Plunge into Darkness

「鳴くな汚物、不愉快だ。

こんばんは鳩です……。

さてさて妄想バロックナイトイクリプス……。

Enduring Ideal 2

生まれ損なったなら殺すべきだし育ち損なったなら排除するべきだ。
だから生かしてもらっていることに感謝をするのです。ありがとう。ごめんなさい。死にたくありません。こちらを見ないでくださいと祈りながら。駆除されぬようおっかなびっくりと。
カレイの姿揚げはもう骨を残すだけになった。頭の肉も眼球も既に鳩目・ラプラース・あばたの胃袋の中だ。
​​
「この肉体になる前は、こんなに魚を綺麗に食べることはできませんでした。」
機械で出来た指で箸をカチカチとならし、新田・快に笑いかける。背骨をつまんではさみいくつかにへし折ると尻尾の方から順に自分の口に押し込んだ。驚く新田の顔を横目に、鳩目は今度こそカレイの残骸を嚥下しきる。
​​
「ごちそうさまでした。」
「今度は心配してやらないよ?」
「エリューションですから♪」

丁寧に手を合わせる鳩目に新田は苦笑いを向けるがにっこりと笑って返され、新田はぐい飲みから日本酒を煽った。

「酔いが少し醒めたよ。」
「大げさな。この程度、エリューションなら当然のことです。ヒトに数倍する体力、持久力、耐久性能を持つのですから。魚の骨程度で痛いの痛くないの感じるようでは話になりません。」
「でもガラスコップには勝てない。」
「大変業腹ですけどね。半端なことをしやがって。」
「誰が?」
「神が。」
「神。」
「わたしたちのことをまだ人間だと思っていやがる忌々しい造物主です。」
「……鳩目さんって何の宗教だったっけ?」
「宗教ではありません。事実です。」

新田の眉根が更に強く絞られる。

「……そう。」
「信じて頂けるとは思っていませんけどね。」
「正直ね。」
「わたしの望みは、彼らを殺すことです。」
「そう。」
「つまらない話をしてしまいました。」
「いや、興味深いよ。」
「いえ、失礼しました。」

猪口に酒を次ぎ、鳩目は唇を潤す。カレイの皿は店員が音もなく持っていった。

「次は何を食べますか?」
「鳩目さんは自分のことを生まれ損なったと思ってる?」
「酒の肴には向かないと思いますが。」
「苦味が欲しいと思っていたところだ。」

新田の目が真剣に鳩目を見つめる。機械化され瞳を失った鳩目の眼球はそれを受け止めるともなく受け止めた。

「育ち損なったとは思っています。いや、生まれ損なったから育ち損ねたのか。」
「でもアークじゃ頑張ってるじゃないか。」
「真っ当に生きてたらアークになんぞ関わる訳がないじゃありませんか。」

空になった徳利を振り、鳩目が追加のビールを店員に求める。

「わたしは元々はフィクサードでした。今でもヤクザものではある。
そして、それ以外の生き方ができるとは思えない。」
「プログラミングとかできるじゃないか。」
「あれは金の為じゃない。仕事にしたくもありません。」
「もったいない。」
「それは、フリーソフトウェアを全く使ったことのない人間だけが言っていい言葉です。」
「そうか。」

新田もぐい飲みを飲み干し、店員を呼びお勧めの日本酒を訊いて冷やで注文した。

「無料だから価値がある。金じゃないから価値があるんです。
全てはインターネットになければならず、インターネットの全ては自由で暴力的で無料でなくてはならない。」
「それが君の宗教かい?」
「ああ、確かに。それはおっしゃる通り。認めます。」
「だがその教義に神はいない。」
「YES。」

店員が差し出したジョッキを掴み、洗い流すように飲む。

「神はもっと卑近なものです。子を虐待する親のような。」
「なら君の神殺しは親への復讐か。」
「然り。憎しみは何も生まないとよく言われますが、そんなことはありません。
愛されることもなく、愛し方もわからなければ、怒りや憎しみをエネルギーにするしかない。
そうして生きて、培ってきた技術や人生に対して『何も生み出さなかった』とは言わせない。」
「愛されなかったの?」
「愛し方がわからないぐらいには。」
「娘さんは?」
「自分の親よりはマシであろうとは思いますが、愛しているとは言えないな。」
「いや、それは愛しているよ。」
「そういうもんですかね。」

猪口に自分で注いだ酒で喉をうるおし、新田が続ける。

「マシであろうと思ってるんだろ?大切にしたい証拠さ。」
「ならわたしも多少は救いがあるのかな。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「しかし複雑ではありますね。わたしは憎しみも殺意も怒りも捨てる気はありません。それが彼女の情操教育においてよくないことぐらいは知っています。プロレス技などかけて虐待まがいのことをして何とか誤魔化していますが、彼女を歪めるほど憎しみをぶつけたくはないと思っている。」
「よくわからないな。」
「憎みたいのです。でも憎くない。
わたしは彼女を殺そうとした。でもダメだった。憎くなかったし、殺意もなかったから。」
「いいことじゃないか。ああ、いいこととは言い切れないけど、殺さないのはいいことだよ。」
「倫理的にはね。でもわたし個人は憎しみで染まりきっていないとおかしくなる。」

