災いのように自由に

「ひねり殺されろ!

こんばんは鳩です……

……妄想ケルベロスブレイド……。

青い鳥になればいい
硬貨を打ち抜いた弾丸は遥か地平線の山まで飛び去った。

「一先ず、自己紹介としては十分では?」
「お見事デス。」

鳩目・ラプラース・あばたが銃口の煙を吹き散らすと、パトリシア・バランは笑顔で応えた。
鳩目はパトリシアの方には顔を向けず、銃を収めた手をにぎにぎと動かして感触を確かめていた。

「翻訳された結果にしては違和感がなくてほっとしました。」

鳩目・ラプラース・あばたは機械化種族レプリカント、「ということになっている」。
両手は銀色の小手でできており、頭部からはツーテールに結った髪のようにアンテナが左右に生えて垂れ下がる。
黒いショートタンクトップの下に見える腹部には頑強な筋肉にチューブやケーブルが繋がっている。
両の眼球はアイスブルーの透明な球体で瞳がなく、代わりに神経回路が透けて不規則に光を放っている。
この世界の人間ならば、誰が見ても彼女のことをレプリカントだと認識してくれるだろう。

「レプリカントと地球人との差異は千差万別だそうですから、あなたの肉体もほぼ完全に再現可能だとは踏んでいました。」

ツーテールの黒い長髪の青年、丘・敬次郎がにこにこと笑いかける。かつての師に鳩目は不愉快そうな視線を返した。

「わたしも暇ではないのですが。」
「ウソおっしゃい、あっちでの仕事は終わった癖に。」
「終わっていません。あなたと同じく。」
「アノー。」

丘と鳩目の言い合いにパトリシアが片手をあげて割って入った。

「『先輩』、ご用事は何なのデショウカ?」

その言葉を聞いて丘は笑い、鳩目はため息をついた。

「言ってなかったんですか?」
「言葉で説明するものでもありませんしー。」
「全く。」

鳩目は再度のため息をつきつつポケットの中から携帯ゲーム機のような何かを取り出した。慣れた手つきでそれを操作すると彼女の手元にノートパソコンが出現する。

「ワオ!物理法則無視系デバイス!」
「喧しい。」

突如の荒い言葉に面食らう暇もなく、ノートパソコンに接続されたケーブルが伸びて宙を舞い、パトリシアと鳩目の首筋に突き刺さった。二人の肉体は力を失い、地面に倒れこむ。

—-

真っ白い空間。
白い床、白い空。それのみ。
何もなく果ても見えず、確かなのは己の肉体のみ。足元、両手を確認し、パトリシアは自分自身を見つけ出す。

「手短に済まさせて頂きます。」

声と共に、前方に鳩目が現れた。
右手に拳銃、左手に機関銃を持ち、既に戦闘態勢に入っている。
先ほどまで何もなかったのに。

「アノ、」

言葉は腹部の痛覚で遮られた。背骨まで貫通した銃弾は、あっさりとパトリシアを床に倒した。

「立ちなさい。」

言いつつも鳩目は連射する。銃弾の当たった部位は消し飛び、パトリシアの肉体を削り去って行く。

「見た目ほど痛くはないはずだ。ここは人が死ねるようにはできていない。」

豪雨のようにたたきつけられる銃弾に、しかし確かにパトリシアは意識を保っていた。
自分でもわからないが、この痛みは耐えられる。立てる。
既に頭部は殆どがなくなり、手足も千切れていたが、それでもそう思えた。
両手を地につけ、起き上がる。
立ち上がる。大丈夫だ。
大丈夫。

「それです。その感覚を覚えておくように。」

銃声が止んでいた。
同時に、なかったはずの腕と足で立ち上がり、消し飛んだはずの眼球が機能していることにも気づく。

「忌々しいことに、我々は物理法則を逸脱している。
それはあなたがケルベロスと呼ばれるモノであることとは何の関係もない。
……ここは夢の中。だから、あなたが体験したことの無いものは体験できず、あなたが思ったことは何でも叶う。
あらゆる矛盾に我々の想像力が優先する。」
「そっか……ワタシあそこまでこっぴどくやられたコトがないから、手足がないってことを想像デキナカッタノネ。」

左手を掲げ見る。褐色のその手は変形し、虹色に輝く触手となってうねりうごいた。
夢に度々出てくる不定形の怪物のように。

「あらゆる矛盾を想像力がねじ伏せる。
例え現実がそれを拒絶しても、なお我々はそれを真実にできる。
なぜならば、我々は嘘だから。虚構は現実とはレイヤーが異なるから。
あなたの想像力を自由に解放しなさい。知識を蓄え、知恵を使い、自分勝手になりなさい。
材料が多い方があなたはよりあなた自身に成れる。
忌々しいことに、我々は成れてしまう。現実とは全く関係なしに。」

そう言って鳩目が弾丸を打ち込むと、床はガラス細工のように粉々になり、二人は暗い奈落へと落ちていった。

—-

パトリシアが目覚めると、そこは自分の部屋であった。
寝巻を着てベッドの上できちんと仰向けに寝ていた。

「夢ジャア、ナイ。」

はっきりとした記憶。脳が伝える現実感。あの真っ白な空間で撃ち砕かれたこととその上で立ち上がったこと、どちらも現実だ。いや、真実だ。嘘だが真実だ。嘘だから、真実だ。

「ソウ、か。」

嘘は自由だ。どこまでも自由。
ベッドから出て両の足で立つ。確かに感じる重量。安定感。
でも、わかってしまったなら出来るのだ。この安心感を手放すことを。
そう考えた瞬間現実の底が抜け、パトリシアの肉体は暗黒の奈落に再び落ちた。
だが、今度は鳩目に落とされた時とは異なる安心があった。
腰から生えたサキュバスの翼は大きく強く成長し、暗闇を羽ばたく。どこまでも飛べる確信がある。それが真実なのだと確信がある。忌々しいことに。

以上……。」

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