Your Will Is Not Your Own

「倒れて死ね。理由などいらん。

こんばんは鳩です……。

……妄想バロックナイトイクリプス……?

All Shall Smolder in My Wake
踏んだ地雷は足を離すと爆発するタイプで、俺はどうやら踏んだ足を優しく抑えられたのだ。

「僕が機嫌を直す言葉を口にして見てください。」

目の前の男は白いマオカラーコートに白いスラックス、おまけに白い革靴と白づくめ。

黒い髪に黄色い肌、あり触れた茶色いモンゴロイドの瞳。身長は190cm弱ほどで、人種にしては高い方。
その少し後ろに、灰色の髪をツーテールに結った肌の白い少女が控えている。

「嘘でも全然構いません。あなたは頭がよいのでしょう?僕が望む言葉を口にしてください。」

俺は確かに頭がよかった。『命乞いをしろ』と言われているのだと察せるぐらいには。
奴の周りから無数の怨霊が現れて俺を取り囲む。霊気は冷気を伴って、空気が凍ってキラキラと光る。ガチガチ歯が震えるのは恐怖のせいか寒さのせいか分からない。
何が奴の機嫌を損ねた。直前のやり取りを思い出せ。俺は、何と言った。

――バカな人間に知恵を授けてやってんのさ!――

そうだ、そう言った途端、俺の右手のアーティファクトは砕け散った。砕かれた。何をされたか全く見えなかったが兎に角壊された。
『知恵の苹果』、他者の知覚と未来の預言をもたらす神秘の遺物。手に入れるには苦労したのに、一番欲しいときにはもうありゃしない!考えろ、考えろ。何が気に食わなかったんだ。

――バカな人間に――
――知恵を授けて――
――やってんのさ!――

俺はそう言った。目の前のマオカラーみたいな、優位をひけらかす奴が一番欲しい言葉は……畜生寒くて思考がまとまらねえ!

「わるか、悪かったよ……。」
「はい。」
「俺、俺は、ひっ、俺はつまんねえチンピラだ……。」
「はい。」
「あ、あんたみてえなすげえ奴がいるとは……思わなかったんだ……。」
「ふむ?」
「見逃してくれ、頼む、頼むぅ……。」
「ふーむ。」

何だよ!なんだよ「ふーむ」って!
ひぃ、歯の根が震え過ぎて顎が壊れそうだ、寒い、寒すぎる、凍っちまう、何だよこいつ何なんだ、何の能力を持ってやがるんだ!
調子に乗って「授けてやってる」なんて言ったのは悪かったって言ってるじゃん!それ以上に何を求めるってんだ!

「一。バカな人間に。」

は?

「二。知恵を授けて。」

はぁ?

「三。やってんのさ。」

はあぁ?

「三択です。」

ええ?!

「10秒以内に答えなさい。」
「あ、あぐっ、あっ、」

奴の手には砕かれた苹果の欠片が握られてた。俺が何考えてんのかわかってんだろう。でも嘘でもいいから喜ばせてみろって言った、だから、あ、もう、喉まで凍って、鼻息で鼻毛も、息が。

「は、はっ、」
「はいぃ?」
「……さん」

目の前が真っ白に光った。足が地雷から引き上げられたのだ。
痛みも熱さも感じる暇なく、感覚はすべて真っ暗に消えて。それっきり。

――――

ここまでがわたしの見た景色、と未来予測士(フォーチュナ)真白・イヴが言い終わる前に、鳩目・ラプラース・あばたは「すみません、電話が入りました。」と告げて部屋を後にした。
鳩目は携帯電話を操作しつつアーク本部の正面玄関を抜け、そのまま最短距離で駐車場へ走り、バンに乗り込んでイグニッションキーを回す。
高速道路を走ること20分。助手席に置いていた携帯電話が震えたのを見て、鳩目はバンをパーキングエリアに滑り込ませた。
ブリーフィングルームを出る際に電話を受けるふりをして送ったメールに返事が来ていた。

『件名:Re:鳩目です
本文:僕らは今そこにはいません。

フォーチュナに捕捉された、正しくはこれからされるのはこちらの落ち度です。
でも僕らのことだから、わざとそうしたんでしょう。
落ちあいますか?』

「くそが!」

悪罵を苛立ちと共に吐き捨てる。本当はハンドルを殴りつけたい気持ちだったが、今の自分の人外の力ではあっさり壊してしまうだろう。
我ながらみみっちい怒りの発露だ自嘲してから、深呼吸をひとつ。機械化された思考回路を全力で回す。
きっちり60秒後、鳩目は携帯に指を叩きつけ始めた。

