Pernicious Deed

「居場所なんてないのに何で地球に生まれたの?

こんばんは鳩です……。

……妄想バロックナイトイクリプス……。

No Rest for the Wicked

正義は勝つ。正義も悪も意味を亡くした果ての果てに。

「近代史を重点的に学習させるべき、という意見にはわたしも賛成です。」

鳩目・ラプラース・あばたは、赤らんだ顔でビールの缶を揺すった。

「だがそれは実現しないだろうことも。」
「舐めてますか。舐めてますよね!」

片手間に撃たれる銃弾を避け、閑古鳥 比翼子が鳥類のそれと化した趾に二本のナイフを携え蹴り飛ぶ。

「近代史とは即ち」
「うるさい!!」

閑古鳥の足裏が鳩目の胸に着弾し、二つの刃が深々と突き刺さった。
けれど鳩目はまるで構わず銃底を振り下ろすので、閑古鳥は身を翻して間合いを取りなおす。
すかさず放り投げられたビール缶。腕の代わりに生えた翼で打ち払うと、炭酸の幽かな音と共に小麦色の液体が撒き散らされた。

「くっそ!」

一瞬の目くらまし。それで十分。
二丁拳銃による抜き撃ちは閑古鳥の手足を正確に貫き。
そして鳩目は倒れた。


『手合わせをしましょう』
何故?
『ネットでたまたま見かけたので』
そんな理由で殺し合い寸前まで。

「フィクサードかよ。」
「はい。」

鳩目が唐突に目を開いた。

「いつから起きてたの。」
「つい先ほど。」

そう言って鳩目は軽く辺りを見回す。
胸にはきつく包帯が巻かれ、そばには両手両足に同じく包帯を巻いて坐した閑古鳥が自分を見下ろしている。

「ここはわたしの店。」
「介抱してくださったのですね。」

閑古鳥 比翼子が店主を務める雑貨店「閑古鳥商店F」の奥の居間。
倒れた鳩目を抱え、痛む足で引きずり運んで寝かせた。
何とも律儀な方だ、と鳩目は微笑み、肺の痛みにむせた。

「ありがとうございます。」
「今笑ったでしょ!ありがとうございますじゃない笑い方をした!
そういう目をした!」
「そうですね。お酒はありますか?」
「うちでは扱っておりません!」
「そうですか。」

鳩目は息を吐いて、こみ上げる喀血を飲み込む。
鳩目には酒の上手い不味いはわからない。どうせ不味いのならば血でも同じだと。

「こんなめんどくさい人だと思わなかった。」
「わたしは『ヒト』ではありません。」
「本当めんどくさい!」

閑古鳥が勢いよく立ち上がろうとしてぶっ倒れる。

「いたた……。おかげで今日はもう閉店だよ。」

忘れることに定評のある彼女は足の怪我も忘れていたらしい。店を閉めたこともついさっき思い出したようだ。

「謝礼はお支払いします。」
「いつもこんなことしてるの?」
「いえ、これが初めてです。」
「本当、本当めんどくさい人だ!」
「わたしは『ヒト』ではありません。」
「本ッ当めんどくさい!」

閑古鳥は怒りのあまり両拳を畳に叩きつけ、痛んだ両肘を抑える。腕の怪我も忘れていた。

「やり過ぎだったかもしれませんね。」
「本当辛い……痛い……。」
「行動不能にして勝ちとさせてもらおうと思ったのですが。」
「残念わたしの勝ちでした!
でも辛い……痛い……。」
「アンデッド相手にやる定石なのですけど、割と汎用性があります。」

