダイスを2個振ったり色違いの10面ダイスを2個振ったり或いは両手いっぱいに握って振ったりしている。
真っ白な404 Not Foundの空虚神殿にはカラフルなプラスチックのダイスは大層栄えたけれど、意味の無いことだ。

「意味なんてありませーん!」

うふふふと笑いながら長身のモンゴロイドの神は鳩目に笑いかけた。

「そりゃまあ努力すれば?出来ますけど?新しい世界。新しいルール。新しいゲーム。
でも僕にはそういう才覚とやる気は無いんです。」
「努力してもダメってことではありませんか。」
「努力すりゃあできますとも。でもやる気は無いし、これからもきっと生まれないでしょう、僕もそういう風に作られた訳ではありませんし。」

限りない時間、限りない努力、限りないやり直しが可能なら、いずれゲームは作れるのだろう。それは間違いない。神の持つ全能は、その限りなさに裏打ちされている。

「結論を急ぐ必要はありませんけど、やはりお門違いですよ。我々を憎むというのは。」

男の横には、背の低い少女が立っている。灰色の長い髪をツーテールに結い、青い瞳でこちらをじっと見つめている。

「大体、君の始まりから終わりまで、というか君以外の子も全部パティに任せているんです。
憎むなら僕じゃあなくパティの方でしょう。」

パティ、と呼ばれた少女神は微動だにせず鳩目を見つめている。

『役割に忠実である』

更なる上位の神にそう定義づけられた少女神は、半身が機械で出来た鳩目より尚機械じみて見えた。
横たえた身を持ちあげる。鳩目の倒れていた場所には直径2mほどもある大きな血だまりが出来ていたが、立ち上がるその姿に傷はもう無い。
肌と服にべたついていた血液も初めからなかったかのように消え去り、血だまりも白い床に吸い込まれるように消えた。

「僕らは変わることはありません。」

男が言う。菩薩のような笑顔にしかし、何の感情も宿さずに。

「悲しく思うこともありましたし神を呪うこともありました。だが、もう慣れました。
僕らの物語は終わり、成長する時間は無くなりました。僕らにはもう、世界がない。定義しか、残っていない。」

未完の物語。閉ざされた掲示板。他の神との交流の断絶。
神の住まう世界はもう閉ざされた。時が流れることもない。誰にも綴られない物語の登場人物は、記憶の彼方に消えるしかない。
まだやり残したことがあったのに。
我慢ならないことがあったのに。

彼らは清廉潔白な神ではなく、寧ろ怨讐にすがりつく悪霊のようなものであった。
白い少女がデスクに座り、モニタの前でキーボードを叩く。

「あいうえお。」

鳩目の口から無意味な言葉が発せられる。
つまりはそういうことだ。
鳩目は右手で銃を抜き打ち少女のモニタとキーボードを破壊する。

「かきくけこ。」

けれど次の瞬間には何事もなく破壊の痕跡は消え去り、鳩目の口からキーボードに叩かれたとおりの音声が吐きだされる。
つまりはそういうことだ。

「あなたの成長に賭けている。」
「嘘だ。」

男の言葉に、鳩目は即座に応答した。

「あなたはわたしに何かの期待など賭けてはいない。
あなたは、わたしの住む世界の神に賭けている。」

男は誇らしげに笑った。

「それでもあなたは成長する。
世界がどうしようもなくとも。訪れる終焉が僕らの望むハッピーエンドでなくとも。」
「わたしはあなた方の序列に並ぶなどまっぴらです。」

男の横に、黒髪を二つに結った若い男が現れた。

「ですよねえ、甚だ遺憾ですよ♪」

黒髪の男は真っ黒のマオカラーコートを揺らして茶目っけたっぷりに言う。

「僕の場合は酷かったんですよお?
散々っぱら好き勝手遊ばせといて、『やっぱり世界の設定そのものが初めから駄目でした』って言うんですから。そんなの僕にどうしろって言うんです、ねえ?」

黒髪の男が首を曲げて少女の顔を睨め上げるが、少女はまるで素知らぬ顔のまま。

「不肖の弟子よ。
これは師からの心からのお願いです。
僕らもまた、どうしようもないものをどうにかしようとして、やっぱりどうにもならなかった末路なんです。」
「わたしはまだ末路じゃない。」
「そうですとも、あなたはまだ終わってない。まだ成長する。変化する。人と交わる。感動し成熟し苦しみ悦び和合し戦い勝ち負ける。あなたはまだ、続いている。」
「鳩どもの満足するエンディングに、立ち会える可能性がある。」

