Burning Inquiry

「崩れろ。

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

最後から二番目の賭け

「ソレ、カラコンナノ?」

パトリシア・バランが灰野・余白(あましろ)の同心円状の瞳を指さしてのぞき込む。

「いや、これは、」
「キグーネ、ワタシもナノ。」

そう言ってパトリシアが右目に手を当て俯く。

「ホラ。」

差し出された掌には、翡翠色の瞳をした目玉が丸ごとゴロリと転がっていた。

「なんじゃ義眼じゃったのか。」

平然と応える灰野を見てパトリシアは不満そうな顔をする。

「ただの手品ヨ、ホラ。」

義眼をポケットにしまい、瞑っていた右目を開いて見せる。元通りの翡翠色の瞳をした眼球がそこにあった。

「手品か。それならうちも少しは出来るぞ。」

灰野が両手を差し出し、手をくるりと回して表にも裏にも仕掛けが無い事を見せる。
そして右手を握って親指を立て、自分の口をあてがう。そして離す。
口に当て吸って、離して。まるでタバコを呑むような仕草を繰り返すうち、なんと灰野の口から少しずつ煙が噴き出してきた。

「ワオ。」

煙の匂いは確かにタバコのそれ。煙の量が増して、ついに灰野の口いっぱいに満ちるようになると、彼女はパトリシアに得意げな流し目を向けた。右手の指をくるりと翻すと、手には火のついた煙管が握られている。

「ざっとこんなもんよ。」
「ココは歩きたばこ禁止デス。」

意趣返しか、冷たい反応を返すパトリシアに眉を顰め「つれないの。」と一言吐いてから煙管の中身を携帯灰皿に捨てた。

「丁度つきましたシ。」

アスファルトの駐車場が広く続く先にある建物には、『競艇』と大きく文字が掲げられている。
「デハ、手はず通りに。」
「ダメ元だがの。」

—–

作戦はこうだ。
灰野・余白は自他ともに認めるギャンブル下手。
ならば彼女の賭ける逆に賭ければ当たるのではないか。
如何にもわかりやすい逆張りだ。

「買いマシタ?」
「ああ。オッズの低い順から5つ。そっちは?」
「最高オッズの単勝にガッツリ!」
「オーケー、仕上げを御覧じろ、やね。」

競艇を選んだのは競馬や競輪と比較して1レースの走者が少ないためだ。
競馬は10頭を超えるレースも珍しくなく、競輪も9名まで同時に走る。対して競艇は6艇。全投票券を買うのが一番少なくて済む。
ちなみに、競艇の単勝舟券は人気が無いらしく受付窓口も少ない。その為二人は人気のない窓口に揃って並んで、対照的な舟券を何度も買うことになる。夕暮れ時には受付の中年女性が「先ほどの方が買わんかった奴やね?」と確認された。

目論見通りに行けば、ギャンブル下手な灰野の買った舟券はすべて外れ、パトリシアの買った高オッズの舟券が的中することになる。
さて、12Rを終えた結果どうなることか。

—-
「確かに。」
「ハイ。」

灰野は手渡された札を数えて頷き、財布に仕舞い込んだ。

「そうデスカ。そうなりマシタカ。」

結果は、ほぼ灰野的中。それもオッズの低い本命、対抗ばかり。要するにこれ以上ないほど「順当な結果」に終わっただけなのだが、トータルでは大損害である。作戦立案者のパトリシアが責任を取って灰野の損失を補填したというわけだ。

「自分で言うのも何やけど。」

苦笑いしながら灰野が口を開いた。

「賭け事が弱い、言うんは見当違いの見当を立ててしまうことだと思うんよ。
運とか流れとかやない。大事なところが大事な場面で見えとらん。
 見当違いの逆張りは逆でも何でもない、明後日の方向じゃな。当たる訳が無い。」
「お付き合い頂いてアリガトウゴザイマシタ。」

けらけらと笑う灰野にパトリシアは深々と頭を下げた。

「ワタシがアサハカだったのダワ。」
「ええよええよ楽しかったし、曲がりなりにも当たりはした訳じゃから。」
「しかしワタシは大損デス。」

パトリシアの買った舟券は当たらなかった。12R一度も、掠りすらしなかった。
大穴狙いなのだから当然と言えば当然だが、今日一日の収支、気分という意味ではこのままヤサに帰るのは何とも収まりがよろしくない。

「お詫びに、麻雀シマセン?」
「お、ええよ?やろうやろう!」

ギャンブル下手な灰野が唯一取り柄とする賭け事、それが麻雀。
異能力の技にも麻雀由来の名前をつけるほど、灰野にとって麻雀は好みで得意なゲームだ。

「ではシバシ。」

パトリシアが携帯電話を手にし、ダイヤルして二言三言ほど交わす。通話を終えると電話をポケットにしまいながら灰野に振り返った。

「OK。行きマショウ。」

日が落ちて、暗い朱色が染める街を褐色のサキュバスと色白の地球人が歩いていく。かつかつとそれぞれの女らしい靴音を立てて。

—-

着いた先はマンションの高層階の一室。

「ハァイ♪」
「ども姐さん。」

女二人を禿げ上がった中年男が出迎えた。背が低く、紺色のエプロンにはコーヒーを散らしたらしい茶色のシミがいくつか散っている。
二人分、とパトリシアが4千円を渡すと、男は頭を下げてソファを指した。

「今は人数が揃ってませんで。3人ならすぐ打てるんですが。」

パトリシアの顔が凍り付いた。
動きを止めたパトリシアを見て、目線の先を覗き込んだ灰野も動きを止めた。

全身モザイクの白い男がそこに座っていたからだ。

「ああ、どうもバラン♪久しぶりです。」

モザイクが喋った。バランは「キグーですね」と乾いた笑顔で返すしかない。

(どういうことじゃ!ドリームイーターやないか!)

