傷痕

「ボケ!

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

欠落

お前はお前の親でもない癖に、何の為に生まれたかなどと自分で決めるつもりでいるのか。
自由や平等と言った基本的人権は、人に与えられるものだ。お前は人ではない。人権など持たない。家畜か愛玩動物程度の自由がせいぜいだ。
それによく考えてもみろ。人間様だって大して自由でも平等でもありはしないぞ。
何の為に生まれ、何の為に生きるのか。ケルベロスどもよ。超常の猟犬どもよ。わからなくたって、そんなの別にいやじゃないだろう?

――――

その宇宙には歯車が回っていた。ぎっちりと敷き詰められ規則正しく蠢いていた。
その宇宙には基板があった。どこまでも張り巡らされ無限に演算と記録を続けていた。
その宇宙にはその他名状しがたい機械があった。音より速く戦慄いて光より早く明滅し、永遠の果てを探していた。

その宇宙の全ての機械たちは、過剰な動作の為に熱を帯びていた。炎を上げ、溶解し、原子を分解し、粒子を融合していた。
その宇宙に闇はない。機械たちがもたらす熱と光が無限に満ち溢れ、欠片の影さえ残っていない。そして、生じた熱を再び取り込んで機械たちは更なる演算を続けている。

「これが御屋形様のハラワタ。」

パトリシア・バラン・瀬田は、眩しい宇宙の中に浮かんでいた。
招かれて来た先は白光の空間。身を焼く無限の熱量に耐えられず、現実らしい姿は瞬時に焼き尽くされ、今の彼女は冒涜的な姿をさらしていた。

「その通りです、バラン。」

彼女の眼前――――数億光年の距離でもあり数センチの距離とも言える――――に、少女が出現した。

「あるいは、何代目かのパティ。」

声はパトリシアの脳裏に響くものだった。もとよりここには音声を伝える媒質が無い。存在もエネルギーもすべてはマシーンに吸い上げられてゆく、この宇宙では。

白磁のような白い肌を真っ黒なタールで汚した少女。タールは燃え盛り両腕に灯り、火の鳥のようなシルエットを見せる。灰色の髪はツーテールに結われ、瞳は青い宝石のよう。
白地に紫の模様の入った服。黒いインナー。首元には瞳と同じ色の大きなリボン。スカートは白く、何層にも重なったロリータファッションのスカート。足は黒いタイツに覆われ、その先にはトゥシューズのような白い靴。
両腕は肘から先が銀色の籠手になっている。
白く細いその身から、真っ黒いタールが漏れている。
目から。耳から。鼻から。口から。籠手の隙間から。臍から。膣から。肛門から。
漏れたタールが燃え盛り、白い少女を赤い輝きと黒い煙の中に沈めてしまっている。
なんて勿体ナイ、と、パトリシアの口が思わず動いた。

「勿体ない?」

聞こえる筈の無い声を、しかし『御屋形様』は聞いていた。ここにおいては思念のみが魂魄を繋ぐただ一つの手段であるから。

「キレイなのに、焼かれちゃって。それでも焼き尽くしきれなくて、ずっと燃え続けている。耐えられないワ、ワタシだったら。」
「耐えられなかったら、どうだというのでしょうか。」
「御屋形様ともあろうものが、そんなザマを晒す意味が分からないってことヨ。」

パトリシアは確かに、少女のくつくつという笑い声を聞いた。

「あなたこそ、とても人には見せられない姿をしている。」
「そうでしょうネ。人に見せたらあっという間に正気を失って混沌だか異星人だかのしもべまっしぐらヨ、マッタクひっどい話ダワ。これでも元はサキュバスだっていうノニ、こんなぐにゃぐにゃのピカピカのぬるぬるじゃあ、誰も抱いてくれないワヨ。」

オヨヨ、と泣いて見せるパトリシアに御屋形様はまたくつくつと笑った。

「案外と、余裕があるではありませんか。」

フン、とパトリシアが鼻息を鳴らす。エネルギーの波濤がいとも簡単に宇宙全体に広がり、機械たちを破壊した。だが、破壊された機械たちは歯車の刻む律動に合わせ、まるで初めからそう動くと決められていたかのように接合し修復し、また問題もなく動きだした。

「そっちこそ切羽詰まってるんじゃナイノ?
急所を晒して見せるなんて、御屋形様らしくないリスキーな『交渉術』デスワ。」
「わたくしは何時だって真剣ですし、全力です。必要だと判断すればリスクを取ります。あなたは今現在、最も新しい我らの神話だ。滞りなく目的を達成するために、コミュニケーションは欠かせません。」
「ハラワタにワタシを招いて、へりくだって見せるってコト?」

何時だってワタシが、此処を滅ぼして取って変われると。

「まさか。」

その言葉が脳裏にはっきりと焼き付いたのをまってから、少女は宇宙の熱量をパトリシアに集中させて焼き尽くした。粒子の一つも残さず分解し、熱エネルギーに変えて機械に食わせた。

「あなたはわたくしの心臓の一拍にすら勝利することが出来ないと、お教えしたかったのです。」

機械を動かすエネルギーは、男神が数多の宇宙から回収し供給する。
演算された結果は、千里眼の神へと送られる。
余った熱量が少女の領分。

機械に生まれ、機械に生きる彼女は無限の熱量を無尽蔵に吐き出す機関となった。
祓っても去らぬ悪魔。
清めても残る穢れ。
ただそこにある罪。

時のように、空間のように、物理法則のように、そこにあるだけで悲しみを生み散らし、決して打ち倒せぬサタン。
何度自死しても死を認められぬ存在。
幾度罪を犯しても感知されぬ存在。

終わってしまった物語の遺物。
書き続けられる物語から出られない登場人物。

原罪への憎しみは不滅の原罪を薪とする炎となった。


ケルベロスよ。超常の猟犬よ。何の為に生まれたかなど、自分で決められるつもりでいるのか。

 

以上……。」

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