この世に知性のある限り

「液体になって死ね。

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

投獄宝物庫2

アーティファクトの紹介は続く。

「次もまた危険なものです。」

そう言って棚に置いてある透明な球体を手に取った。

「その割ニハ、ラフな保管デスネ。」

パトリシア・バランが疑問を呈すると、鳩目・ラプラース・あばたは振り向かず応えた。

「起動が難しいのです。」

鳩目は球を見つめていた。やがて瞳が様々な色に光り、明滅する。口からは極めて高い音声が途切れ途切れに発せられる。時折球体をくるくると回し、また眼を光らせ音波を発する。
そうする内に球体も少しずつ白く光りだし、鳩目の所作の度にその光を増していく。
倉庫全体が白い光に満たされたところで、鳩目は振り向き、パトリシアにそれを差し出した。

「どうぞ。」

眩しすぎて直視できない。

「どうぞと言われテモ……。」
「手を出してください。」

恐る恐る片手を差し出すと、瞼越しの光が強くなる。手のひらの内側にその球体が移動したのが分かった。

「知りたいことを念じてください。」

少し考えた後、パトリシアは一念を発する。

『鳩目・ラプラース・あばた。本名、未定義。種族、ダモクレス。年齢、未定義。
性別、女性。年齢、不明。但し生誕より27年時点で固定。異界より召喚された神の一柱。』

脳裏に差し込まれたイメージに、パトリシアは思わず目を見開いた。球体はそれを感知したのか光の量を大きく減らし、直視可能なレベルにまで落ち着いた。
鳩目が瞼を開けるのが見え、パトリシアは彼女が自分を見据えているのがわかった。

「『整理された混沌』と言います。
知りたいことを出来る限り誤解のない映像や感覚、言語で教えてくれる、辞書のようなものです。
誰にもわからないことはわからないままですが、誰かが知っていること、あるいは歴史上の事実においては正確な情報を教えてくれます。」
「ナルホド。」

それを以てしても「未定義」「不明」という感覚が流れ込んだ。目の前にいる鳩目・ラプラース・あばたは、さながら童話の中の登場人物のように、細部が存在しないアウトラインだけの存在なのだ。
納得しつつもさらなる困惑が沸き立った。目の前に確かにいるこの人物には、明確な過去が存在しない。ひとまずそれは意識の横に置き、聞くべきことを訊く。

「危険、というノハ?」
「他人の意識を余すところなく知り尽くせてしまいます。
『こいつは何を考えているのか?』と問えば、その感覚が雪崩れ込む。
何故そう考えるのか、そんな考えに行き着くような感じ方、その感じ方を形成した生まれつき、育ち、経験、記憶。あなたが納得するまでそれを教えてくれる。
経験を共有するとですね。
自分が誰だかわからなくなってしまう。」

鳩目のアイスブルーの目がちかちかと光った。

「自分の体験したものなのか、その球から伝わったものなのか。
思い出し方を間違えると、他人の記憶を自分の経験だと思い込み、自分の経験を他人の記憶だと思い込んでしまう。記憶が差し変わるということは、今の自分を形成する根本が変わるということです。少なくとも、わたしには許容できない危険性だ。」
「……ワカリマシタ。」

パトリシアが棚に手を向けると球体は自然に棚の定位置に戻り、光るのをやめた。

「起動が難しいってのハ、さっきチカチカしてた奴?」
「音波と電磁波の組み合わせなんです。
呪文に近い。」

鳩目はやはり振り向きもせず部屋の奥へと歩いていく。

「しかし呪文というのは飽くまで言葉です。音声。
つまり空気があり、かつヒトが発声可能、という極めて限定的な状況でしか機能しない。
外宇宙や異界由来のアーティファクトではヒトの可聴領域外の音がトリガーになることもあるし、そもそも音波に全く反応しないものもあります。
呪文程度で機能する魔法や魔具は、大したことがない。そんなものは求めていない。」
「いあいあはすたー。」
「外宇宙の神々は、群体として理解するのが適切でしょうね。
地球上に存在するものもいるし、宇宙をふらふら漂っているものもいる。
地球に顕現したものは地球人の有り様を知り、音声にも応える。
だからと言って、群体すべてと意思疎通ができるともコントロールできるとも思わないほうがいい。
彼らは宇宙全体のすべての虚無に存在し、繋がっている。
地球周辺の彼らをどうにかできたからと言って、他の全体に影響があるわけでない。」
「詳しいのネ。」
「宇宙の神にとって地球一つのことなど重要なはずがないと考えれば、当然の帰結です。」


部屋の奥には扉があった。鳩目が鍵を差し込み開くと、その先には星空が広がっていた。

「宇宙?」
「ラストフロアです。」

鳩目は闇の中へのしっかりと踏み出し歩いて行った。
足元の闇はきらきらと輝く粒が紛れており、その先には水晶の群れが生えている。
パトリシアも歩き出すと、足裏にじゃりじゃりとしたものを感じた。
これは踏み固められた水晶だ。星空に浮いた水晶の塊が、踏まれ割られ砂になり、結果、足場の部分だけが暗い色になっている。

「アーティファクトの紹介ハ?」
「そこの扉がそうです。」

倉庫と宇宙空間をつなぐ扉を指さして、悪びれもせずに言う。パトリシアはおめおめとついてきてしまったことを後悔し、溜息をついた。

「で、ここは何なんデスカ?」
「ラストフロアです。」
「帰りますネ。」
「すべての時の交わる場所。あらゆる宇宙の時間軸と直交かつ平行に重なる点です。
星のように見える光は、他の世界につながる穴。
……物語を読んだことはありますか?」
「そんな憐れむような目で見ないでクダサイ。童話も小説も読んでマスヨ。最近はコミックも。」
「そういう人々が『もしあの場面に自分がいたなら』と空想した結果がこれです。
『もしあの時あの場所に、超人的な力を持ち作品外部の知識を持った自分がいたならこうしたのに』。
そういう妄想が凝り固まり、この次元を必要としました。」
「イタい……。」
「同意します。しかし。」

鳩目が振り向いた。

「あらゆる物語のどんな時点にも繋がる場所。それは、『あの時ああであったなら』を叶えるために必要なものだ。
人はその人生の半分は妄想の中に過ごす。
インプットを反芻し、自分の思いを組み上げ汲み上げ捏ね上げている。
さもなくば眠って夢を見ている。
『ああであったなら』は単なる後悔ではない。『ああであったなら』と過去を思っているのは『今』だから。
だからここからはあらゆる時間に繋がるのです。『今すぐ』『去った過ち』をやり直すために。『今すぐ』『未だ来ない』エンディングを書き換えるために。」

では、今日はこの辺にしておきましょう。
鳩目が足場の斜め下へと手を差し伸べると、水晶の足場から斜め下の星まで続く階段が形成された。
どうぞと言われおずおずとパトリシアが階段の前に立つと鳩目がその尻を蹴飛ばし、パトリシアは階段を転がり落ち、芥子粒ほどの大きさになって星の光の中に落ちていった。

以上……。」

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