LOVE GOES

「……。

こんばんは鳩ですか……?

……妄想……。

メイキング

​僕のヒロインがそこかしこに歩いていた。同じ髪、同じ服、同じ瞳の色で。勿論本人じゃない。コスプレイヤー達だ。彼女らは本人じゃない。でも、彼女になりたいと願ってくれた人たちだ。それだけで僕は胸が高鳴った。着実だ、と。

受賞の知らせを受けた時は、半信半疑だった。最高傑作だったという自覚があり、それでいて、あの程度の小説を書ける人はたくさんいるだろうと思ったから。
そこから連載に辿り着くまでの時間は、刺激的過ぎて覚えていない。
担当についてくれた編集者さんから、悪いところを山ほど指摘されて、改善点をそれ以上に教えてもらった。文法、言葉遣い、ギミックの使い方や見せ所。自分一人じゃとても気づくことの無かったことを沢山。
​​
受賞作は加筆修正をこれでもかと施してタイトルも変えて単行本で発売された。
編集さんが考えてくれたタイトルには是も非もなかった。作品が世に出て日の目を見る。その興奮が何よりだったし、既に決定していた続編の構想で僕の頭はいっぱいだった。
​​
連載は処女作の発売と同時だった。
プロットもギミックも既に練ってある。あとは書くだけだ。編集さんと何日も夜通し話し合い、決定した設定と物語。売れるための方策を幾つも教えてもらったが、譲れないところは押し通させてもらった。
世界はアクセス可能でなければならない。過去でも未来でも異世界でもなく、今この現実だ。その気になれば、才能があれば、出会いがあれば。この作品と同じ景色を見ることが出来る。
「自分にもできるかもしれない」そう思わせる作品でありたい。そうでなければ意味がない。僕の描いている物語は真っ赤な嘘だが、僕はそのことに納得しているわけではないのだ。誰も納得しちゃいけない。
​​
続刊の売れ行きは順調と聞いて、僕はほくそ笑んだ。腹の底には跳びあがりたいほどの嬉しさがあったが、必死に留めた。満足したらだめだ。まだ満足してはいけない。僕には役目がある。
​​
魔法であり科学。あり得るかもしれない、あったとしても現実社会と矛盾はしない。そんな神秘を書くように、慎重に舞台を選んだ。登場人物の名前は平凡なものにした。何かをもじったりしない、姓名判断の本から名付けた普通の名前。キャラクターたちは一部の特殊な生命体を除いて、特別な誰かじゃない。僕に作られた特別じゃない。一部を除いて、僕の好みが出過ぎないように、「僕」という作り手の意思が匂わないように突き放して作り上げた。
「僕」ではない彼ら彼女らを動かすのは骨が折れたが、一旦性格とバックボーンが定まってしまえば僕の手を離れて動き出す。彼ら彼女らは絡み合い、離れ合って勝手にドラマを作り出してくれる。僕はその中の劇的な部分を切り出すだけでいい。
​​
アニメ化されると聞いた時は流石に「本当ですか!?」と口に出してしまった。アニメを貪り見ていたあの頃からずっと変わらずテレビは憧れの舞台だ。ブラウン管から液晶になった後もそれは変わらない。魔法も化学も、人と人とのままならないぶつかり合いも、性の好みも、僕にとってはアニメ、そして漫画が教師だった。あの時のヒーロー達が今の僕を作っている。面白かったという思い出、面白くなかったという残念さ。何が心を打ち、何が心を打たなかったのか、僕はずっと考え続けていた。
僕は今、答え合わせをしている。
​​
既にドラマは物語の中の彼らが勝手に作ってくれるようになった。僕に出来るのは、不確定要素の投入だ。新しい登場人物の投入。布石の埋設と伏線の回収。
慎重に、無理なく美しく。
登場人物たちには彼ら彼女ら自身の生活が確固として存在するが、それでもなお僕の方が圧倒的優位にある。彼ら彼女らを揺さぶる。植え付けていた不安の種を芽生えさせる。彼ら彼女らの外からイベントを発生させる。彼ら彼女らがどんなドラマを作り出すのか、厳密に計算した上で。
​​
作品オンリーの同人誌即売会が開催された。
同人誌の存在は僕も知っていたから、オンリーイベントの開催にもそうは驚かなかった。着実だと、順当だと思った。
でも実際に足を踏み入れてわかることもある。
