2足す2は

「虫けらでもまだ可愛げがある。

こんばんは鳩です……

……妄想ケルベロスブレイド……。

鮮やかな迷妄

「ま、免許中伝と言ったところですかね。」

大分甘い判定ですけど、将来性に期待して♪
丘・敬次郎は声をかけたが、パトリシア・バラン・瀬田は土の上に四つん這いで息を整えるのに夢中になっていた。

「龍食み、正式名『無尽打・龍食み』は、死ぬまで打てば死ぬだろう、という理念が根本にあります。今あなたが僕にやったような、『できるだけ長くたたき続ける』というのは、実際には理念からは少し外れる。」

そういって丘はしゃがみこみ、パトリシアの額に自分の額を近づけた。
丘の長いツーテールが地に擦れ、些細な音を立てる。

「しかしながら、僕やあなたのような魔性神性の領域においては、『死ぬまで殴り続ければいつか死ぬ』というのは多くの場合徒労に終わります。少なくとも格上を殺す武器にはなりえない。」

耳元に吐息の温度を伝えるように、丘は囁く。

「何故なら、神魔の戦いにおいて格の違いは極めて絶大だからです。
ヒト同士の殴り合いなら、子供でも格闘技の世界チャンプを殺す目がある。
だが、我々の戦いにおいて、力の差というのはそんな甘っちょろいものではない。
羆対人間ならまだマシな方で、アメーバ一匹対ゾウの群れなんていう差すら茶飯事です。
何しろ種族そのものが違って当然の世界ですから。
アメーバが一生をかけてゾウを殴り続けたところで……
ねえ?」

丘の発する艶めかしい吐息は、パトリシアの官能を少なからず疼かせた。
こんなことに房中術など使わなくてもいいだろうに、と思うも、パトリシアにはまだ言葉を発するだけの余裕がない。

「だから、龍食みの『死ぬまで攻撃を続ければ殺せる』という理念は初めっから破綻している。
破綻した理念など教えてもしょうがないので、あなたには『反撃の暇を与えない連打』こそが深奥である、と嘘を吐いた訳ですが。しかしあながち嘘でもない、と。」

パトリシアが立ち上がる。褐色の肌が日に照らされて光った。丘はにんまりと笑い、その目を見据えながら自分も立ち上がった。

「辿り着けない真実など無意味ですから。より役に立つのなら嘘でもいい、嘘がいい。」
「……そうデスカ。」

荒い吐息のついでに吐き出すように。パトリシアは答えた。

「一先ず中伝、有難く頂きマス。」
「はい♪」

丘は土に汚れた膝をはたき、ついでにパトリシアの膝もはたき、どさくさ紛れに腿をぐっと掴んだ。その手首をパトリシアは握り返し、強くにらむ。
丘は視線を笑顔で返してパトリシアの手を軽々と振りほどいた。

「理念ごと破綻している奥義を何故教えたのか。
それは、概念の実現こそが我々の力の源だからです。
ああ……忍者の職務において、できないことに挑戦するのは下の下です。実現できるように計画を立て準備を整え、実行するときには九分九厘成功している。それが忍者の仕事というもの。
手品師や探偵とかもそうですね。
人の心の裏をかく職業においては本番など一連の仕事のほんの一場面に過ぎない。

しかしながら。」

丘が背を向けざまに手を振ると、青空はこの世ならぬ眩暈の如き虹色に変わった。明滅し流動し湧いて消えるマーブル模様は眼球を通して脳をかき混ぜんとしているようだ。

「アメーバの分際で、ゾウと戦わねばならない時は来るのです。
何しろアメーバですから、自分の都合通りにはゾウを動かせないこともある。というか大体そうです。
それでも死にたくはありませんし、なんとなれば今この場でぶち殺さなければいけない時もある。
そういう時に必要なのが、概念の実現という奴なのです。」

丘が振り返ると同時に、空は通常の青へと戻った。
パトリシアは拳を構えていたが、一度は飲み込んだ吐瀉物を異変が収まったことで力なく吐き直した。

「力の及ばぬ相手には『死ぬまで殺し続ける』など出来ない。
しかし、出来ないというただ一点を除けば、『死ぬまで殺し続ければ死ぬ』んです。
『殺せるまで殺し続ければ殺せる』。
自分がアメーバなら、アメーバでなくなればいい。自分もゾウになればいい。ゾウほど巨大なアメーバになればいい。
『殺せるまで殺し続ければ殺せる』という概念を実現可能な何かになればいい。
本当とか真実とか、そんなものは味方になってくれません。
嘘でもはったりでも、不可能を不可能のままにしている前提条件を塗り替えるモノだけが味方になってくれる。味方に引き入れなければいけない。
これは単なる精神論じゃないんですよ。そういう魔法が必要になる時が来る。そういう魔法でなければ太刀打ちできない相手が、実在する。」

真剣な丘の目を、真剣なパトリシアの目が見つめる。
パトリシアにはもうわかっている。
彼の言っていることは出鱈目ではないと。
先ほど丘が引き起こした異変も、これまで彼が数多の理不尽を実現してきたからこそできる芸当なのだと。
そして、そのような『嘘』がパトリシア自身の身を隙間なく埋め尽くしていることも。