正しさは、わたしらしさじゃない。

「わからないな。アークの依頼じゃ君は一般人を助けようとしてるように見える。
見捨てるという選択肢があっても、助けられる限り頑張ろうとしてるんじゃないの?」
「それはわたしがその依頼を受けるにあたっては『アークのリベリスタ』だからです。
一般人を守るリベリスタ。人間社会に居ることのできない、存在するだけで銃刀法違反の害獣が、その力を治安維持に使える官憲だからです。
ほかの国はともかく、日本では警官や特殊部隊が一般人を犠牲にしてでも犯人を逮捕するなどあり得ないでしょう。」
「なるほど、基準は日本の警察か。」
「わたし個人が一般人をどう思っているかはあまり関係がないんです。
『アークのリベリスタ』とは、一般人を守るという仕事だと思っている。その前提を踏みにじる行為はわたしは我慢ならない。
わたしは人間ではありません。リベリスタであれフィクサードであれ、仕事は忠実に遂行しなければ、人間社会に溶け込んで人間らしく生きて行く権利を持たない。
でなければ、人里に紛れ込んだ獣のように殺されてしまう。」
「ちがうだろう。『殺されなければならない』と思っているんだろ。」
「その通りです。」
「そしてそれは全てのエリューションに当てはまる。君にとっては。」
「わたし個人は死にたくない。けど、わたしたちは死ななければならない。
『したい』と『ねばならない』はいつだって一致を見ない。」
「『ねばならない』ならとっくに君は首を吊ってるものね。」
「首を吊る程度で窒息できれば、ですけどね。」

鳩目はもう一度ビールを煽り、枝豆をつまむ。

「それに、『全てのエリューションは死ななければならない』のです。わたしが単に首を吊るだけでは、それは果たされない。」
「いよいよ宗教じみてきたね。」
「ああ、言われてみればみるほどにですね。わたしは、『人類の社会の勝利』を願っている。
人間の文明は、闇を暴き、物理を解し、知られざるものを知り続けることで発展してきた。何万年も前から今に至るまで死に絶えることなく。わたしはそれを尊敬しているし、一番大事なものだと思っています。
だから、『神秘』なんて言葉でパッケージされた『よくわからない何か』ってのは実は大嫌いなんです。パッケージなんてしてんじゃねーよ、人間、てめーが暴いて『神秘じゃなくする』べきものだろうが。」
「ロシアだったっけなあ。『今まで死んだ全ての人類がよみがえらなければいけない』っての。」
「何ですそれ。」
「キリスト教の解釈の一つだった気がする。人間は神に近づくべきだ、生命を超越した何かになるんだ、とかなんとかそういう。
君のエリューションはみんな死ねってのは、何だかその対極にある気がする。」
「その神様はわたしの言う神とはまた違いますけどね。近づいたところで清く正しくなどはなれない。」
「まるで神では無くて悪魔じゃないか。」
「そうそう、その表現が正しい。我が造物主は神ではなく悪魔だ。魔神と言うべき。」
「悪魔崇拝者!」
「崇拝してませんってば。神は不在で魔神しかいないなら、それを殺すしかありますまいってだけ。」
「エリューションも?」
「エリューションも。こんなクソみたいな生き物を作り出して人間社会を愚弄した悪魔諸共、欠片も残さずこの世から消し去り、この世界を人間の物に返す。」
「ごめん、はっきり言っていい?ついていけない。」
「はははははははは!」

互いに酒を煽る。いくつかのつまみを注文し、互いに言葉少なになるほどには酔い潰れたころ、ラストオーダーのお茶づけと漬物が到着した。

「そろそろか。」
「本日はありがとうございました。」
「こちらこそ。いい店だ。」
「そう言っていただけると嬉しい。
お勘定を。」

鳩目は伝票をひらつかせて、席を立った。新田もそれに続く。
レジで鳩目が財布を出すと、新田がそれを制して自分の財布をひらいた。

「女性に出させる訳にはいかないよ。」
「では割り勘で。」

そう言って鳩目は大雑把に万札を数枚新田の財布に押し込み、店を出た。
湿気混じりの、しかし涼しい風が店内に吹き込む。

「おや、これはひと雨来てたかな。」
「図らずも雨宿りができたということですかね。」
「止んだあとでよかった。」
「ところでこれって浮気にはならないんですっけ。」

新田が激しく咳き込んだ。

「き、君なあ。」
「何ならこの後一発していきますか?」
「ばかいうな。」
「おや一発では足りない?」
「自分をもっと大切にしなよ。娘さんにも悪い。」
「だから。そう言う正しさは居心地が悪いんですって。」
「君はどうか知らないが、他人を巻きこむな。」
「だーかーら。『そういう』正しさが、居心地が悪いんですってば。」

まあ今日は引き下がっておきますけど。
そう言って鳩目はタクシー乗り場へと歩いていった。
鳩目はいずれ、全てを巻きこむ心算だ。そう言った。そう望んでいると言った。
この世界の有様を否定し、壊し、出て行くと。

「でも、今はね。」

今は、それでいい。今の彼女はまだ悪魔ほどには悪辣でなく、神に及ぶほど絶対的ではない。取るに足らない1エリューションだ。その時までは。
いや、たとえその時が来ても。

「僕は、守護神だから。」

許しはしないさ。

雨雲は既に失せ、月が頭上に輝いていた。

以上……。」
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