僕達神様

「バカバカ!

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

ハラワタは正直な嘘を吐く

​「ダメ、コレ綺麗すぎ。」

ストリップ衣装にうんざりした目線を向けた。

「ダメよ、情熱で作るようになったらもうダメ。こういうのは執念で作らないと。」

そう言いつつ、パトリシア・バランは手にした衣装をハンガーから抜いて着始めた。
今日は衣装じゃなくて、ワタシ自身でイヤらしくしないとダメだ。
程なくしてスタッフが訪れ、パトリシアは笑って手を振りステージへと歩み進んだ。

—-

パトリシアの出番は概ね好評に終わった。
サキュバスという扇情することに特化した種族が全力で痴態を見せるのだから、しくじることの方が少ないわけだが。
加えてサキュバスにとっては情を浴びせられること自体が食事でもあるので、手加減する理由もない。
サキュバスのストリップは、他種族から妬みを受けるほどには理不尽に美しい。

「美しいんじゃダメなのヨ。」

パトリシアがハイボールジョッキ片手に言う。
向かいの席の後輩ストリッパーが従順そうな目つきでうなづき、隣の同期のサキュバスはまた始まったとばかりに無視して肴を注文する。

「男が欲しいのはチンポの気持ちよさダケ。
乳も尻も隠すのは想像してもらうタメ。
あれでチンポこすったら気持ちいいだろな、って肉を想像してもらって、最後にそれを見せてあげちゃうワケヨ。
力みが必要なのヨ。ワタシタチは力んで力んで焦らすワケ。見てほしい気持ちを力んで力んで我慢して。そうすることで見てる人のチンポも力ませるノ。
そんでバッと乳首やマンコ見せた時にもうタマンネーゼって思わせるワケ。
解放するワケだけど、でも触ってはいないワケだからここも力みなのよネ。お互い絶頂前、最後の一握り、小指から握った拳を最後に親指でギリギリギリって締め付けるっていうノ?」
「若鶏のから揚げ4人前お待ちしました。」
「アリガトー♪」

話を断ち切って店員の女性に笑顔を向ける。パトリシアは受け取ったから揚げをテーブル中央に置き、空いた皿を店員に渡してその背を見送った。

「それで、何だっけ?今日の衣装だったンダケド何時もの職人さんだから信頼してたンだけどネ。
あー、こりゃダメダナって。拗らせたナって。
セクシーなだけっていうカ。」
「でも綺麗でしたよ。スケスケでエッチでした。」
「綺麗ってのはダメなのヨ。
綺麗ってのは全然sexじゃあないノ。
剥いてみたいなァ、中身を早くみせろヨって思わせナイト。
衣装着てそれだけで綺麗だったら脱ぐ意味ないシ、チンチン入れたくなってくれないノヨ。」

そう言ってジョッキのハイボールを煽る。

「売春とはまた違った苦労があるのですね。」

聞き覚えのある声にパトリシアはハイボールの霧を噴き出した。
ぎゃあ、と叫ぶ向かいの席の後輩を尻目に、声の主を見つめる。

「どうも、バランさん。」
「……マスター鳩目。」
「同席しても?」
「……ドウゾ。」

後輩の隣に座った鳩目は店員にビールをピッチャーで持ってくるよう要求すると、。

「奢りますよ。」
「紹介シマス。こちらワタシのケルベロスとしての師匠、鳩目サンデス。」
「どうも、不肖の弟子がお世話になっております。」

お辞儀もそこそこに後輩ストリッパーのハイボールに塗れた体を手早く拭くと、クリーニング代です、と万札を握らせた。

「受け取れません、そんな。」
「弟子がご迷惑をおかけしました。」
「あの、あ、はい。」

機械で出来た手の冷たく力強い握力に、後輩は力無く札を受け取る。

「レプリカントなんですか?」
「そうです。珍しいですかね?」

パトリシアの横に座ったストリッパーが話しかける。

「あー。この仕事だと珍しいかも。
うちは地球人客メインだから、踊り子でレプリカントは殆どいないね。そういうの専門の劇場もあるらしいけど。」
「なるほどなるほど。」
「今日は何の御用デ?お師匠。」

目線で『早く帰れ』と訴えつつ、パトリシアが割って入る。

「偶然見かけたので一緒に呑もうと思っただけですよ。」
「ウソつき。師匠、宅呑み派の癖ニ。」
「ええ嘘ですとも。あなたがそういうなら嘘で結構。」
「ここで暴れナイデよネ、この店気に入ってるんダカラ。」
「潰したら呑めなくなってしまうではありませんか。」
「潰すって選択肢がある時点でおかしいカラ!」