うずくまる閑古鳥に鳩目は満足そうに笑う。

「そう言えば、死人は最近アークにも出たのでしたっけ。」
「……。」

うずくまったまま、閑古鳥が鳩目の目を見下ろす。
ガラス玉のような機械の目は、閑古鳥自身の顔を正確に反射していた。

「羨ましくて、八つ当たりしてしまったのかもしれませんね。あなたに。」
「なんて迷惑な話だ。」
「謝礼はお支払いします。」
「やったー!
 でも辛い……痛い……。」
「ええ、辛い。正義は……。
そう、正義の話をしてました。ほら、手合わせの最中にわたしが歴史教育の話をしたでしょう。
近代史から学ばせるべきだって。」
「近代史……金田一……。」

閑古鳥はうずくまりながら両手両足の痛みに耐えていた。
そんな有様でよくも自分をここまで運んだと鳩目は感心する。
最も彼女も臓腑を貫かれて平気でおしゃべりしている辺り十分に人間離れしているのだが。

「近代の歴史って現代では蟠りだったり争点だったり前提だったりするのですよ。
ナチスは悪い奴らだ、
日本は中国を侵略した、
原爆は人を沢山の後遺症患者を残した。
そうすると、政治的な理由による解釈の違いが避けられない。
どの国が一番殺したか、とか。どの国が最も残虐であったか、とか。」
「布団を汚さないでよ。」
「クリーニング代は別途お支払いします。」
「やったー!
落ちるかなこれ……。」

喀血を交えながら話す鳩目のせいで、布団には血液のマーブル模様が描かれ続けている。
鳩目は構わず話を続ける。

「そうすると、客観的な歴史解釈なんてものは望めない。
眉唾ものの見解を堂々と述べる国家もあるし、そこと国交のある国としては面倒な話でもあります。
近代の歴史は、歴史ではなく政治であり情勢なんです。たとえどんなに客観的で正しそうな歴史解釈があったとしても、都合が悪ければいろんなところから文句を言われる。
そうすると、千年前ぐらいなんですよね、まともに歴史として語れるのって。」
「傷が治るまで黙ってたら?」
「女子は喋るのが仕事ですから。」
「『ヒト』でもないのに女子ではあるの?」
「だから、正義は必ず勝つ。正義も悪も意味を亡くした果ての果てに。」

何が『だから』なのだ。

「勝った者が正義だ、という言葉がありますが、わたしは一面の真実でしかないと思います。」
「正義は必ず勝つ!」
「勝っても滅ぼされてしまえば。その正当性も怪しくなる。
風化して消え去ったものだけが、現在に影響を与えない『物語』として評価を受けることができる。」
「正義は滅びない!」
「滅びなかったものだけが、正義です。」

上半身を起こした鳩目が大きく咳き込んだのを見て、閑古鳥は咄嗟に洗面器を差しだし血を受けた。

「流石ですね。」
「熱でも出るかと思って手拭を浸すのに置いといたんだけど、役に立ってよかった。」
「お気を使わせてしまいましてすみません。」
「いえいえ。」

頭を下げ合う二人。

「正義の為に死ぬ。」

鳩目の言葉。

「どう思います?」
「死ぬのはよくない。」

閑古鳥は即答した。

「死ぬのはよくない。よくないけど、正しさの為に、うーん……。
そういうこともあるかもしれない。ていうかわたしらリベリスタってそういう仕事だよね。
死にそうになりながら正義の味方やってるじゃん。」
「そうですね。」
「正義は負けないし正義は勝つよ。
正しいものは滅びない。
悪が栄えたためしはない!
でもそれって、正義の為に死んでもいいっていう正義の味方がいるからこそって思う。」

既に手足の傷はふさがりかけている。「革醒者」としての超人的な身体が、閑古鳥の手足の痛みを急速に薄れさせている。

「正義の味方が倒れても、正義は死なない。
正義の味方には、正義には、命を賭ける価値がある。」
「ええ、悪をのさばらせるのは良くありません。」
「悪を滅ぼして正義を示すのだ!」

高らかに腕を掲げる閑古鳥にもう痛みはない。精神の高揚が身体の治癒を促したようだ。

「正しさの為に命を賭けられるのは、危ういことだと思います。でもわたしはそれが羨ましい。
 わたしは正しさだけで生きているわけではありませんから。」
「鳩目さんフィクサードなの?」
「はい。」

