Search for Tomorrow

「豚のクソ未満野郎!

こんばんは鳩です……。

さてさて妄想バロックナイトイクリプス……。
今宵はこちらの方をお借りしております。

 

Enduring Ideal 1

――――自らの意思で倒れることも許されない
――――言葉も届かない
――――泣いても
――――叫んでも
――――懺悔しても
――――逃れる術はない
――――それが煉獄

木多康昭『喧嘩商売』

鋼の指で軽くはじいたつもりのショットグラスは割れてしまった。
鳩目・ラプラース・あばたはガラス片を拾って齧る。新田・快は身を乗り出して止めたけれども、

「出されたものは残さず頂かなければなりません。」

そういう問題じゃないだろう、と新田はおしぼりを差しだす。鳩目の唇は切れて血を出していた。

「あら、なんて脆弱な肉体。」

出されたおしぼりにガラス片を吐きだし、鳩目は眉をひそめる。

「病院に行った方がいいんじゃないか?」
「この程度の傷、問題ありません。」

にべもなく返事して、鳩目は烏龍茶のグラスを飲み干して鶏の刺身を食う。

「頭の方だよ。狂気の沙汰だ。」
「とは言えわたしはもう狂気に最適化してしまいました。これ以上のoptimizationなど時間の無駄です。」

応答にげっぷでとどめを刺すと、鳩目は手を上げて店員を呼びとめ、更なるビールを求めた。

「何で食べた。」
「何ででしょうねえ、店に迷惑をかけちゃだめだと思ったのですよ。
ほら、体育会系の芸でありませんでしたっけ、ガラスコップ食べるってやつ。
それにわたしはエリューションですから、ガラスぐらいじゃ死なないと思って。」
「死ぬよ。」

新田の目がにわかに暗く濁った。

「急所の傷の深刻さを知らないわけじゃないだろう。」

鳩目はアークでも指折りのシャープシューターだ。眼球、喉、心臓などの臓器を狙って傷つける効果の絶大さをよく知っている。
だが鳩目は嗤う。

「急所の傷の無意味さを知らないわけではないでしょう。」

新田はアークが誇る肉壁だ。腕を切り落とされようと傷を抉られようと決して倒れず幾多の戦線を支えてきた。エリューションにとって急所など無きに等しいということを身体を以て知っている。

「『神秘的効果の無い通常の武器や衝撃では傷ひとつ負わず、痛みを感じることもなく。毒、細菌、放射線、窒息などの不都合な状況でも、我らにとってなんの影響も与えない』。そうでなければならないのです。」
「酔ってるね。悪い酔い方だよ。」
「わたしは至って冷静です。単に冷静で通常のわたしはそもそも性質(たち)が悪いというだけで。」
「否定はしないけどね。」
「否定しろよ!あっはははははははは!!!」

笑いながら鳩目は店員からビールを受け取り飲み干し空のジョッキを返した。「次は一番高い日本酒を冷で」と付け加えて。

「やっぱり酔ってるじゃないか。」
「いいことではありませんか。酒は酔う為に飲むものだ。
そもそもわたし、酒の旨い不味いはわかりません。いや、不味いはわかるが旨いがわからない。」
「それはもったいない。酒には種類や味わいがたくさんある。ただ酔うためだけの酒じゃ味気ないよ。」
「そもそもわたしアルコールの風味そのものが辛くてですね。
その不味さを飲み下した快感がわたしにとっての酒の心地よさでして。」
「えーと、それはよくない兆候だね。」

苦痛を乗り越えた達成感を酒の快感としている。
つまり、酒の味や性質では無く、自分の脳から発する麻薬に酔っている。
こうなると、飲み過ぎの苦痛さえも快楽に変換されるので歯止めが効かなくなる。皮肉にも鳩目自身の言う『毒、細菌、放射線、窒息などの不都合な状況でも、我らにとってなんの影響も与えない』という不死性を破ってしまっている。
考える機械足るべきプロアデプトの職にある鳩目が自己矛盾を起こしているということは、やはり既に深刻な悪酔いであると言うほかない。