闊歩する何人ものヒロイン達を見て、僕は冷静に興奮した。作品の中のキャラクター達が現実に存在している。しかしそれは偽物で、まだ道半ばの証でしかない。長い道のりのどこなのかはわからないが、僕はあの頃より着実に前進し、そしてまだ、ゴールには辿り着いていない。
​​
映画化の話を受け、ストーリーを書き下ろすことを僕は宣言した。
僕が書くなければならない。書き下ろしでなければならない。
既存の物語のリメイクでは、「映画版とどちらが本当なのか」という解釈の違いが発生してしまう。原作版、アニメ版と矛盾が起こらないようにするには、「新たな事件」を起こすのが最も手っ取り早い。
そしてその後の原作やアニメも、映画を見ていなければわからないような展開は避けなければならない。映画を見る人と見ない人というのははっきりと分かれている。映画を見たおかげでより楽しめる物語はアリだが、映画を見ていなければ理解できないような物語はナシだ。
こういう事態をそうていして、あらかじめ原作の時系列には隙間を作っておいた。そこを埋めさせる。
​​
海外展開すると聞いても、僕の仕事は最早変わらなかった。
原作の執筆、アニメの監修、映画版の脚本作成。僕は僕のすることをするだけだ。物語はまだ終わらない。物語の役目は、まだ終わっていない。
​​
資料集めの一環で入手した科学雑誌に、僕の作品の名前があって驚いた。
新発見された粒子に四次元以降の高次元、あるいは別の三次元宇宙のヒントがありうるという論文。第一線の科学者が、僕の作品の影響を受けてくれている。論文の内容も、作品のテーマである「もしかしたらありうるかもしれない」を補強してくれる、とても嬉しいものだった。僕はその論文の内容を、注意深く――――もし論文が誤りであったとしても矛盾が無いように――――作品に盛り込んだ。
​​
雑誌のインタビューを受けた時には、先の論文の内容が事実だと概ね証明されていた。
僕はそれについて聞かれて素直に嬉しいと答えたし、「夢のような未来が来るかもしれない」とも言った。これは僕にとっては、かなり大きな冒険でもあった。
​​
ファンもアンチも多数いた。作品の評価はネットで調べればとても読み切れないほどヒットするし、それを受けて僕が何かを変えるとすれば、せいぜい文体か語彙ぐらいだ。
先の科学論文に基づく実験も順調で、数年前には不可思議としか思われなかったであろう実験結果も多数出現している。
コスプレ写真も多数ヒットする。中には本当によく似ているものもあった。本物が一人ぐらい紛れているのではないかと思えるほどに。
僕はそろそろ、確認するべき時が来たと思った。
​​
新刊の発売後、僕は一か月の休みを貰った。理由は公開していない。その必要もない。
​​
地下鉄の駅に入る。壁には今夏公開予定の映画の広告がいくつも並んでいる。
僕の作品だ。
不穏な影を背景に、なんてことない主人公の男の子。彼と長い付き合いの女の子。腐れ縁の親友。特殊な生い立ちの少女。
この少女だけが、「現実味の無い要素」として僕が織り込んだものだ。現実と陸続きの物語とは言え、案内役が必要だった。彼女が神秘の世界を知り、伝え、案内し、凡百な彼ら彼女らを物語へと引きずり込む。
この地上に決して存在しない、僕の嘘。でも僕は僕の嘘が嘘であることに納得なんてしていない。
​​
人ごみを挟んだ向かい側に白い輝きが見えた。折れるほどの速さで首を向ける。
白い髪。白い服。青い瞳。
二つに結った長い髪は蛍光灯の光を吸って静かにただ白い。
胸元のリボンとフリルのスカートが現実味がないほどに浮き立つ。
薄青い瞳は前を向き、白い肌は瞳と同じほどに透明だった。
柔らかそうな頬、細い二の腕。
まるでそれはよく出来たコスプレで。
でもあれは間違いなく本物だ。
​​
そう思った瞬間、僕の意識は遠のいた。
あれはよく出来たコスプレイヤーだったのかもしれない。
でも、僕は確信したのだ。僕は僕の嘘が嘘であることに納得なんてしていない。
彼女が僕のゴールだ。もう、嘘は嘘なんかじゃない。
​​
ホワイトアウト。そしてもう二度と戻ってこない。僕も僕の作品も、もう。必要はなくなった。
僕は笑って、そして倒れた。

以上……。」

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