Supply and Demand

「生かしてあげている。

こんばんは鳩です……。

さてさて妄想バロックナイトイクリプス……。

 

Down and Dirty

無理やり握りこまされた札束に、リリ・シュヴァイヤーはもっと疑念を持つべきであった。

「では私はこれで。」
「お疲れ様です。」

手早く金を財布に収めて場を辞するリリに鳩目・ラプラース・あばたは小さな手を振る。銀色の金属でできたそれが街灯の明かりを反射して煌めいた。

「これは一つ貸しだからね、鳩目さん。」
「何のことでしょうか。」

妹の姿が遠ざかるまでじっくりと待ってからロアン・シュヴァイヤーが発した問いに、鳩目はその名の如く鳩のように首を傾げる。

「あいつは、リベリスタだった、そうだろ?」
「フィクサードですよ。紛うことなく。」

鳩目の胸倉をつかみ上げたのはロアンでは無く犬束・うさぎであった。

「まんまとハメたつもりなんでしょうけど誤魔化されませんよ。」
「もう仕事は終わりました。誤魔化してもいませんしハメてもいません。

納得ずくでヤったんだろそうじゃねえとは言わせませんよ。」
鳩目が襟首をつかむ指を捻り折ろうとしたので犬束は身を翻して距離を取った。ロアンの指先からはつい今しがた『敵性異能者』を切り捨てた鋼糸が揺らめき血を滴らせている。鳩目の後ろでは、撃たれ斬られ絶命した人体が鳩目のパトロンの手先によって片付けられている最中だ。

「プログラミングを生業とする鳩目様に置かれましては、不正指令電磁的記録に関する罪についてはもちろんご存知ですよね?」

犬束は今度は手ではなく言葉で鳩目の胸倉を掴む。
利用者を騙し危害をもたらそうとする意図を持ってプログラムを作り提供することは法的に罪である。
鳩目には悪意があったと、犬束は言っている。

「わたしとしては十分に敵の能力と現状を説明し、助力を求めたつもりです。」
「戯言を……。」
「その結果、仕事は完遂されました。与えた情報に不足があったとは思っていません。」
「戯言を!」

犬束が再び鳩目を吊り上げるより速く、ロアンの鋼糸が鳩目の首に巻きついた。

「ワオ。流石ですね。」
「それ以上喋るな。貸しをここで取りたてられたくなかったらね。」

鳩目が肩を竦めて両手を上げると、死神の鎌はひとまず鳩目の首から遠ざかる。

「僕を舐めるなよ。」
「脅しのつもりですか?」

返答の代わりにロアンが再び展開する糸は鳩目の鉄腕が払いのけ、今度は鳩目の手が銃のグリップを握った。

「いいのかい?2対1だぞ。」
「正当防衛に収まる範囲内であるならば、逆襲は可能です。」
「よく言う!」

後ろ手に構えた刃物を、しかし犬束は前には出さない。
全てはもう終わったのだ。
守るべきだったかもしれない命は絶えた。
殺された命は二つ。
E能力者としての力を濫用し、一般人を脅して金を巻き上げていたフィクサード二人。
リベリスタとして活動していたが、一般人にまぎれての仕事の傍ら治安維持活動を行うのは小規模の組織に属するリベリスタにとって大きな負担であり、経済的に困窮していた彼らは借金を重ね、「リベリスタを辞め一般人にまぎれての労働に専念する」か「E能力者としての力を用いて非合法に不当な利益を得るか」の二択を迫られている状況であった。
後者を選んだ時点で、彼らはフィクサードである。
実際に後者を選んだからこそ、犬束もロアンも半ば事情が分かっていながら彼らの討伐に賛同した。
犬束とロアンが拘っているのは、鳩目が「標的は非合法に不当な利益を得ているE能力者である」という情報のみ提供した点である。
標的はフィクサードには違いない。アークのリベリスタとして看過すべからざる状況だ。
だが、問題の根幹は「たかが金銭」。
生活に困窮するほどリベリスタとしての活動に入れ込んでいた彼らに、「道を過ったので即死すべし」と断ずるのは正しいのか?
鳩目はその葛藤の余地を与えなかった。

犬束もロアンもフィクサードを倒すことに異議は無い。無論リリも。
けれど、少し調べれば分かったことだ。彼らは決して望んでフィクサードになったわけではなく、かつ、リベリスタとしての矜持も捨てきってはいなかったことを。
斃す以外の方法はあった。単純に言えば、十分な量の金さえあれば、全ては解決した。アークに口利きして所属させる代わりに当面の資金を約束するか、もっと単純に金を持ちよるでもどちらでもいい。平和的な対処法があった。
それでも鳩目は「一般人を脅かすフィクサードを退治するのに協力してほしい」ということ以上の情報を出さなかった。

「もう一度言うよ?これは『貸し』だ。」

ロアンが鳩目を睨みつけながら言う。ガラス玉のように変容しきってしまった鳩目の瞳からは、表情を読み取ることは出来ない。
今となってはわからない。彼らが心底邪悪なフィクサードだったのか、それとも情状酌量に値するリベリスタだったのか。

「次はありません。」

犬束も鳩目を指差して強く静かに言い渡した。

恐らくは。
鳩目には、「彼らを生かしておいてはいけない事情があった」。
​だからこそ、「殺す以外の対処手段を考慮する余地を与えなかった」。
それを確信したのは、彼らの亡骸を処分する手勢を見た時。
あれだけの人数がいれば、E能力者二人を始末するのはわけがない。リリやロアンや犬束の手を借りる必要は無いはずだ。巻き込んだ理由は、「共犯にしたかったから」。

もっと言えば、「リベリスタの仕事として」処理したかったから。
フィクサード同士の殺し合いと、リベリスタが有害なフィクサードを殺すのとでは、外聞に天地の差がある。後者であればアークのカレイドスコープシステムに引っかかることは原理的にあり得ない。たとえそれが、もっと深い意味をもったものだったとしても。
だがもう、全ては遅いのだ。

「……お疲れさまでした♪」

立ち去ろうとする犬束とロアンの背に、明らかに下卑た笑みを含んだ声が発せられたが、二人同時に振り返った時、そこに鳩目の姿はもう無かった。

以上……。」
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