誰もが価値のない物語の主人公

「人間ではないお前の人権は当然認められない。

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

次の夜へ走れ

蔵の扉が開くと、血肉の匂いが溢れ出た。

「お待たせしました。」

血まみれの男が、少女の首を持ってぶら下げている。
少女の首から下は股間までまっすぐに切り開かれており、観音開きにされた胴体からは臓物がはみ出していた。
手足は付け根から指先まで余さず開かれており、皮の中の肉、肉の中の血管と神経が丹念に露出させられている。
顔面は剥がれた皮が垂れ下がり、こちらも筋肉が露出している。
そうして暴かれた真っ赤な中身の上に、べったりと濃く白い精液が付着していた。

「なかなかよかったですよ♪」

そう言って少女の亡骸を押し渡す丘・敬次郎の顔を、パトリシア・バランは見なかった。

「師匠は、まともなセックスできなさそうネ。」
「オナニーとセックスは別でしょう?」

丘は興味なさげに振り返り、中を掃除すべく蔵へと戻っていった。
パトリシアも背を向け、死骸の処分へと向かう。
蔵から蛇口をひねる音が聞こえ、入り口から血交じりの水が流れて出した。

処理の手順はいつも通り。
ドラム缶風呂で煮溶けるまで茹で、肉を剥がし、骨は焼いて灰にする。
パトリシアを「姐さん」と慕う里の下忍たちが作業を手伝ってくれる。
お礼に後で抱かれてやろうと思ったし、下忍たちもそれを楽しみにしていた。

何羽目の『ウサギ』なのかは覚えていない。
少なくとも人体の処分を単独で滞りなく行える程度の経験を積んだのは確かだ。
翌日、寝起きの枕元に丘が胡坐をかいていた。

「……ナァニ師匠?朝から稽古デスカ?」
「昨晩はお疲れ様でした。」
「オカゲ様で。」

嫌味たらしく欠伸をして見せる。
昨夜の作業は深夜にまで及んだ。パトリシアが床に就いたのは日が変わってさらに丑三つ時を過ぎてからだ。

「実は、今日もお願いしたくて。」
「正気デスカァ……?」
「お願いしますよ、昨日のはなかなか良かったが、思ったより早く死んでしまったんです。」
「続けてやると足が付くって言ったのは師匠じゃないノ……。」
「狩場を変えます。」

丘の顔は真剣だ。パトリシアの稽古をつけている時のようなニヤニヤ笑いは鳴りを潜めている。

「……お盛んネ、とでも言えばいいのカシラ。」
「どうせすぐに出て行っちゃうんでしょう?今のうちに頼んでおきませんと。」
「処分ぐらいワタシじゃなくたってイイでしょう?」
「ええ、嫌がらせです。」
「マジカヨうすうすわかってたケド。」

パトリシアは嘆息して上半身を起こす。
どうせ師匠は言っても聞かない。暴力での脅しあいでは猶更敵いっこない。

「普段人間大好きトカ言ってる癖にやってること滅茶苦茶なのダワ。」
「人間は好きですよ。大好きです。
インフラ作ってくれたのは人間です。僕がここにこうしていられるのも、人間のおかげ。
でも一人一人はどうでもいい。」
「勝手な言い分ダワ。」
「本音ですもの、そりゃ勝手ですよ。
僕は好きにしたいんだ。好きなものを好きなように愛したい。」
「愛した結果があの様?」
「愛した結果があの様です。……おやおや文句がおありの用だ。」

丘が眉を上げておどけるとパトリシアは寝癖頭を掻きむしった。

「ええアリマスワヨそりゃネ。
女の子一人バラさなきゃオナニーもデキネーなんてド変態もいいとこデス。
後始末をこっちに押し付けるし。ガキの死骸なんてホント見たくナイのに、今はもう慣れ切っちゃったし慣れたっていうこと自体もいやダ。
どうしてナノ、ワタシに関わらせナイデヨ、もっと別のオナニーの方法探してヨ。」
「何をしようと僕の自由です。」
「自由には責任が伴うノヨ!」
「伴いません。」

パトリシアの目が見開かれた。彼女の脳は聞き取った言葉を理解できず思考を停止した。

「あなたは、僕に、僕の自由の責任をとらせることが出来ません。
僕も責任なんか取りたくありません。
ですから自由に責任は伴いません。」
「ソンナノ、ただの自分勝手ジャナイ!」
「自分勝手以外に自由のありようはあるのですか?
あなたが僕の自由に責任を取らせたいならそうすればいい。自由だ。
僕がそれに抵抗するのも自由です。」
「アナタは、」
「僕は僕の趣味だけで女の子を愛している時、とても自由を感じます。」

返す言葉が見当たらなかった。人倫に反するとか犯罪だからとか、そんな言葉が口から出そうになるのを押しとどめた。
目の前の男は、とっくに人間であることをやめたのだ。
ヒト科ヒト属ヒト出身ではあるが、人と人の間に生きる『人間』ではない。
丘は、ただのヒトと『人間』を厳密に峻別していたし、自分が『人間』ではないということについては折に触れ何度も主張していた。

「あなただってそうでしょう、パティ。」
「ワタシは別に犯罪なんかしなくても満足できマス。それから、パティと呼ばナイデ。」
「その満足って、それが犯罪であるかどうか、いちいち気にしてます?」
「気にするまでもなく、合法なコトしかしてマセン!」
「忍者の手先の癖にどの口が言うのだか。あなたは今まで殺した人数を覚えていますか?」
「それは仕事だモノ、あなたの趣味とは違いマス。」
「仕事なら違法行為も辞さないが趣味では法を守るのですか!随分と窮屈な生き方してますね!」
「大きなお世話デース。ワタシが何を趣味にしていようと自由デショ、ソレコソ。」
「それはその通り。で、そのご趣味とは何ですか?」
「ドライブとか、いい男とデートとか、ご飯食べたり、トレーニング……は趣味じゃないカナ。」
「……あなたをこの里に引き入れたのは御屋形様の判断ミスなのかなあ?
そんな健全なのが仕事出来る場所じゃないはずですが。」
「仕事とプライベートは別のペルソナデス。師匠だって仕事中に女の子解剖したりしないデショ。」
「別のペルソナでも根っこは同じだ。あなたが忍者をやれているのは、ブラジルでのバックボーンがあるからです。あなたは喜んで違法行為を行える下地がある。望んで人倫を踏みにじる心根がある。『いけないことだから』が妨げにならない行動力と衝動をお持ちだ。間違いなく。」
「勝手に想像しててクダサイ。」

そう言うパトリシアはサンパウロ市のファヴェーラを思い浮かべていた。夜、真っ暗な中緑色の瞳を光らせ、標的を探していた時のことを。
パパに『よくやったね』と言ってもらうために、ナイフを片手に歩いて。
迫って。
遂行して。
晒した。

何の呵責もなかった。愉悦もなかった。
ワタシはそれが出来る。出来てしまう。
それが当たり前ではないと知識として知ったのは10代の頃で、心から思い知ったのは20歳を過ぎてからだ。

「今日は一緒に行きましょう。夕方、また声をかけます。」

丘は立ち上がり、出て行った。
パトリシアは返事もせずうつむいていたが、上体を倒し、また寝入った。

—-

​「行きましょう。」

運転席の窓から身を乗り出す。
パトリシアは頷いて助手席に乗り込むと、バンは走り出した。
夕焼け。逆光。
バンの背は黄昏の中に揺れて溶けていった。

 

以上……。」

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