敗れ去るにはまだ早い

「生まれ方を間違えやがって。

こんばんは鳩です……

……妄想ケルベロスブレイド……?

ザップ・ガン

だから褐色の分身が拘束魔力糸を振りほどいた時、鳩目・ラプラース・あばたは然程驚きはしなかった。対策があってこそ挑んできたのだ。
パトリシア・バラン・瀬田は分身と共に強い笑みを携えて突き進んで来た。
サキュバスの美しい脚線が分身とシンクロして弧を描く。鳩目は頭を下げ髪の上を蹴りに掠らせながら懐へと滑り込む。そのまま流れるように正拳突き。手指には確かな手ごたえ。しかし以前血を吐かせた時よりも硬い。素早く引き戻した筈の腕は、パトリシアに手首を掴まれていた。

「捕まえマシタ♪」

パトリシアは鳩目の手首を引き込みながら首に手を伸ばす。とっさにもう片腕を出して絞殺は免れたが、代わりにその腕も掴まれた。
鳩目が抵抗を起こすより先にパトリシアが腕を上へと引っこ抜く。鳩目の体が中空に浮くと、担ぐように首を掴んでそのまま尻から着地した。

「サキュバスタナー!!」

鳩目の首が激しく揺れ、口から血を噴いた。着地点には小さなクレーターが生じている。パトリシアは鳩目の首を担ぎ締めたまま立ち上がり、もう一度見舞おうと跳びあがる。が。

「ううっぐ!」

背を強く叩かれ、弾かれたように吹き飛び、地面を転がる。背を押さえつつ立ち上がると、鳩目は咳き込みながら拳をパトリシアに向けていた。

「タフねェ。」
「……来なさい。」

その言葉を聞いて、パトリシアは一瞬呆けた表情になった後、嬉しそうに笑った。

「イきマス。」

心から嬉しそうに。パトリシアは大地を蹴った。
その足先を不可視の糸が絡めとる。つんのめったパトリシアに鳩目が殴りかかるが。

「効かナイってばワンパターン!」

爪先だけの力で跳びあがり、鳩目の顔面にドロップキックを叩き込んだ。
鳩目が倒れている隙に魔力糸を引きちぎり、飛び起きた鳩目と拳を交わす。
手足の長いパトリシアがリーチを生かして長い打撃を放つと鳩目がそれをすり抜けて懐へ入ってくる。肘やフックで迎撃を試みるも鳩目の防御がそれを阻む。しかし鳩目の攻撃もパトリシアは掴んで防ぐ。
ハンドスピードはほぼ同じ。だが、応酬を交わすごとに流血が目立ってきたのは鳩目の方だった。東洋風の武術一辺倒の鳩目に対し、プロレスをはじめ様々な格闘技を齧ったパトリシアの方が引き出しが多かった。何より掴み技に長けているのが大きかった。

鳩目の両手首をパトリシアの両手がとらえる。鳩目は前蹴りで抵抗するが、パトリシアはこらえ、逆に膝蹴りを腹に見舞う。うつむいた鳩目の首を両腕で掴んで持ち上げ、翼をはためかせて高く飛ぶ。

「48Arts、No.9!」

逆さまにした鳩目の両足を両手で抱え、鳩目の股関節を限界まで開き痛めつける。鳩目の全身が軋むのを肌で確認し、その体勢のまま地面へと落下する。

土煙が爆風のように沸き上がり、そして治まった。
陥没した大地の中央でパトリシアが腕を開くと、鳩目が力なく地面に倒れ伏した。

「まだヤる?」
「はい。」

即答だった。鳩目はよろよろと立ち上がると、傾いた首を両手でぐりぐりと捻った。機械化された肉体の通電と再生を促しているらしい。

「しかし、悔しいことですが、格闘能力ではあなたの方が上のようです。」
「遠慮はいらないワァ。出しなヨ。Gun。」
「はい。」

鳩目はポケットから手帳大のデバイスを取り出し、開いてパネルを素早く操作した。
すると虚空から銃が現れ鳩目の両手に装備される。
右手に握られた銃は1m近い銃身を持ち、マガジン部分には鳩目の手首から伸びたケーブルが刺さっている。
左手に握られた銃は機関銃のように巨大で、ベルト状につながれた弾薬が背嚢から伸びている。

「但し。」

鳩目の、瞳の無い目がまっすぐにパトリシアに向けられた。

「この武器は、暴走しかけた貴殿を制圧した実績があります。
どうぞお忘れなきよう。」

小柄な少女の姿をしているはずの鳩目が、銃を帯びただけで全く違う怪物に見える。
パトリシアの背に冷たい汗が流れた。

「オーライ……!」

拳を握り直し、パトリシアも己の身に魔を漲らせた。

結果は惨憺たるものだった。
パトリシアは心臓と頭が消えてなくなるまで撃ち尽くされ、倒れた。何度も何度も。
パトリシアは射撃戦が得意ではないが、近接戦に持ち込むノウハウは持っている。それを実行することにある程度自信もあった。
そんなものは何の役にも立たなかった。
回復して起き上がった途端再度撃ち込まれる。防御した腕は関節を破壊され、回避したその先には銃弾が置いてある。
弾薬の威力や連射の速度もさることながら、狙いの精度が化け物じみている。
当て勘とでも呼ぶべきそれは過たずパトリシアを捕らえ、無様に逃げ回ることすらも許さなかった。

「まだやりますか。」
「……ワタシの負けデース。」

再生した顎で何とか応えた。この嘘の中では。そう、この嘘の中では、ワタシも運命に愛されている。師匠たる鳩目と同じく。この嘘の中だけは、ワタシは不死だ。
例え脳が消し飛んでも生きていられる。だって嘘なのだから。

「ではわたしは帰ります。」
「お疲れ様デース……。」

ああ、でもその嘘の中でも。より上手い嘘つきには勝てないのデスネ。
マスターハトメもまた、不可能を嘘にしてきた女なのデショウ。
あり得ないことを望み、あり得ないということを嘘にしてきた。
あり得ないということさえ除けばすればあり得る。
不可能であるということさえ除けば可能である。
それはまるで理屈の通らぬ夢のような。
瞬き消え切り替わる夢のような。
空想だけが唯一の法たる夢のような。

再生しかかりの欠けた脳がチカチカと、パトリシアに何かの欠片を見せたようだが。

以上……。」

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