最低限しか健康でも文化的でもない生活

「お前より下などいない!

こんばんは鳩です……

……妄想ケルベロスブレイド……。

祈り方さえわからない
それが仕様としてプログラムされたものだったのか、それとも意図しない挙動であったのか。機械不死者ダモクレスはその思考の答えを出せぬまま稼働限界に至り、心臓部に幾多の鎖が現出した。彼/彼女は鎖に締め上げられ凝縮し、瑠璃色に光る宝石となり、宇宙空間を漂う星屑になった。

「偵察?」
「否。」

パトリシア・バラン・瀬田が見つけたとき、そのダモクレスはボンヤリと夜空を見上げていた。

「演算を行っていた。」
「お邪魔でしたカ。」
「そうでもない。」

鉄色をしていること以外は人間とほぼ変わりないそのダモクレスは、パトリシアに顔を向けると掌から刃を突き出し歩き出した。

「待ってヨ。こんなところで始めたらヒトが来ちゃう。」
「構わん。グラビティチェインの足しにする。」
「ケルベロスも来るワ。」

ダモクレスの足が止まった。

「呼んだのか。」
「イイエ?騒いだらヒトが来るかもしれナイ、その中にケルベロスも混じってるかもって。単なる確率の話ヨ。」
「……。」
「歩きましょうカ。」

ダモクレスは瞳を明滅させながら上下左右に不規則に振った。そして、「いいだろう。」
と応えを返した。

「ヒトケのナイところへ。罠とかじゃナイワって、まあ信じてもらえないでしょうケド。」
「心拍、発汗から判断するに、嘘を言っている蓋然性は極めて低く無視できる程度と判断する。」
「確率の問題?」
「そうだ。」

並んでアスファルトを歩き出す。
パトリシアのベアフットサンダルが鳴らすチャリ、チャリ、という細かな装飾が揺れる音と、ダモクレスが地を踏むガシャン、ガシャン、という足音が、リズムよく不協和音を響かせている。

「ワタシを殺すつもりダッタ?」
「殺すつもりだ。今でも。」
「敵だから?」
「ケルベロスだからだ。お前は?」
「どっちでも?殺し合いデモそのままお別れデモ。」
「……お前らにとって、我らは不倶戴天の敵、というわけではないのか?」
「全体で見たらソウね。でもここでワタシがあなたを見逃しても、大局に影響はないワ。」
「なら何故逃げない。あるいはあの場で戦闘行動を起こさなかった。
騒ぎになった方がお前たちには有利なはずだ。」
「仕事帰りで疲れててさあ。
正式な討伐ってことになったら報告もしなきゃいけないし書面も書かなきゃいけないし、損壊した器物の修復(ヒール)もやらなきゃイケナイ。メンドクサイったら。」
「面倒さの為に、勝率を捨てるのか。理解しがたい思考だ。ケルベロスは必ず滅ぼさなければならない。一体残さず。だがお前たちにとって我々はそうではないのか。」
「倒すワ、いつかは。でも別に今日である必要はない。ワタシにはやりたいことがたくさんあるんだモノ。
人生は短いし、体は老いるし!アンタらの相手ばっかりしてられナイ。」
「お前たち定命の者には理解できないのか。」

ダモクレスは、一歩だけ歩調を止めた。パトリシアの後ろに一列に並んで歩き直す。

「我々デウスエクスは永遠に生きる。老いず、傷つかず、欠けず歪まず永遠に。
太陽系が滅び、銀河が組み変わり、やがて熱的に死、そしてその後何が起こるのか。
我々は永遠に見続けることができる。
お前たちはケルベロスは、そんな私たちの永劫を殺す。永遠に消し去る。無限への可能性を不可逆的に消滅させる。

 だから、一人たりとも生かしておく理由がない。」
「あーらアナタ見た目よりお熱いノネ。熱暴走は大丈夫?」

パトリシアは振り返り言う。

「それにあなたの言うことは現実的ではアリマセン。
デウスエクスは地球のグラビティチェインを消費して生きている。
100億年もすれば、地球という星そのものが赤色巨星になった太陽に飲み込まれて消えてる。
まあそれだけ時間があれば、『ピラー』だの『地球』だのに頼らないグラビティチェインの確保方法を見つけてるカモしれないケド。」
それでも永遠は尊いと?その未来においては、すべてのデウスエクスは完全にグラビティチェインを失い、使い切っているだろう。
己の肉体を保持することすらも適わず、コギトエルゴスムという宝石形態になって復活の時を待つ仮死状態に陥る。
グラビティチェインを供給する新たな星が出現し、偶然にそれと出会い、復活するに十分な量のそれを摂取するその日まで。
可能性はある。宇宙は広く、地球に似た星も存在する可能性がある。広大な宇宙も彷徨い続けていればいずれはそういった星にたどり着くこともあり得るだろう。