「僕の師匠達は、そういう『嘘』の達人です。
それでありながら、どこまでも嘘を許せない人だった。」
「人(ヒト)……?」
「そう、人(ヒト)♪」

パトリシアの疑問に丘は我が意を得たりと満面の笑みを返した。

「あの人たちはねえ、どこまで人(ヒト)なんですよ。
どうしようもない人でなしですけど、人(ヒト)でしかありえないんです。
人間ってのは、大なり小なり誤魔化しの中で生きています。
嫌だけど我慢するとか、うっかり口をついて出た言葉に引っ張られるとか、相手を気遣うが故に自分の感覚を無視するとか。
世代を超えれば、殺された痛みさえも忘れられる。
酷い戦争をした相手とも、時間さえかければ笑顔で握手ができる。建前と分かっていても。
それどころか本心ならぬ建前こそが妥協の本質であり、妥協こそが組織を、ひいては国同士を繋ぐ絆となる。
それが人間の強さです。真実よりも現実を見て、実利の為に原理主義を排する。
都合の悪いことは忘れ、状況に合わせてペルソナを無自覚に切り替えそれでも同一性を維持できる。そんな欺瞞を欺瞞とすら認知しない。
それが人間の理性であり、本能であり、柔軟性であり、強さです。
……師匠達は、それが欠けている。」

欠けている、とは。

「人間と折り合いが付けられないんです。
『正しいことは正しい』。
……ああ、いや。『悪いことは悪い』。そんな理念に嘘を吐くことが出来ない。
だからこそ、彼らは人でなしなんです。
人には違いないが、人の間に生きる人間ではありえない。
狂人と呼ばれる種類の存在です。」

パトリシアは思い出す。
幼いころ、傘立ての傘を盗った。
そこに傘があったから。今にして思えば、無料で持って行ける展示物のように見えたからだろう、と理屈はつけられる。
今は悪いことをしたとは思うが、償うほどの気概はない。
或いは、同級生の悪口を流して傷つけたことがある。
本当に奴が学校から消えてしまえばいいのにと願い、それが正しいと信じた。
今はそれが愚かな拘りだとわかるが、謝りに行かねばならぬと急き立てられるほどの罪悪感はない。

「どうしようもない凡人……。」

パトリシアの口から漏れた言葉に、丘はまたにんまりと笑った。

「僕やあなたは、その点で決定的に師匠達と違うんですよ。
まあ傍から見たら狂気の度合いの違いでしかなくて、フツーの人から見たらどっちも狂った殺人鬼にしか見えないでしょうが。
僕らはフツーじゃないんで。僕らの立ち位置から見るしかない。
そうしたらやっぱりあの人たちは、段違いに狂っている。」
「……ソレデ?」

パトリシアは自分の声の意外なほどの冷たさに驚いた。
そもそも自分がフツーじゃないなんてことをワタシは『知ってはいるけど認めてない』し、上の連中がどの程度狂っているかなんて興味ないし関係ない。

奴らは『世界を作ったと嘯く神が許せない』と言っていた。すべての行動はそいつらをぶち殺すため、と。
その不可能を嘘にするために、様々なことを嘘で塗り替える方法を練り上げたのだ。

存在しないはずの場所に存在する。
耐えられないはずのダメージに耐える。
避けられないはずの老いを避ける。
そうして奴らは時間を超え空間を超え、肉体の頚木さえ乗り越えて不滅と無限を手に入れ続けた。
『殺せないはずのものを殺す』というただ一つの嘘に辿り着くために。

そんなことどうでもいい。

「ソレデ、ワタシは強くなれるノ?」

パトリシアの左手には、頑強な銀のガントレットが装備されている。
奴らの片割れから受け継いだ銀の腕。苛立ちと共に握りしめた拳は、粘膜に似た酷く生々しい感触だった。

「あの戦争のあのガス室デ。あの街デ。あの爆弾デ。何人死んだのカ。
皆嘘だって知っていながら信じテル。
フツーの人ダッテ。フツーの人だからコソ。人の死さえモ建前で置き換えルことがデキル。それがフツーの人間のフツーの感覚ヨ。
狂気と正気の違いは、『堂々と実行しちまえるかどうか』。それだけヨ。」
「そして、師匠達は『堂々と実行しちまえる』。」
「それをワタシたちとあいつらとの違いだって言うワケ?
あなたが言った通りフツーの人から見たら、ワタシもアナタもアナタの師匠連中もただの狂った殺人鬼ヨ。『実行しちまった』ンダカラ。
ワタシが強くなれるかどうかは狂気の度合いなんか関係ナイ。
その狂気に何を捧げたかヨ。
それで。何を捧げればいいワケ?どうすれば、何をどう思いこめバその奥義って奴は実現できるノ?
Not “WHAT” but “HOW”.
それだけ教えてヨ。」

丘はにんまりと笑った。
今やパトリシアの緑色の瞳は強い光を放ち、口腔は底の知れない暗黒の奈落になり、握った拳からは現実を書き換える虹色の光に揺れていた。
望みさえすれば、誰でもそこに至れる。

「それを教えたかった……♪」

どの真実を塗りつぶすべきかなど、誰もが知っている。
大事なのはそれを実現する魔法と狂気。
丘の唇が開き、蠱惑的な響きで禁じられた呪文を囁き始めた。

以上……。」

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