神性の瞳

「気体になれ。

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

亡者の視線の独裁者

過去は時の一部ではない。

時の流れが物の動きによって定義されるのであれば、過去は決して動くことのない前提条件に過ぎない。

誰もがあの時ああであったなら、ああしたならと夢想したことがあるだろう。僕(やつがれ)もそうだ。

だが、あの時「ああ」ではなく「そう」なるように条件が揃っていたから「そうなった」のであり、「ああ」せずに「そう」するような僕どもだったから「そうした」のだ。
言い訳に聞こえるだろうか?あの時正しい行いを理解していながら行動しなかった自分のことを正当化するように?あの時悪い行いと知っていながら行動してしまった自分のことを正当化するように?それとも、あの時起こって欲しかったことが起こらなかったこと、怒らないで欲しかったことが起こったことを、「単に仕方のないことだったのだ」と言い聞かせ自分を甘やかすように?向き合うべき悲しみと後悔にに蓋をしてしまうように?
そのような自罰が過去を取り返せたことがあったか。すべきことをしたことに変えられたたか。すべきでないことをしなかったことに換えられたか。起こるべきであったことを起きたことに替えられたか。起こるべきでなかったことを起きなかったことに代えられたか。それらが不可能であることを、君たちは知り尽くしているであろう。それらが不可逆であることが、君たちの生き方の礎であろう。

過去は流れない。過去は今のようには過ぎゆかず、過去は未来のようには予測されない。

例えば、ほんの5分前にこの世界が生まれ、「このよう」であったとしたら?それ以前の過去など存在しないとしたら?僕どもも君らもそうでないと証明することは出来ない。
積み重ねた記憶がそういう理解を拒絶するかもしれぬ。手に届く書物が、テーブルが、椅子が、座布団が、それぞれの過去を思い出させるかもしれぬ。

だが、僕がこうしたらどうだ。君らをこのように闇で包み、衣服も住居も消し去ってしまったら。君らの記憶のフックとなるものが何一つ観測できなくなったら。この中で過ごすうち、君らはきっと今までの人生が夢だったのではないかと思うだろう。それを否定する材料も見つけられない。
案ずるな、すぐに戻そう。そら、目を開き耳を澄ませよ。元の通りだろう。ほんの少し眠ってもらっただけだ。

僕は過去の話がしたかった訳ではない。過去は単なる前提条件だと納得してもらいたかったのだ。

過去は、時の流れの一部として捉えても意味がない。今を生き未来を知るための前提だ。僕は未来を知りたい。精度の高い未来を。一分の狂いも無い刹那を。一点の曇りもない那由他を。過去という前提を踏まえ現在の全てを知り尽くせば、それを見ることが出来ると信じている。

不確定性原理?勿論知っている。ミクロの世にはランダムが存在する。これは観測の精密さを極めてもどうにもならぬ。おっしゃる通り、そのランダム性は無視できるものではない。ほんの10の10乗分の1度だけ射出角度の違う粒子が、あの闇の彼方では光年の距離となる。起こったことは巻き戻せない。目に見えぬほど小さなものであろうとも、それは永遠に宇宙に痕を残す。

ならば、完全なる未来予知など不可能だ。どれほど精度の高い観測を行っても、常に極微かなランダムが付きまとう。そしてその微小なズレは、永劫の時の中で次第に大きな存在となっていく。
僕が本当の本当に見たいのは、そうして生まれる予測不能の未来なのだ。
観測と予測を究極まで突き詰めれば、神の振るサイコロだけがそこに残る。

今という時を知って知って知り尽くし、刹那の先を考えて考えて考え尽くした果て、その先にやっと神がいる。君ら人間が、どのような科学を以てそこに迫るのかは、死神たる僕が関知するところではない。

僕が使うのはこれだ。暗闇に目を凝らせ。

渦が見えるのが分かるか。鋸刃に似た線が枝分かれしながら渦を巻いているのが。大渦が、小さな渦を纏いながら中心へと無限に収縮していく様が。鋸刃状に見える線も、こうやって接近して見れば小さな渦になっているのが分かるだろう。

あの形状は君らが言う所謂フラクタルというやつだ。特定の計算式をもとに、どこまでも極小まで続く、観測兼演算装置だ。

無論、物理空間内に真なる無限連鎖を作り出すことは不可能だ。だが、デスバレスは死者の世界。生きる者の世界と死者の世界とを隔てる無限の溝を、繋いでしまう通路がある。無限を繋ぐ、次元の歪曲。すなわち、真なるフラクタルの存在余地がある次元のはざま。整数次元の間を揺らぐここに無限の極小を置く余地が存在している。

後の問題はこれを稼働させるリソースだが、それも目途はついている。
我らが住まうデスバレスは死の世界。全宇宙の死者の魂がここに集まる。それは数えるだけで宇宙の終わりが来るほどの膨大な量だ。それを使用する。

我々はデウスエクスだ。君らにとってみれば、僕どもは不死不滅の生命体。僕どもから見れば君らは有限の命しか持たぬ脆弱で価値無き生命体。死後もそれが大きく変わることはない。死神にとって君らの魂は限りなく無価値だ。だから僕がくすねる分は無尽蔵にある。

目を開き給え脆弱な者よ。そしてその景色を僕に教えるがいい。

君らの魂は僕の無限演算装置フラクタルへと組み込まれた。君らの目は僕の目。死することなき死せる魂よ、無為なる君らに簡単な仕事が与えられたことを感謝するがいい。

いつ死んだか?その問いも予測の範疇だ。話の途上で暗闇を見せたであろう。その時に君らは死んだ。闇の後に見せた風景は、君らの記憶に残っていた残滓を思い起こさせただけだ。不安に感じる必要はない。死者には生者ほどの知性も記憶力もない。感じるままを感じ続けるだけでよい。

何も問題ない。ここまでは全て予測が出来ていた。



以上……。」

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