『件名:Re:Re:鳩目です
本文:落ち合います。』
送信ボタンを押した次の瞬間、隣の駐車スペースから人影が現れた。
白いマオカラーコートを来た長身の男と灰色の髪をツーテールに結った肌の白い少女。
男はにこやかに、少女は無表情で、運転席の鳩目の顔を見つめている。
鳩目はパワーウインドウのスイッチを入れ窓を開けた。外に顔を向け、溜息のように挨拶の言葉を吐く。

「…………どうも。」
「どうも♪」

男がにこやかに首を傾げる。少女は鳩目以上に愛想のない顔でただ鳩目を見つめている。

彼らが、鳩目の裏稼業の師匠の、更に師匠。
直接出会った回数は少ないが、鳩目は彼らが苦手だった。
自分の師匠は自由闊達でかつ残虐冷酷無比な蛇蝎のような男であるが、彼らはそれに輪をかけて秩序と善性を欠落させている。

「事情はもうご存知ですよね。」
「ええ、迂闊にも隠蔽術に漏れがあったようで。」
「いや、そもそも『こちら』にご用事などおありなのか。」

鳩目の薄青い瞳が宵闇に外灯を反射する。
彼らは、『控えめに見て』アザーバイドだ。この地球上の住人ではありえない。
此処とは違う別の地球に生まれ、超常の力を手に入れ、それを伸長し成長させ、次元を渡る力を手に入れた怪物たちである。

「異なことをおっしゃる。ここ以外の次元など、ほぼ未定義ではありませんか。」

男が言葉を口にした瞬間、空間が歪み空気が激しい破裂音を発生させた。鳩目の脳裏が激しく明滅し、目と鼻から血が溢れた。

「上位世界の価値観を持ちこまないで頂けますか。」
「抵抗すると却って傷むと申し上げたでしょう?」

苦痛にゆがむ鳩目の顔に男はハンカチを差し出し血を拭った。それはごく自然な仕草だったが、もたらされた結果は至極不自然な物だ。
鳩目の顔には血の跡が欠片も残らず、毛細血管の傷みさえ瞬時に消滅したから。

「……退いて頂けますよね。」
「どこから?」

男は笑みを崩さない。

「万華鏡にひっかかった。アーク(うち)のリベリスタがあなたを倒しに来る。あなたの存在が公になることははわたしにとって著しく不利益だ、ですからこちらの世界から暫く消えていてください。」
「手厳しいことですねえ。そう思いません?パティ。」

話を振られた少女は小さく首を振った。男はそれを見て大仰に肩をすくめる。

「いいじゃありませんか。物語は終わった。
あとがきや奥付のページにどれほど落書きを施そうが、もう誰も気にはしませんよ。」
「あなた方にとっては我々はただのインクの染みかもしれませんが。」

機械化された鳩目の目が、ピント合わせに幽かに唸った。

「わたし達にとっては正に事実、現実なのです。」
「ですが僕らにとっては君らはただのインクの染みだ。」
「ああ、そうでしょうとも!」

運転席のドア越しに引き金を引く。
唯の銃では無い、対怪物(エリューション)用の、怪物(エリューション)たる鳩目であるからこそ使える大口径重量拳銃。それが左右の手で二丁。
機械の掌は正確に二人の怪物の急所を狙うように銃把を握り狙い、鋼鉄の腕が反動を支えるように硬く力を込める。

それでも。
発砲音すら間に合わなかった。

左右それぞれ一発目の銃弾がバレルを同時に通過しかけた瞬間、鳩目の載っていた車は押しつぶされ、駐車場の白線に沿った長方形の地面の窪みと化した。

「どうぞお休みください♪」
「今までお疲れさまでした。」

男と少女が地面に向かって恭しく頭を下げた。

「あなたは達成できなかった。それはあなたの責任ではありません。しかし、あなたは達成できなかったのです。これ以後、もう達成する見込みがないのです。
勿論僕らもそうですが……。同じく無意味ならば、より楽しい選択肢を選ぶのは、極めて自然でしょう?」

殺戮者の問いに、アスファルトの染みは答えなかった。
彼らの足音は、幻ではなく確かに。このボトムの空気を揺らし、遠ざかって行った。

以上……。」

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