生まれついての歪な勝負師

「土に還ったら地球が汚れる。

こんばんは鳩です……。

……妄想……。

忍者としては当然の

死に蛙のように無様に開いた口に丘・敬次郎の手先から水が注がれ、パトリシア・バランは抵抗なくそれを飲み込んだ。

「では水分補給も終わったところで、レクチャーを始めます。」
「ハァイ……。」

横たわったまま両腕両足胴体のウェイトを外すと、パトリシアは汗だくの体を震えながら起こした。

「あなたの肉体改造への執念には敬服しますよ、パティ。」
「アリガトウ……でもパティとは呼ばないデ。」

48時間連続にわたる筋力トレーニングは、パトリシアが自分で志願したものだ。
腕立て伏せ、レッグロール、腿上げ、スクワットその他諸々のメニューを細かい休憩をはさみつつ限界まで続けた。ケルベロスという常人を遥かに超えた体力を持つ者にとっては、自身の肉体を追い込むのも容易ではない。
眠気と疲労に朦朧とする脳には、ケルベロスはこの地球上に存在するには過ぎた存在だという思いが去来した。

「ふん、ではバラン。
今回お伝えするのは、一般的に魔力と呼ばれる力の使い方のコツです。」

言葉が終わると同時、鉄塊を打ち落とすような音がしてパトリシアの左側の地面に長く深い傷が刻まれた。
溝を見てそれから丘の目を見ると得意げな顔していたので、パトリシアはイラっとした。

「気圧ですね。空気を掌握して凝縮して素早くドンっと♪」

丘が小首を傾げると長いツーテールの黒髪が揺れた。遊ぶように揺蕩う毛先が、パトリシアの苛立ちをますます刺激する。

「魔力を使うのに一番単純なやり方は、キネシスです。念力。物を動かすこと。
効果が目に見えるので使うイメージがしやすい。
より重く、より早く、より精密に、と鍛える方向性もわかりやすい。
伸びがいいんですよ。何しろ鍛えた結果も、何が足りないかも目で見てわかるわけですから。
そして、鍛え上げれば肉体はノーモーションのままで大抵のことは出来てしまう。
体力と同じく、極めて単純で基本的であるが故に対処も難しい。」

確かに、先ほどの気圧の刃が大地ではなくパトリシアの頭上に落ちていたら、彼女は何をされたかも理解できないまま左右に両断されていたであろう。

「僕はもともと水を扱うのが得意というか、うちの忍者の流派がそもそもそうなんですけど。
で、別に水分に限らなくてもいいだろうと思ったのです。
我が流派には水を刃にでき、霧で分身を作る技法があります。
ならば刃は水に限る必要はなく、扱う流体は液体に限らなくていいのではないか。
そういうわけで、先ほどお見せしたような気圧の曲芸も使えるようになりました。」
「なりましたッテ……。」

息を整えつつ、丘の顔を睨む。丘はいやらしく口角を上げることで応えた。

「あなたのサキュバスとしての魔力も、素晴らしいものだと思いますよ?
精神に影響する術がほぼ生まれつき使えるんでしょう?
あれは自力で身に着けるのは本当に難しくてねぇ。
だって、物理的に言えば相手の脳に自分の思い通りに電気信号を走らせる、ということなのですから。精密さだけで言うならほぼ究極に近い。
でも一方で、脳が操作できるなら脳を物理的に潰してしまえばいいじゃん、ということはできない。
それは、あなたのそれがキネシスではないからです。『催眠という結果を引き起こす』ところに向かってしか作用しない。精神を惑わす術は、どこまで鍛えてもキネシスにはならないのです。そのように世界に定義がされてしまっている。」

世界に定義がされてしまっている。その言葉を聞いてパトリシアの視界は揺らぎ、その景色は薄いカーテンに映るもののように儚く感じた。

「と言っても、水はともかく空気を扱うのはさっき僕が言った『効果が目に見える』というメリットはありませんけどね♪」

途端に乾いた風が強く吹き、パトリシアの汗を一粒残さず攫っていった。

「ちょっとヤメてよ、乾燥はお肌の大敵なのヨ?」
「自分の水分ぐらいは自分で何とかしてもらわないとお話になりませんな。」
「水分のコントロールってそういうのデシタッケ?!」

いいつつもパトリシアは自分の胸に手を当て、胃の腑に溜まった水を体内に吹き込むよう試みた。そして失敗して胃液を吐き出した。

「大丈夫ですか?」
「ノー、ノープロブレム。」
「では続けますよ。」

丘の背後に風の竜巻と水の渦巻きが同時に立ち上がる。

「あなたには、水練忍者のノウハウをそれなりに叩き込んだつもりです。
ですから、この程度のことは出来ると確信しています。
そして、忍者として大事なことをもう一つ。」

す、と丘がパトリシアを指差すと、パトリシアは二、三荒く呼吸をし、喉と胸を押さえて昏倒した。

「僕の師匠連中とは違って、あなた方には呼吸が必要です。勿論、普通の人間も♪」

パトリシアの口周りの大気から、酸素のみを押し出した。
酸素濃度の低い空気を呼吸すると、体内から大気へと酸素が奪い取られていく。肺から酸欠状態の血液が体内を循環し、酸欠の反射は更なる呼吸を要求し、劃して人体は酸素濃度の低い大気中で容易く昏倒する。

丘がパトリシアの肺胞内に通常の大気を送り込み気圧で胸を打つと、彼女は咳き込みながら覚醒した。
涙混じりの目で睨み上げられると、丘は手をひらひらと振りながら言葉を続ける。

「今の瞬間に攻撃を加えていれば、殺せていましたね♪
必殺の攻撃を必中の条件下で繰り出す。これを必殺技と言います。
あなたも身につけましょう♪
何、そんなに構えることはありません。創作にヒントはたくさんあります。そういえばあなたはルチャ・リブレの心得もありましたね。プロレスならば組むのは得意なはずです。組んでしまえばそれは必中の条件を満たしやすい。あとは殺せる威力の技を出せばよい。
基礎技は単体で意味を持つものではなく、発想の起点に過ぎません。
今日あなたに教えたキネシスも、別にあなたがそれを愚直に極める必要はない。
キネシスの考え方があなたの中で熟成し、あなたの持つ技術と結びつき、必殺技を作り出せればそれでよいのです。
あるいは今日教えたことは全く役に立たなくてもよい。
インプットを沢山なさい。そして基礎技との融合を試みなさい。
その先に、あなただけの無敵の技を見出しなさい。
異能とは。即ち発想の力。あなたが思い描けばそのように現実は成る。
不可能であるということさえ除けば如何なる作戦も可能であり、そして異能とは不可能を取り除く力です。
あなたには。あなたにしかできない技がある。僕を殺し切る技もあると信じなさい。」

「……オーケイ、マスター。」

パトリシアが魂の奥底に潜む何かに意識を向けると、巨大な触手が次元を叩き割って現れた。
丘は振り下ろされるそれを竜巻と渦巻きで迎撃し、しかしその足元には既にパトリシアが走り寄っていて。
睨み上げるパトリシアの目線に、タックルで足を狩られた丘はしかし、楽しそうに笑んでいた。

 

以上……。」

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