存在という過ちを永遠で薄めて無にするだけの

「ボケナス。

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

怪物の想像上の怪物

二次元の世界とは厚さ0の世界。
そこに住むものは線でしか物を捉えられない。実際にはその線すら厚みが0だから、我々3次元人ではどうやっても見ることができないわけだが。
さて、その世界の上に水をこぼしてみよう。コップ一杯の水を2次元の世界に差し入れしよう。
水はどこまでも広がるだろう。厚さ0になるまでどこまでも薄まっていく。厚さ0になんてなれないから無限に広がっていく。
つまりだ。3次元世界のあらゆるものは、どんなに僅かでも、2次元においては無限大に他ならない。
ここまではOK?

「イエス。」

釈然としない顔と声。筧・次郎は不出来な生徒に肩を竦めつつ、イメージ上のことですからまあいいでしょうと妥協して話を続ける。

「さて、同じ理屈で4次元のものを3次元に突っ込んだらどうなります?
4次元人にとっては『4次元的質量0の、想像がしようがないくらいひらべったい世界』である3次元に、4次元的質量を持ち込む。そうすると?」

筧が長身をぐにゃりとまげ、生徒の目を見上げる。

「……無限に広がる?」
「イエス!」

筧が両手の指で生徒を指すと、彼女は鬱陶しげな顔でその手を払った。

「4次元に行けてしまえば、この世界など紙芝居にしか見えなくなるのですよ。
宇宙を埋め尽くす無限のエネルギーをいくらでも放り込める。それどころかページをめくるように過去も未来も閲覧できる。完璧に。勿論ページを破り捨てることだって出来ます。何しろカミにカカれた物語にしか見えないわけですから、3次元なんて。どうとでもできる。どうにでもできる。どうでもいい。」

目を見開く筧。目を逸らす生徒。

「バラン。パトリシア・バラン。あなたもそういう論理で作った。」
「ヤメテ。」
「織り込まれている。」

どくん、と心臓が重く律動した。
パトリシア・バランの魂に眠る強大なデウスエクスが、呼応したのだ。

「ヤメテ。」
「3次元生まれの我々が、4次元に至るのは本来は不可能です。
だが、不可能ならば取り除けばいい。
『魔法の不可思議な力によって可能になったのだ。』その一文で僕らには十分。」
「ヤメテ!」
「何を?何をやめればいいのです?」

にらみつけるバランの目に対し、筧の瞳は少しも動揺していない。

「あなただって、魔法を使って不可能を取り除いている。
好きなことを好きなようにしている。物理法則を取り除いて。若頭からすれば業腹モノでしょうがね、あれは潔癖なところがあるから。若頭殿も若頭殿でその不可思議に頼っている癖に。」
「アナタも。」
「僕も。何です?」
「潔癖だって言ってんノヨ。4次元に辿り着いたんならずっとそこに引きこもってりゃいいのノニ、こうしてワザワザワタシたちンとこへ降りてきてサ。人間だってことを捨てられナインじゃナイノ、バカみたい。
人殺しはヒトではない、犯罪者はヒトではナイって。神も悪魔も人間社会にしてみればただの犯罪者ダ、駆除すべき害獣ダ。
そう思ってるンデショ?今モ。」

筧は満足げに笑っている。うんうんと頷きながら。気持ちよさげに聞いている。

「アナタは、4次元からこの世界を見る神様になりたかったンじゃナイ。あなたは『ここで』怪物になりたかった。その為だけに4次元を……5次元も6次元もそのずっとずっとずーっと先も使い捨てタ。こんな!ちっぽけな!3次元の為に!
ここで!自分は凄いんダゾって!お前たちなんかどうにでもなるんダゾって!威張り散らすためダケニ!」
「その通りです♪」
「バッカみたい。」
「僕らには、語り部が必要なんです。それと聞き手が。僕らの存在を心底信じてくれる人が。神と言い換えてもいい。
誰か一人でもいい。僕らが、僕ら自身の主張する通りの僕らであることを疑わない人が。」
「どうしてヨ。誰が信じなくてもワタシたちはワタシたちデショ。アナタは、アンタたちはその自信が持てないだけの根暗ヨ。」
「礼儀ですよ。」

筧はオーバーに両手を広げて顎を引いた。上目遣いでバランを見つめあげる。

「説得力がある、って奴です。理屈でも描写でも何でもいいんですが、『ああ、こいつは確かにここにいるな』って思ってもらうのは礼儀です。
『こんな奴いるはずないだろ』とか『勝手に言ってろ』とか不快にさせるのは無礼なことです。」

突然机が大きな音を立てて陥没した。
バランが両手で叩いたのだ。同時に立ち上がる。椅子は後方に倒れて壁まで滑ってぶつかった。

「チ、ガ、ウ、デ、ショ。」

今度はバランが筧を睨み上げた。

「誰にも認められないノが、アナタが嫌だからデショ。アナタが、認められたいからデショ。強くなりたいんジャナイ。認めてもらいたいンダ。嫌われたくないンダ。
『誰が何と言おうと自分は自分だ』って言えないヨワムシ。臆病者!」
「その臆病さで、ここまで来ました♪」

筧は笑う。菩薩のように朗らかに。
バランの脳裏に誰かから聞いた言葉がよぎった。
辿り着けない場所に向かう努力は無限に可能だと。
見当違いの恨みこそ、叶うことのない望みこそ、限りない高みへ導くのだと。
当時のバランはその言葉に心から首肯したが、今は違う。
終わらない現実逃避。それが彼の正体だ。それがワタシを生み出した力の正体だ。
逃げた先だって別の現実には違いない。でも当の本人がそれを逃げた先の現実としか認めていない。だから空しいのだ。だから虚構なのだ。

「ワタシも、アナタも!」

彼女の両腕に金銀のガントレットが装着された。空っぽのケルベロスには、戦う以外の表現が存在しない。

コギト・エルゴ・スム。

バランは、己を虚像だと認めている。それでもコギト・エルゴ・スムなのだ。
筧は己を実像だと信じている。なのにコギト・エルゴ・スムと言えないのだ。
何て哀れな神の人形、と、神の人形の人形はガントレットの拳を握った。
無限濃度の無限を内包する集合体に。そう定義されただけの、東洋人の形をしたただの器に。

以上……。」

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