「可能性の問題、で、いいノ?」
「……。」
「ワタシには、約束された終末にしか見えないンだけど。」
「それでも。
それでも我々は、今を生きていく必要がある。コギトエルゴスムではなく、この体で。
お前の言うように、新たなグラビティチェイン供給源を見つけるためにも必要なことだ。」
「うっふっふっふっふっふっふっふ……。
永遠の命を持つお方から、今を生きるだなんて言葉をいただくトハ。うふふっ♪」

足音は変わり続けていた。
舗装されたアスファルトから砂利、そして土の道へ。
風景も変わり続けていた。
ビルの並ぶ街から離れ、暗く静かな山間へ。

「……サテ。ダモクレスさん。そろそろ」
「Gyugyuuguuuuuweeeeeeeeeeeeeeee!!!」

猛烈な機械音を立て振りぬかれた剣を、パトリシアの左腕の銀籠手が受け止める。
返しに繰り出す右の金籠手のジャブ連打はステップバックで交わされた。

「やるじゃん Vagabundo.」
「GiGiGiiiiiiiiiiiijijijji!」

攻防は互角と言えた。
ダモクレスが斬りつければパトリシアはそれを防ぎ、
パトリシアがカウンターを狙えばダモクレスは察知して引き下がる。
パトリシアが攻めっ気を出せば、ダモクレスは剣を掲げ牽制し、
ダモクレスが攻勢をかければ、パトリシアは両手の籠手を壁のように構え、防ぎきれなかった傷をヒールグラビティで傷を消し去る。
何合か打ち合ったあと、ダモクレスが剣をもう一本取り出した。
隙を見つけて一撃を入れるのではなく、攻勢で押して隙を抉じ開ける構えだ。
俄かに手数の増えたダモクレスに、パトリシアは防戦一方を強要される。
ヒールによる回復も追いつかなくなり、両手の籠手も傷つきだした。
反撃をしようにも相手が絶え間なく振るうは鋭い刃。リーチも致死性も遥かに上だ。
それでも行かねばならぬ。苦しい時こそ前に出る。そうでなければ勝機ないまま嬲り殺される。
師匠の教えを反芻し、意を決してパトリシアが踏み込む。
その瞬間、ダモクレスの剣がパトリシアの両腕の隙間を縦に裂いた。

「!!」

顔面から胸、そして腹の上部まで一直線に血が滲み、そして噴き出す。
昏倒寸前のパトリシアにさらなる追撃をかけるダモクレス。パトリシアは反射的に両手を突き出すも、痛打に耐えきれず左右金銀の籠手は叩き割られた。
だが、ダモクレスは大きく退く。

「何だそれは。」

割れた籠手から現れたのは、腕ではない。
赤黒い、青黒い、それでいて光を放つ縮れて伸びた触手だ。

「お前は、」

パトリシアの割れた顔からは出血が止まっていた。
代わりに傷口からは底知れない闇が覗いている。

「……何だ。」

縦に裂かれた口が大きく開き、問いの答えを叫ぶ。
ただし、言葉ではない何かで。

「GuGuGuuuuu!!!」

突如叩きつけられた何かにダモクレスの肉体が軋む。
記憶容量に莫大な量の情報が流れ込み、演算装置が急激な負荷を訴える。

『ワタシは、お前たちの』
『ワタシたちの』
『生まれた意味を知っている』
『それは』

大量のノイズ。痛み。頭を抱える。
目の前の者を何とか見据えようと瞳を凝らすとそこには。
触手と骨と立体で編まれた醜悪な手があり。
それは先ほど自分が切り裂いたパトリシアの傷口から沸いていた。

『お前たちの生から取り出す』
『永劫を』
『引き裂く』

受信した言葉を理解する前に、『手』がダモクレスを打ち据えた。いや、打ち上げた。
腹部を打ち前のめりになった体に更に下から。
何度も打ち上げ、その度に触手は伸び、高く高くダモクレスは殴り上げられていく。
一撃ごとに、ダモクレスの神経が異常な感覚を覚え、脳内には記憶と未来視とが交互に差し込まれた。
反撃は愚か姿勢の制御すらもできなくなったダモクレスは、パトリシアの肉体から伸びた異形の拳に押し上げられ、遂に地球の重力圏から遥か遠くへと殴り飛ばされてしまった。
思い返すのは、夜空を見ながら演算していたこと。星の動きと星同士が相互に与える影響、そこから予測される遥か未来の姿。わたしも、その星の一つになるとは。

パトリシアが目覚めたのはいつものベッドの上。
酒を飲み過ぎてぶっ倒れた。そんな記憶がある。酷く痛む頭、今にも吐き出しそうな胃袋を抱え、バスルームへ。
水を一杯飲み、シャワーを浴びてもう一度水を飲む。人心地ついて長い息を吐き、洗面所の鏡に目を向ける。
まぎれもなくワタシでない何か。

以上……。」

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