Chord of Calling

「全人類の汚点だ。

こんばんは鳩です……。

さてさて妄想バロックナイトイクリプス……。

 

Searing Touch

酩酊すると幻覚を見る、とは鳩目あばたの持論であった。

「幻覚こそ真、と。」

真紅のスーツを着た男が、せせり肉を上品に箸でつまみつつ、横目で鳩目を見やる。

「というより、そういう方法でしかたどり着けない。」

鳩目がビール瓶に手を伸ばすと、男はそれを先に取り酌を注ぐ。

「無礼講、オフレコ。これらもクローズドと言う意味では幻覚の一種です。」

グラスの酒を半分ほど飲んで、出汁巻き卵を一切れ口に放り込む。

「『クローズドなら幻覚』、随分と割り切ったことをおっしゃる。」
「観測も証明も出来ない物は論ずるに値しませんから。」
「でも仮説を立てることは出来るのでは?」
「追求不能な仮説など妄言と差はありません。だから、こうして幻覚の中でだけ追求するしかない。」

鳩目が瓶をとり、今度こそ手酌でビールを補充する。
赤スーツの男は肩を竦めて自分のグラスの日本酒を口に含んだ。

「こんなに酒がうまいのに、幻覚ですか。」
「事実など求めて何になります、オフレコなのに。」

次につまんだのはマグロの刺身。醤油を軽く付けたそれを目元まで持ち上げ、じっと見る。
ガラス玉のような機械じみた目に、みずみずしい切り身とそれをつまむ箸、そして箸を操る機械の手が映る。

「これだけが真実だ。」

そう言ってぱくり。

「じゃあその真実を私も。」

男もマグロをぱくり。

「旨いですね。」
「旨いです。」

互いにグラスを傾ける。口内の旨味がアルコールの刺激とからんで喉奥に落ちて行く。舌と喉が次を次をとせきたてる。

「すみません私もう一つ。」
「じゃあわたしはこっちを。」

男がマグロを更につまめば、鳩目はせせりに横から箸を入れる。

「いい店ですね。」
「そう言って頂けるとありがたく。苦労して探した甲斐があります。
神を招くに粗相があってはいけませんから。」
「……やっぱり私も神ですか。」

男が箸を置き、鳩目に顔を向けた。男のグラスの日本酒がゆるゆると波立ち、淡い照明をテーブルに反射する。

「やって欲しくないことをやってくれたんでね。」
「それは、ごめんなさい。」
「いや、謝られる必要はありません。ああいうことができるのが神の特権であるし、何よりわたしも実はああいうのを求めてアークに登録されたという経緯があります。
その意味では、本懐が遂げられたと言うべきだ。ありがとうございます。」
「ではなぜ。」
「ただの意趣返しです。」

鳩目の目が細くなり、口角がゆるく上がった。男にはこれが嘘では無く本当の笑みだとわかった。わかる。わかるのだ。この男にはわかる。

「やって欲しくない、というのは半分本当で半分は嘘です。
わたしは嬉しがってもいる。ああいう『特別扱い』はとても好きです。
一方で、『それは万人に見せうるのか』という部分も、気にはしてしまう。
ただ、万人に見せうるのか、などという問いはそれ自体がナンセンスなのはわかっています。
わたしたちは、クローズドな幻覚の中にこそ生きているのですから。」

グラスのビールを一気に飲み干すと、盛大にげっぷを吐いた。

「あは♪いい酔いだ♪」
「下品ですよ。」
「それでも結構。さあ、ベニー様も幻覚を楽しんでください。」
「まるでドラッグをキメるみたいに言わないでくださいよ。」
「みたいもなにもまるきりドラッグではありませんか。」

鳩目がベニーの目をねめ上げる。

「あり得ぬ場所。自意識の中。そういうところでしか、こういうことは出来ない。」
「やめてくださいよ。酒が薄くなった気がしてしまいます。」
「神々は不自由なものですね、わたしたち被造物のようにフィクションをフィクションと割り切れない。」
「割り切っている被造物はあなたぐらいのものでしょう。」
「まあそれは……。どうかな?」

鳩目がビールをまた一口。店員を呼びとめ瓶ビールを二種頼み、再び男に向き直る。

「わたしがベニー様のことを神として憎からず思っているのは確かです。でなければわたしは一行目であなたの頭をかち割っている。」
「怖いなあー。」

男も酒を一口。

「そも、わたしが斃したい神はあなた方ではありません。あなたがたには寧ろ感謝さえしています。
地母神、大御神、悪の化身、法の神。或いはその僕。」
「シモベっていうのはちょっと。」
「わたしが斃したい神は、わたしを生んだ造物主のみです。」
「なんとなく、私をお招きいただいた経緯がわかりました。」
「ええ、あなたにはわかるはずです。」

誤解されたくない、理解してほしい、感謝したい、悔しさを伝えたい。それらすべての結実が、この状況。
物語の支配者たるその男には、彼女の内面が手に取るように見えた。
いや、見えなければいけないのだ。常に見えていなければならぬ。

「今しばらくは、この幻覚とやらに付き合いますか。」
「肉も酒も充実しておりますれば。
ああ、馬刺しなどどうです。わたし食べたことないのです。」
「じゃあ二皿おねがいしましょうか……。
ところでこれを物語などと呼んでもよいのでしょうか?」
「何、『接触篇』とでもしておいて続編を書けばよろしい。」
「発動篇はちょっと遠慮したいかな私。」


かくして夜は更けゆく。

以上……。」
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