—-

ごちそうさまでした!
の大合唱を満足げに聞いてから、鳩目はパトリシアと共に店の前を後にした。

「奢るとは思わなかったワ。」
「お金使うの楽しいので。」
「金持ちになれない思考ダワ。」
「知っています。」

パトリシアの足元が揺れる。逆らわず千鳥足を踏み、揺れる視界を楽しんだ。

「わたしを前にして油断したものですね。」

ぞっとして振り返ると、そこには同じくゆらゆらしている鳩目の姿があった。

「……何ヨ、酔いが醒めちゃったジャないノ、殺されるかと思っタ。」
「酔うのはわたしも好きです。」

パトリシアも鳩目も千鳥足で、通りを歩く。まばらに光るのは0時以降も営業している居酒屋、スナック、そして男性向け風俗店の看板。

「二次会、イきマス?」
「ソープにですか?」
「行けるカ!」

通りを歩く。酩酊した眼球に看板は潰れて光る。歩む先はわかっている。いやわかっていない。どこに向かっているのだろう。次の店か?呑むつもりもないのに。帰りの電車か?とうに終電は去ってしまったのに。自宅か?それは方向が違う。
道がそこにあるから、どこかに辿り着ける気がして、ふらふらと前に進む。立ち止まると何かが終わってしまう気がする。靴裏がアスファルトに触れて、はじき返す足裏の感触。生温い夏の風がほてった肌を撫でる感触。
体は不快感を訴え、心はそれに応えられない。
何の為に歩いているのだろう。立ち止まったとして、それは何の為になるのだろう。この先に目的地などない。目指すべき自宅も一時的な次の目標も定まっていない。足がただ動くだけだ。きっとどこにも辿り着けないまま、酔いに負けて倒れ伏せるのだろう。それを待っている。タイムアップを待っている。勝利に向かう努力さえしないまま。勝利が何かさえも決められないまま。

「どうしようもナイ。」

パトリシアの口から何かが漏れ出た。

「どうしようもない凡人。」

鳩目がそれに応じた。

「誰ガ?」
「誰も彼も。我らの眷属は誰も。」
「……誰の事?ワタシ?」
「そしてわたしです。」
「あなたガ凡人?」

超次元銃撃を持つ、機械人類たるあなたが。他の世界で数多の異次元生命体を屠ってきたあなたが。それでも凡人だというのか。

「あなたでさえ凡人です。」

サキュバスとして生まれた、ケルベロスたるあなたが。この世界で数多の不死生命体を殺してきたあなたが。それでも凡人だというのです。

「……凡人デスカア。」
「そこで凡人ではないと即答できないことが凡人の証左です。
次の店を探しましょう。我々にはまだ酔いが足りない。」
「足りないィ?フラフラですケドォ。」
「まだ足りません。あなたはまだ幻が見えていない。」
「ハァ?」

チンピラめいた仕草で鳩目を睨むと、鳩目の機械の瞳はキュイと音を立てピントを合わせた。透明が何重にも重なって、薄氷色から瑠璃色の暗黒へとパトリシアの視線を底無しに引きずり込む。

「神々の領域は、酩酊の果てに見える幻です。
現実から解き放たれて初めて見える虚構だ。夢の中でだけ触ることのできる嘘だ。
わたしはあなたに、今日、それを教えに来た。」

引きずり込まれた精神を視線を外して引きはがす。

「何言ってるノ。」
「曖昧の中で初めて知ることが出来るのです。
あなたの意思があなたのものでないということを。自意識など幻だ。生命は不快を避け、快楽を求める。死ぬより生きることを求める。脳のある生き物は、それを行動ではなく思索でも行えるというだけです。ちょうどビジー状態のコンピューターのように。傍から見て何もしていないように見えても実際には処理が行われている。まさにそれが意識の正体です。」
「酔い過ぎじゃナイ?お師匠。」
「酩酊は自意識の支配力を弱めます。そこでしか見えない事実がある。
わたしたちはそうでもしなければ気づくことができない。嘘を嘘だと。」
「ちょっと、」
「次の店へ行きましょう。」
「もう師匠呑みすぎヨ、やめときましょうヨ。」

歩みだす鳩目の方をパトリシアが掴んだが、振り返った鳩目の瞳は、最早視界のどこにも焦点は合っていなかった。
それでいて、明確に何かを見つめていた。

「あなたはお酒が強いのですね。」
「……師匠?」
「わたしはもうだめだ。見えてしまった。
覚えておいてください。あなたはあなたではない。わたしもわたしではない。
全ては決められたことで、そこから逃れたことなど一度もない。
でもただ一つ、それを定めた神を否定する、という自由があります。
いや、それすらも本当は自由ではないのですが。
何もかも全て初めから決められていたとしても、そうではないのだと。わたしたちには言える。それだけが。」
「お師匠、休憩シマショ、ね、休憩。水でも飲んデ。」
「わたしは帰らなければなりません。いいですか。我々の我々らしさなるものがあるとすれば、それはただ一つ。抗いの中にあるのです。」
​​ ​
鳩目の透明な瞳が再度パトリシアの瞳を見据えた。
折り重なる青色が幾層にも重なって、その中心は真っ黒な暗黒になっていた。それはパトリシアの視界にどんどんと広がり、飲み込み、彼女の体は暗闇に浮かんで。
​​ ​
これは嘘だ。これは夢だ。
​​ ​
そして、パトリシアは自らのねぐらで目を覚ました。
夢で見たことを、何一つ忘れてはいなかった。

以上……。」

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