「おつまみ何か頼もうか。」
「カレイの姿揚げ!」

話題を変えたかったのに時間のかかるやつを頼みやがって。内心毒づきつつも、新田は店員に輝く笑顔を向ける。

「僕は刺身の盛り合わせと枝豆を。」
「わたしもつまんでいいですか?」
「勿論。」
「じゃあカンパチの刺身を追加で。」

かしこまりました、と注文を復唱した店員が遠ざかる。

「娘さんがいるんだって?」
「はい。養女ですがね。」
「ブログの方にも書いてたよね。」
「あれは色々脚色してますから、鵜呑みになさらない方が。」
「じゃあ好きなように信じるとしよう。」
「それがよろしい。」

店員が歩み寄ってきて、冷やでございますと鳩目の前に徳利と猪口を置いた。

「ありがとうございます。」
「娘さん、何歳?」
「小学生です。年齢は秘密。」
「何故?」
「女性に年齢を訊くものではないからです。」
「それってそういう意味だっけ。」
「そう言う意味です。」

新田のぐい飲みに先ほどの徳利の中身を押しつけるように注ぎ、自分の猪口にも注いでちびりとすする。

「じゃあ別の質問。娘さんとは仲良く出来てる?」
「どうかなー。そうであるように気を付けてはいますが、慕われているとは言い難いかな。こういう仕事してるから、里心芽生えちゃってもそれはそれで面倒ですが。」
「仕事を辞めるって選択肢は?」
「選びませんね。選びません。わたしの人生は彼女の人生より優先度が高い。」
「酷い母親だ。」
「自覚はあります。」
「本当に酷い。」

ぐい飲みに注がれた酒を新田が大きく口に含む。ゆっくり時間をかけて味わい嚥下する。

「いいね。いい酒だこれ。」
「わかりますか。」
「本職ですから。」
「わたしにはわかりません。」

鳩目はちびりと猪口を傾ける。

「アルコールの甘みと、酸味と、痛みしかわからない。」
「……。」
「ちなみに、革醒によって味覚が壊れたとかそういうのではありません。」
「そう。
……体質的にもしかしたらダメなのかもね、アルコール。」
「かもしれません。」

でもそれは、辞める理由にはならない。
寧ろ、体質的に合わず苦痛を伴うからこそ、鳩目の脳内麻薬は多く分泌されるだろう。

「下戸ではありませんが、酒の飲み方と言う意味ではわたしはヘタクソなんでしょうね。」
「そうかもしれない。」
「わたし、今の稼業に入ってから大分スレちゃってね。
いや、生来そういうところがあったような気もするのですが。ぶん殴ったりぶん殴られたりの仕事の中で、悲しいとかそういうことは感じなくなった。
最近は悲しいってどんな感じだったのかもよく思い出せません。
疲れたり辛くなったりもはっきりとは感じなくなった。
酒は手っ取り早く辛くしてくれます。疲れさせてくれます。達成感をくれます。楽しい気分にしてくれます。」
「……悪い飲み方だね。」
「でもわたしには悪さが必要だった。必要だ。今も。」
「それこそ娘さんの世話にその辛さや疲れや達成感を求めることは出来ないの?」
「わたしは娘の人生より自分の人生の方が大切ですから。」

口元だけで嗤って、それからまた猪口の酒をちびりと飲み込んだ。

「それに、子育てという『正しい行い』をしていると、そうじゃないだろ、そうであっちゃいけないだろ、と思う。何ならこの子をぐちゃぐちゃに引き裂いてぶち殺してしまう方が自分だろう。そうして『やっぱり子育て何か出来なかったんだ』って嘆くのが、似合いだろうって。
正しさの中は居心地が悪いんです。わたし。」

鳩目は置かれた枝豆を早速つまんで食べる。
カレイを揚げる香ばしさと潮の香りが混ざった匂いが厨房から流れてきた。

続く。

以上……。」
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