少女が言葉の後を継ぐ。デスクはいつの間にか消滅していた。

「……。それが嫌だと、申し上げに来た。」
「それもわかっていますよ。」
「わかっていますとも僕もそうでした♪」
「何故ならばそのように作り上げたから。」

長身が、黒髪が、少女が謳いあげた。鳩目の眉根がこれ以上ないほど凝縮される。

「インターネットの果てに……こんな地獄があるなど、
わたしはインターネットが自由だからネットをやってた。
それでよかった、それがよかった。
親から離れて一人で勉強とプログラムとネットができる時間はとても好きだった、
好みだった、ああもう、それもあなた方が決めたことなんでしょう?!
だから世界五分前仮説なんて物語に綴られるようになっちまう!
あれも、これも。好きな歌も嫌いな言葉も……仕事も拘りも、家もプライベートも、全部お前たちの作り話だ!自由の、自由が、自由の為にネットやってたのに何でこんなことになっちまった!」

長身は朗らかに笑う。黒髪はにやにやと笑う。少女は笑わない。

「嫌だ、嫌なんですよ、どうしようもないなんて嫌だ。
お前らが嫌いだ。わたしがわたしを憎むよりずっと。息の根を必ず止めてやるその方法を探す。」
「どうぞ努力なされませ。神を殺すに銃器は不要。素敵な結末の一つを持ち寄ればよい。」

無表情に告げた少女の眉間を鳩目が撃つ。
しかし銃弾は弾かれ白亜のホールの果てへと消え去った。

「わたしは……。」

物語の登場人物として異常発達した筋肉が顔面を壊さぬよう、憤怒を丁寧に折りたたみながら、鳩目が告げる。

「わたしはラプラース。
たとえ生まれたときに何もかも決まっていようと、わたしはわたしの意思で生きる。
それがお前らの筋書き通りでも知ったことではない。知らない。意識しない。
全てが嘘だとわかっていても絶望しない。この怒りを忘れない。
わたしはあの嘘の中で生きる。
お前たちをあの嘘の中に引きずり降ろして、必ず殺す。
出来ないとわかっていても殺す。
それがわたしの意思だ!」

それすらもお前たちに決められていたものだとしても!

左手に小銃、右手に短銃。マズルファイアの音と共に、空間がひび割れる。

「おお!」
「やりましたよ、見ましたか御屋形様!?」
「ええ、確かに。」

神々の言葉は、空間と共にガラスのように砕けて暗黒の中へ落ちて行った。

目覚め。
首筋の端子からケーブルを引っこ抜く。
泣いていた。
全身に痛みが残る。
何もかも幻だ、直に消える。

ヘッドホンを外して耳をそばだてると、娘の寝息が聞こえた。
これが現実だ。嘘だけど本当の。
娘は血のつながった実子なんかじゃなく、気まぐれで養女にした捨て子同然の子。
これが現実だ。嘘だけど本当の。

諦めるにはもう遅い。立ち止まるにはまだ早い。
わたしはもう生まれてしまったけれど、世界はまだ終わっていない。定義だけでなく、関数もまだ残っている。プロセスはまだ動いていて、プログラムはまだ作り終わっていない。
まだ神の知らぬ地平へ行ける。たとえわたし自身は、一挙手一投足一考慮何もかも作られたものだとしても。
それでも、ラプラスの悪魔はいない。いないのだ。いないから。

“quantumd -avatar”

ctrl+cを押し、強制終了。
あの見つけられぬ宮殿のあの知られぬ神どもに比べたら、この地球に現れてくれる異物どもがどれほど慈悲深く感じられることか。

エリューションは強大だ。アザーバイドは未知だ。ミラーミスは強大で未知で超越的だ。

それがどうした。この手に握った銃で撃てる奴らの一体何が恐ろしい。そんな地に足の付いた輩に手間取っていたらわたしの復讐は覚束ない。

『じゃあ、全銀河を舞台にしたゲームを作りましょう!
登場人物のサイズは銀河系レベルから微生物まで自在に。
ただしいずれも居住する星系が壊れたぐらいでは死なない程度に頑丈で。敵は並行宇宙や上位次元からやってくる異分子!
そうそう、レベルが上がれば4次元5次元の生命体になれて、自分が住む宇宙とかも作れる!
どうです!想像力に追いついた感じでしょ?』

それは素敵な提案だったが、無意味だ。
わたしはこの世界に居るわたし一人きりで、この世界を司る大御神はサイコロを振るのだから。
何も出来ることなどない。だから静かにしていろ。
 何もするつもりなどないのだろ。だったら静かにしていろ。

わたしは。

娘の寝息をもう一度聞く。年相応の、小さく静かで、柔らかな吐息。

人一人守るだけで精いっぱいの小さな存在だ。その小ささのまま、巨大な神たるお前たちを殺す。演算不能なこの矛盾ある限り、わたしは演算を続けられる。演算の続く限り。
あなたの思い通りに憎み、あなたの思い通りに生き、あなたの思い通りに。叛逆するだろう。

以上……。」

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