しばしの間見つめ合う二人。
古い畳の饐えた匂いと、夕暮れの日差しが混ざる。

「わたしは、革醒者としての力をリベリスタとしての活動だけに使っているわけではありません。
 重い物を持ち歩いたり凄い速さで走ったり、透視のスキルをドアの前の訪問者を確認するのにつかったり。
 自分の利益の為だけに能力を使っていますから、フィクサードでもあります。」

鳩目が目を細める。
試すようなその目に、嘘だ、反射的に言いそうになった閑古鳥であったが、その言葉が妥当でないことを感じ取り口を噤む。
代わりに、当たり障りのない言葉が選択された。

「いいんでないの?そのくらいなら。」
「いけません。本当はね。
 人よりずっと速く走れるなら交通機関の意味が薄れます。
 そんな速さでぶつかったら死亡事故になるかもしれません。重い物を運ぶのも同様に危険です。
 透視だって他人のプライバシーを侵害するにはもってこいのスキルだ。」
「それは気を付ければいいんじゃない?」
「気を付けているかどうか、誰がわかるのでしょうか。
 魔が差さないと誰が保証できます?
 革醒者はまともな人間じゃ手を出せない。一端暴走したら手に負えない。
 わたしやあなたがそうならない保証はどこにもありません。」
「保証はないけども、」
「保証と言うか信頼がないのですよ。
 まともな人間なら訓練された警察官には勝てない。銃で撃たれたら死ぬ。
 人でなしの犯罪者も大抵は公的な暴力で鎮圧できる。
 でもわたしたちはそうじゃない。警察官が何百人襲いかかってきても逃げ切れるスキルがある。
 監獄にぶち込まれても抜け出すスキルがある。
 そんな奴を果たしてどうやって信頼すればいい?」
「アークに頑張ってもらおう!」
「そうですね。そうでなければ、暫定フィクサードとして扱うのが最も安全です。」

鳩目が胸をバシバシと叩くと、閑古鳥が洗面器を素早く差し出した。
大量の喀血が洗面器を満たす。咳払いの音が古風な六畳間に反響した。

「アークなら大丈夫!アークなら安全!アーク印のリベリスタ!!」
「果たしてそれは正義でしょうか?」
「正義じゃないけど、正義の味方ではあるよ。」
「正義の味方なら、誰でもなれます。
 でも、正義の殉教者にはなかなかなれない。」
「命は張れないってこと?」
「わたしには正義より大切なことがあります。」

鳩目は立ち上がる。
もう胸は痛まない。
閑古鳥を見下ろし返す。

「羨ましかった。ただそれがすべてだ。」
「元気になったようでなにより。」
「悔しくない。でも羨ましい。妬ましい。憧れる。」
「憧れは理解からは最も遠い感情だってアイゼンも言ってたね。」
「ええ。同じ道を歩んでいるなら悔しい。努力の足りなさ、力の足りなさ、歩みの足りなさが。
 違う道を歩んでいるから羨ましいのです。どうやってももうそっちの道には合流できない理不尽さが。」
「理不尽?」

閑古鳥が立ち上がり、鼻を鳴らしてガイナ立ちした。

「自分で選んだ道なのに、理不尽だなんて我がままです!」
「ええ、わたしは我儘に生きたい。」

鳩目が笑う。

「今日はありがとうございました。」
「おう!」
「またいずれ。」
「いや、二度目はいいです。」
「そうですか。」
「はい。」

金は後日振り込みで。そう言って鳩目は閑古鳥商店Fを後にした。
帰り道、新田酒店でワインを買った。店主は不在だった。

押し入れにしまったワイングラスを引っぱりだし、なみなみと注ぐ。

――――己の正しさに死を捨てた者から、己の正しさに殉じた者へ。
――――汝の正しさが、正義となることを祈って。

献杯。

以上……。」
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