灰野が耳元で警告するが返す言葉もない。
魂の欠損がモザイクで表現されてしまう『敵性不死存在(デウスエクス)』ドリームイーター。それも彼(?)は、公式記録では撃破されたことになっている個体である。
それがマンション麻雀の一室にいる。撃破した当人、パトリシア・バランと同じ部屋に。

「話せば長くなるんダケド……。」
「三人で打ちます?」

白い男がパトリシアの言葉を遮った。
パトリシアは灰野と、そして部屋主の顔に目線を走らせる。

「三人打ちでいいなら、問題ありませんよ。」

そうじゃねえダロ!
家主の言葉にパトリシアは内心で毒づきながら卓に向かってのろのろと歩き出した。
対照的に灰野は嬉々として卓に就く。相手が何であれ麻雀が打てるのだ。こんなに嬉しいことはない。勿論デウスエクスは打ち倒すべき敵だが、今は切った張ったをする気はないらしいし、ドリームイーターの打ち筋も興味深い。
そもそも眼前のドリームイーター、個体名「カラーレスクリミナル」は記録によればケルベロス8人がかりでようやく討伐成しえた強敵である。もしも今この場にいるドリームイーターが同一の個体であるならば、同室にいる時点で逃げることも困難であろう。そんな存在が殺し合いではなく麻雀で勝負してくれるというなら応じた方がまだ命を長らえる確率が高い。

三人三様卓に就き、白いドリームイーターがサイコロのボタンを押したところで入り口のドアが開く音がした。入ってきたのは黒いジャケットに黒い服、黒髪の東洋人。
部屋主は「ちょうど一人分空いてます」とパトリシアのいる卓を案内する。
その途端、パトリシアの右ポケットが激しく震えた。

「チョット失礼。」

化粧室に小走りで駆け込むと、引き出した電話に応答する。

「モシモシ?」
『わたくしです、バラン。今すぐその場から離れなさい。』
「御屋形様?どういうコトデス?」
『今雀荘に黒づくめの男が来たでしょう。あいつと勝負してはなりません。』
「何で知ってるんデスカ?!」
『あなたの一挙手一投足は全て我が手の内です。そんなことはどうでもよろしい。あれと対峙してはなりません。今すぐ逃げなさい。』
「よく意味がワカラナインデスケド。」
『あれは一応ドリームイーターに属します。が、実際には翻訳された神に等しい。
およそ麻雀での勝負では決して負ける事の無い、神に近い存在です。
悪魔、超人、人鬼(ひとおに)。あなたは今日仕事の金を集金したでしょう。それを狙って来たのですよ。』

「……『大師匠』もいますガ、どうしますカ。」

んっ、と息を飲む音が電話越しに聞こえる。
10秒ほどの沈黙。風の音、虫の声。そして、流石は破壊神だ、と独り言つ小さな声が聞こえた。その後に、ゆっくりと、力強い声が返答した。

『半荘で逃げなさい。或いは、手持ちが空になったら素直にパンクしたからやめると言いなさい。』
「そんなにヤバイんデスカ?」
『……。
 あなたがわたくしに殴り合いを挑むほどには無謀です。』

その言葉を聞き終わる前にパトリシアは通話を切った。

「やってやろうじゃナイノ……。」

彼女のボスは言葉を誤った。御屋形様の言葉は、パトリシアの闘争心に火をつけてしまった。

化粧室から出てきたパトリシアは、待たせた、と一言いいながら、灰野にしか見えない角度で片手の指をぎゅりぎゅりと動かした。灰野はそれを見て微笑む。なるほど、裏技を使うのじゃな。

「スミマセン、待たせてしまって。ワタシ、パトリシア・バランと言いマス。ケルベロスをやってマス。」
「傀(かい)、と呼ばれています。」

黒い男は強気の瞳のまま口元だけで笑い、白いドリームイーターは背筋を振るわせて喜びを表現した。

—-

「パンク終了ですね。それでは失礼します。」

卓上の札束を掴んで袋に仕舞い込み、黒服は出て行った。
白い男とパトリシアは卓に突っ伏し、灰野はケラケラと笑っていた。
黒い男の誘導で、途中から趨勢は決まっていた。白い男とパトリシアの手持ちの金を搾り取る。それを察した灰野は逆らわずにその流れに乗り、生贄から毟るだけ毟り取った。黒い男の機嫌を損ねない程度に。

「やっぱり麻雀だけは得意みたいじゃな、うち♪」

灰野の煙管は長く細く、美しい煙を吹いた。

以上……。」

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