親の言うことだから聞きたくない

「お前が正論を言うたびにその全てが間違いになる世界になれ。

こんばんは鳩です……。

……妄想ケルベロスブレイド……。

誰も生から逃れられない

​ふと思い立って、棚の中で埃をかぶっていたプラスチックボトルを取り出して中の錠剤を一気に喉へ流し込んだ。
錠剤の塊がざりざりと食道を掠りながら進み、胃の腑へぼとんと落ちる。片手をシンクにつき、5分ばかりじっとしていたが、特に何も起こらない。
ケルベロスであるパトリシア・バランには、最早如何なる毒も通用しない。
ケルベロスと呼ばれる異能者は、およそ人の死因となり得る如何なる暴虐も受け付けない。飢えず、乾かず、窒息せず、焼けず凍らず傷つかない。
通じるのは『グラビティ』と呼ばれる一種の魔術的効果が籠った害のみ。
パトリシアの先ほどの行為は、単なるその確認というだけだ。
ケルベロスがこの地球に出現し始めたのは、ほんの50年程前。
単に不死というだけならデウスエクスと呼ばれる不老不死の外宇宙侵略勢力が存在していたが、このケルベロスは地球に住まう者の中から突拍子もなく発生する。
50年如きでは、『ケルベロスはどう生きるべきか』などという倫理も確立しえない。ケルベロスは誰もが、自らの生と不死について独自に個別に折り合いをつけなければいけない。
デウスエクスならば、ケルベロスを殺しうる。彼らは『グラビティ』を扱えるからだ。
ケルベロス自身もケルベロスを殺しうる。ケルベロスもまた『グラビティ』を扱う異能者であるからだ。
ケルベロスの自死はどうあっても凄惨になるほかはない。ケルベロスは単に不死というだけでなく、肉体が頑丈だからだ。
生半可な『グラビティ』では、単に痛いだけで致死にならない。
ケルベロスは手足がちぎれようと臓腑が抉れようと、休息をとれば元に戻る。ケルベロス自身にさえ、どのくらい傷つけば確実に死ねるのかは分からない。
だから、どうしても過剰な暴力に身を曝すほかは無いのだ。
それは一般人が列車の質量に身を委ねることに似ている。
轢断され、傷口も潰れ、飛び散った肉体は繋がる目途もない。そのぐらい圧倒的な『グラビティ』を食らわされなければ、確実には死ねない。

……いや、言ってしまおう。
ケルベロスには、自死する能力がない。
ケルベロスが不死なのは、肉体が頑丈だからとか損傷を無意味化するからとかそんな理由では本当は無い。

ケルベロスの死を決められるのは、組織だけだからだ。
造物主、創世の神とも呼ぶべき彼らだけだからだ。
一旦生まれたケルベロスは、彼らに死を決定されない限り決して死ぬことができない。
死にたいケルベロスは、組織の目の届く範囲内で、無謀な作戦に飛び込んでどうか死ねますようにと祈るしかないのだ。自らのグラビティで自分の心臓を抉っても、『そんなことは行われなかった』と組織が決定すればそうなる。
だから、より厳密にいうのであれば、ケルベロスは不死というよりは不生というべきだ。アンデッドではなくノーライフ。そもそも生きていない。自律機械と同じ。
『これ以上は修復不可能である』『電源を切る』そのような判断が出来るのは機械の持ち主だけだ。機械自身には、自らを止めることは出来ない。動かないことは出来ても、不可逆な故障は自らの力では決して行えない。
パトリシアはつまり、先ほど自分の不生を確認したのだ。

わたしはここにいる。確かにここにいる。死のうと思って死ねなくて腹を立てるだけの知性がある。本当に死のうなんて微塵も思っていなかったということを自覚するだけの思考力がある。
それでもわたしはノーライフなのか。
胃の腑にはもう薬の重みは残っていない。消化されるなりしたのだろう、『ケルベロスを傷つけ得るものは無い』というルールに従って。

わたしは生きている。わたしは感じられる。わたしはケルベロスの有様を憎むことが出来る。だがもしこれが『生』なのだとしたら、わたしの死は、いつどのように訪れるのだ。組織がわたしの死を決定しないまま解散したら。ケルベロスの管理を放棄したら。
わたしは永遠に死ねない事が決定する。
死にたい訳ではない。死なないという約束が確定することが恐ろしいのだ。
組織が地上を去ったとき、わたしはその時、活動を停止し、しかし心臓は鼓動したままだろう。誰にもこの命がなくなったこともなくならなかったこともわからない。自分自身でも決定できない。その状態で凍結する。訪れるのは死ではなく眠り。それがどういう状態なのか、想像することもできない。
組織はいつか去るだろう。彼らもまた人間なのだから。彼らこそが人間なのだから。
ならわたしは?わたしは何だ?
ケルベロスが人間の玩具なら、人間に似た人格など初めから持たせなければよかったのに。

それでも生きていくしかない。死ぬことにさえ不自由する玩具の身では。

もしも、確実に死ぬ方法が見つかったなら。わたしは嬉々としてそれを行うだろう。全てのケルベロスに喧伝するだろう。死のう、死のう!確実な死!そうしなければ、生きているとすら言えないんだぞ!
誰もがわたしを指さして狂っていると言うだろう。笑ってしまう。わたしは狂っている。確かに楽しく生きているのに、死ねるとわかった途端何故死ななければならないんだ。

死にたい訳じゃない。
死にたい訳ではないのだ。

死ねる生であると、確認しないと不安なだけなんだ。
仲間たちにも死ねる生だと胸を張って言ってやりたいだけなんだ。

そして幸運にも組織に死を与えられたケルベロスが、少し羨ましいと。言いたいだけなんだ。

 

以上……。」

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